シリーズ2回目となる今回は、電子機器受託製造をベースに世界中の大企業がイノベーションを模索する地となっている台湾に焦点を当てています。台湾は、知的財産と設計著作権に対する強い尊重意識を持つ上、初期段階から海外志向が強い企業が多く、物理的及び文化的な近さによるビジネスのしやすさも加えて考慮すると、海外イノベーション連携の経験が少ない、またはこれから注力していきたい日本企業にとって、足掛かりとなりうる地域の一つです。 弊社は、SOSV傘下のモバイル技術に特化したアクセラレーターであるMOXと、台湾エコシステムの成長をサポートするTaiwan Tech Arenaの2社と対談を行い、現地の専門家がみる同エコシステムの強みについて話を伺ってきました。
戦略的立地と複雑な背景から成り立つ台湾
中国、東南アジア、及び日本の間に位置する台湾は、その恵まれた立地により戦略的な貿易と軍事の前哨基地となり、1600年代のオランダの占領を皮切りに、ポルトガル、スペイン、そして日本と様々な国から干渉を受けてきました。台湾は、北に位置する首都台北から南の高雄まで電車でたった1時間半で移動可能な小さな島であるものの、2020年のIMFの発表によると、世界で56位となる2350万人の人口が、20位に及ぶ6,110億ドルのGDPを生み出しています。パンデミックへの対応においても、当局のデジタル担当政務委員(閣僚級)であるオードリー・タン(唐鳳)氏の主導のもと、デジタルフェンスやデジタル化されたマスク在庫マップの使用など、イノベーションと最新技術の活用に成功しました。
輸出産業の発展に由来する高度なOEM・ODM事業
電子機器受託製造に深く根を下ろす台湾は、その強力なエンジニアリング力と知的財産に対する尊重意識を基盤に、高度な製造とロボット、IoT、電子機器、AI、ビッグデータなどが繁栄するエコシステムの発展を促進してきました。 台湾は天然資源が限られる島であることから、日本と同様に輸出に大きく依存し、70年台には繊維・履物製品を中心にグローバル市場に進出を果たしました。靴の受託生産世界最大手となるPou Chenは、Nike、Adidas、Puma、ASICSなど大手ブランドの靴を今も生産しています。また80年台のテクノロジーブームにより、今やグローバル超大手企業の製品生産を請け負う電子機器のFoxconn(鴻海精密工業)、Quanta、Compal、Wistron、Inventec、Pegatron、さらに半導体のTSMC、UMC、MediaTekなどが台頭した結果、台湾は現在パーソナルコンピュータの75%、液晶画面の50%、半導体の25%、スマートフォンの20%を世界的に製造するまでの規模に成長し、世界をリードする数多くのOEM及びODMメーカーを輩出しています。
コーポレートイノベーションの中心地
アーリーステージ企業向け資金調達情報プラットフォームのFINDITと、台湾経済研究院が2019年に作成した台湾スタートアップへの投資状況に関するレポートでは、過去5年間に海外投資家が関わった投資案件はたった14%である一方、戦略的投資であるCVCからの出資が全体の半分以上となる52%を占めると発表されています。また英調査会社のClarivate Analyticsが発表したグローバルイノベータートップ100でも、コーポレートイノベーションにおいて、台湾とドイツが同じレベルにあるとしています。 先に述べたように、台湾のOEM・ODMメーカーの成功は、知的財産とデザインの所有権の尊重に起因しています。多くの海外企業が中国製造業者によるIPの窃盗・侵害や米中間の貿易摩擦を警戒しているため、台湾企業は国際的なビジネスの信頼に基づいて経済を構築してきました。その結果、台湾はGoogleのアジア最大R&Dセンター、MicrosoftのAI特化型R&Dセンター、スマートアプライアンス向けのAmazonのスマート家電用共同イノベーションセンター、IBMのクラウドコンピューティング、AI、ブロックチェーンR&Dセンターなどを設立するトップテクノロジー企業を引き付けることに成功しました。加えて、同様の理由で中国での生産拠点を台湾に戻す台湾企業の増加を受け、その流れを加速させるために当局が『台湾企業の帰郷を歓迎するプロジェクト』を立ち上げ、様々な優遇政策を施すことでさらなる投資を呼び込み、その額は2019年だけで154社から230億ドルに達したと言われています。
現地エコシステム従事者が語る台湾の強み
弊社は今回、SOSVのGeneral Partner兼MOX のManaging Director を務めるWilliam Bao Bean氏と対談を行いました。MOXは、世界で200社以上のパートナー企業を持つSOSV傘下のモバイル技術に特化したアクセラレーターです。台湾の強みについて、William氏は「スタートアップにとっての台湾の主な利点は、アジアで1ドルあたりの生産性が最も高い、高品質の国際的な人材プールです。AI、ディープテック、ロボットなどのハードウェア、ブロックチェーンに精通した技術的な才能を見つけるのは難しいことではありません。」と述べています。
また前FINDIT編集者で、現在は当局が出資してスタートアップだけでなく、Acer、Compal、Wistron、Microsoft、ARMなどのパートナー企業やMOX、SparkLabs、Garage+、BE+、TechStarsなどのアクセラレーターに活動スペースを提供するTaiwan Tech Arenaに従事するBrian Chen氏は、台湾が得意とするテック分野について以下のように述べています。「台湾発のスタートアップは、エレクトロニクス、医療技術、エンタープライズサービス、IoTに強いと言えます。彼らは技術的に優れているだけでなく、台湾のローカル市場の規模が限られているため、常に世界進出を目指しています。つまり、早い段階で国際的な才能を発揮し、世界中のAI、IoT、ブロックチェーンのような最先端技術に関する研究の成果につながる傾向があります。」
政府の取り組みから誕生したユニコーン
また当局主導の取り組みも重要な役割を担っています。National Development Fundが設置したBusiness Angel Investment Programでは、金銭利益の獲得よりも比較的リスクの高いスタートアップを支援し、スタートアップへの投資メカニズムの確立を目指すことを目的としており、参加するエンジェル投資家は出資した各スタートアップを導くために最低1名のメンターを提供しなければなりません。NDFは2017年の設立以来、130を超える企業に出資し、ハードウェアとAIにおける台湾の強みを強調する2つのユニコーンを輩出してきました。 住友商事をはじめとする企業から約3億ドルの投資を受けたシリーズCで、2017年にユニコーン入りを果たしたスマート(電動)スクーターのGogoroは、交換可能なモジュラーバッテリーを備えたGogoro Energy Networkを武器に、月額プランでYamaha、Aeon、PGOなどGogoroブランドではないスクーターにも適用可能なサービスを提供しています。一方、2019年にユニコーンとなったAppierは、ソフトバンクが出資する英ケンブリッジ のARMからの投資を受け、マーケティングと広告配置の意思決定にAIを使用し、キャンペーンの効果を最適化及び測定するマーケティングツールを開発しています。
最後に、、、
台湾は、強い電子機器受託製造産業からの恩恵と、そこから派生する知的財産と設計著作権に対する強い尊重だけでなく、製造と研究開発の規模が改善されたことで、TSMCやFoxconnなどの世界的リーダーと呼べる企業を輩出してきました。その結果、多くの海外大企業がR&Dイノベーションのために台湾のODMに依存し、電子機器のハードウェアだけでなく、ソフトウェアやサービスに関しても強力なローカル人材プールを活用しています。そのため、台湾のエコシステムは、エレクトロニクス、ロボット、IoT、AI、エンタープライズサービスなどの分野に注目している日本企業に最適です。 また台湾のスタートアップは本質的に国内市場が小さいため、中国と比較しても、海外への拡大とパートナーシップに対して非常にオープンです。加えて、台湾では近年、日本が市場拡大と資金調達の主要なターゲットとして優先・重要視されているだけでなく、米中の貿易摩擦と緊張により、日本と台湾間の提携機会増加への期待がさらに高まる可能性も否定できません。逆に日本企業にとっても、台湾は物理的な距離だけでなく文化的にも非常に近く、ビジネスや移動のしやすさを考慮すると、海外イノベーション連携の経験が多くない企業や、これから注力していきたいと考えている企業にとって、足掛かりとなりうる場所と言えるかもしれません。台湾のエコシステムにご興味がございましたら、ぜひinfo@intralink.co.jpまでお声掛けください。 著者について Emma Hsuは、台湾出身、カナダ育ちの中英バイリンガルで、10年間カナダで就労していた経験がある。現在はイントラリンク上海オフィスで、オープンイノベーショングループのプログラムマネージャーとして活躍している。