先日のニュースで発表いたしました通り、今年度から新たに開始する東南アジアテックハブシリーズ第1回目の今回は、世界最小の都市国家でありながら、同地域で最も多くのユニコーンが誕生しているシンガポールに焦点を当て、日本企業との連携への可能性を探ります。
ここ数年、コラボレーションや投資の面で、日本とシンガポールの間に強い相乗効果が見られるようになりました。これは、日本がシンガポールのスタートアップ企業にとって国際化の目的地としてますます人気を集めている一方で、多くの日本企業が東南アジア地域のゲートウェイとしてシンガポールにイノベーションを求めているためです。 シンガポール南洋理工大学(NTU)の科学研究の商業化とスタートアップのインキュベーションを担い、地元のテックエコシステムに欠かせない存在となっているNTUitiveのCEO、David Toh氏もこの点を強く強調しています。今回、弊社がNTUに行ったインタビューの中で、Toh氏は「日本はシンガポールの長年にわたる緊密なパートナーであり、特に人的資本集約型の国である両国の間には多くの相乗効果がある。」と述べています。
数字で見るシンガポールエコシステム
世界132ヶ国中、7番目に革新的な経済圏とされるシンガポールは、人工知能、医療技術、機械学習からロボティクス、ブロックチェーン技術に至るまで、あらゆる新技術のホットスポットとなっています。2015年にはたった168社しかなかったスタートアップが、現在では4,000社を超えている点からも、その活気あるエコシステムが驚異的な成長を遂げていることが伺えます。 昨年だけで、シンガポールのスタートアップは97.9億ドルを調達し、そのディール数は554件を記録しました。また、主にフィンテック、ヘルステック、Eコマース、ゲームなどの分野から輩出してきたユニコーン数は、東南アジアで最も多く、アジアでも中国、インド、韓国に次いで4番目に多いとされています。
都市国家の強みを生かす政府主導のディープテック支援
シンガポールのテックエコシステムは、政府の長期的なプログラム、技術者や起業家の才能、そして過去10年間のセクターに特化したインキュベーターやアクセラレーターによって強化されてきました。これらの要素は、ディープテックの開発環境とインフラを提供する上で重要であるだけでなく、シンガポールやその近隣諸国でのビジネス拡大やソリューション開発を目指す起業家にとっても魅力的です。 研究・イノベーション・企業(RIE)5ヶ年計画など、過去数十年にわたる一連の継続的な政府の取り組みにより、2022年は第三四半期まででディープテックへの投資が急増し、その資金調達総額は16.4億ドル(前年同期比で91%増)に達しました。これは、その総額が初めて、10億ドルの大台を超えたことも意味しています。ディープテック内の主要セクターには、ヘルステック(4.3億ドル)、グリーンテック(2.5億ドル)、フードテック(1億ドル)などが含まれます。
様々なステークホルダーに支えられたエコシステム
シンガポール政府は、各大学、190のアクセラレーター/インキュベーター、200以上の国際的な投資家を含むプレーヤーと緊密に連携し、資金調達、メンターシップ、人材確保などのサポートを提供しています。 ダイナミックな投資シーンでは、2022年に4年連続で最も活発な国有投資家に選出されたGIC と、同ランキングで4位につけた Temasekの2つの政府系ファンドが活発に活動している一方、国内大学には研究開発施設、インフラ整備や商業化の指導を行うリエゾンオフィスも充実しています。例えば、シンガポール国立大学(NUS)内にあるTemasek Life Sciences Acceleratorは、破壊的な生命科学のイノベーションを創出・育成し、初期段階の企業に育てあげることを目的としたアグリバイオ科学技術専門のインキュベーターです。 またToh氏が率いるNTUitiveも、技術開発と起業家に適したエコシステムの構築を目標に設立され、ディープテックにおいて、科学的イノベーションを国内外の社会的・経済的ニーズにより良く反映させることに注力しています。同社のポートフォリオであるEndoMaster、Aevice Health、Eureka Roboticsなどは、日本の投資家からも支援を受けており、資金調達だけでなく、日本市場へのアクセスと、新たな市場開拓の機会を得ています。
国際的なスケールアップの必要性
Toh氏は、「都市国家であるシンガポールでは、そのコンパクトな規模と、同国の強みとして知られるビジネスの効率性を組み合わせることで、新しいビジネスが迅速に誕生する環境が存在している」一方で、「シンガポールのスタートアップは、国内市場が小さいため、その事業規模の拡大が難しい環境にある」と述べています。その結果、多くの企業が日本、中国、米国、その他東南アジアなどへの海外市場への進出を積極的に模索しています。この状況を見て、Enterprise Singaporeも、地元企業の成長を加速するため、2023年以降、海外進出の取り組みをさらに促進する予定です。
双方向に見られる日本との高いシナジー
ここ数年で、先述した主要分野において、日本とシンガポールの間で双方向の強い関心が見受けられます。 まず、日本はシンガポールのスタートアップにとって、国際化の目的地として人気が高まっています。例えば、食品廃棄物やロスを再利用し、日本企業のSDGsへの貢献を支援するフードテックCRUST groupや、野球やソフトボールの打撃・投球データを計測・分析するためのコンピュータビジョンと高性能レーダーによる3Dトラッキングシステムを開発するRapsodoが、現地企業との関係強化を目的に日本での事業を立ち上げています。 一方、多くの日本企業が、日本と東南アジアのゲートウェイとして、シンガポールにイノベーションを求めています。日本の大手企業が、東南アジアのスタートアップと共同で革新的なソリューションを生み出し、自社の課題に取り組む「日ASEAN共創ファストトラック・イニシアティブ」が、2023年にシンガポールから開始されることが、それを物語っているのではないでしょうか。本イニシアティブには、竹中工務店、伊藤忠商事、パナソニックなどの企業が参加しています。
また、2019年にはJR東日本が、シンガポールにコワーキングスペースを開設しました。これにより、シンガポールに進出する日本企業がローカルエコシステムについて理解を深める機会に加え、現地企業が日本市場に関する洞察を得たり、コミュニティ内のつながりを活用する場を提供することで、日本企業とシンガポール企業のコミュニティ構築支援の実現を目指しています。 さらに、シンガポールが持つデジタル技術の強さは、デジタルトランスフォーメーションを追求する多くの日本企業も惹きつけてきました。最近では、三菱電機が製造業、建設業、物流業などの業務効率を向上させるサービス管理ソフトウェアを開発するFTV Labs Pteに出資した一方、昨年にはNTUitiveとSBIホールディングスが共同で、東南アジアのデジタル技術やデジタルプラットフォーム企業に特化したベンチャーキャピタルファンドを立ち上げています。
最後に、、、
シンガポールは、政府による長期的な支援、東南アジア諸国との確立されたネットワーク、国際展開への積極的な姿勢により、イノベーションホットスポットとして急成長しています。 市場規模、若い人口構成、デジタルインフラなどにより日本企業にとって魅力的な市場である東南アジアにおいて、日本企業との協業を希望するシンガポール企業とともにイノベーションを創出することで、両地域の人々に恩恵をもたらす革新的なビジネス・ソリューションをスムーズに構築することができるかもしれません。 また、デジタル技術の強さは様々な産業に応用できます。シンガポール企業とデジタルトランスフォーメーション戦略を推進することは、結果として持続可能なビジネスの構築にもつながるため、多くの日本企業に適切なアイデアであると言えるでしょう。 これらを鑑みて、イントラリンクは、シンガポールと日本の間には強いシナジーが存在し、さらなるイノベーションをともに生み出す可能性を秘めていると確信しています。今後、さらにこのようなイノベーション活動や投資機会が増えていくことを期待しながら、両国のテクノロジーの架け橋として、現地からサポートを提供することを楽しみにしています。
NTUitiveについて
NTUitive Pte Ltd(NTUitive)は、シンガポール南洋理工大学(NTUシンガポール)の完全子会社のイノベーション・エンタープライズ組織である。NTUitiveは、同大学の知的財産を管理し、イノベーションの促進や起業家精神を支援し、研究の商業化の加速に努める。