北米テックハブシリーズの第4回目は、世界的大企業が集結し、クラウドコンピューティングを筆頭に、AIやライフサイエンスとともに米国で最も急速に活発化している都市とも言われるシアトルを特集します。今回は、Spring Rock VenturesでManaging Directorを務める Eric Bell氏と、New Tech Northwestの創設者兼CEOであるBrett Greene氏に、その特徴についても伺ってきました。
シアトル独自のテック系エコシステム
シアトルは長年、米国における企業イノベーションの中心地の一つと考えられてきました。そんな中、パンデミック中に2%以上も人口が増加したことを理由に、国内で最も急速に拡大する都市と知られるようになり、最近は起業家を中心としたイノベーションの中心地としても注目を集めています。実際にStartup Genomeの調査では、グローバルスタートアップエコシステムの第9位に、またCBREの調査でも新興ライフサイエンス市場の第1位に選出されています。 シアトルのエコシステムには、その成長を支えるユニークな特徴があると言われています。その理由として、Bell氏はクラウドサービスを挙げています。「市内にはクラウドが駆け巡っています。AWSとAzureが本拠地を構え、そのクラウドサービスがエコシステムの根本的形成に貢献し、シアトル独自のエコシステムを構築してきました。そして、今後もその役割を果たしていくことが期待されています。」 またクラウドサービスへの需要の高さから、同ハブでは多くのエンジニアが必要とされています。Green氏も「一人当たりの博士号や修士号取得数が高いシアトルは、最も知的な都市の一つとしてランク付けされることが多く、エンジニア数がシリコンバレーのほぼ同数に匹敵するというのは単なる偶然ではありません。」と説明しています。
企業とのつながりによる強み
一方、Microsoft、Amazon、Starbucks、Boeingなど、シアトルに本社を置く大企業のプレゼンスもその繁栄に大きく貢献しています。Bell氏によると、シアトルはNordstrom、Costco、T-Mobileなどと地域的な提携を結び、顧客体験に焦点を当てるという特徴を持っており、これが地域内のスタートアップの先例となっていると言います。 また、シアトルの強みは経験豊富な経営者が多い事にもあります。Greene氏は、「スタートアップは大卒者によって設立されるという考え方が多い中、シアトルは強力な企業プレゼンスのおかげで、幅広い人脈による高い成功率を誇る経験豊富な創業者を数多く輩出してきました。」とする上、Bell氏も「90年代後半からの第一世代のスピンアウトはMicrosoftから、そして2000年代初頭から出現したWeb2.0も、スタートアップエコシステムに多くの経験豊富な経営者を生み出しました。」と付け加えています。 そして、シアトル地域には多くの企業資金が投入されていることから、Facebook、Adobe、Apple、Airbnbなど複数の大手テック企業もエンジニアリングハブを設立しています。
クラウドコンピューティングとAIが中心となる強力セクター
このシアトルエコシステムは、Bell氏が先に述べたようにAwsとAzureをはじめとするクラウドサービスがその根本的な軸となり、繁栄してきました。 グローバルシェア33.8%と圧倒的な存在感を持つAwsなど、クラウドコンピューティングと消費者体験のつなぐ企業は、新しい波を象徴しています。シアトルに本社を置くTableauもその好例です。「彼らはスケーラブルで、消費者に簡単にアクセスできる方法でデータを提供してきました。」とBell氏は言います。 一方、シアトル企業は、そのクラウドコンピューティングの強みを活かして、AI能力も強化しています。クラウドコンピューティングは、AIシステムがより効果的に動作するために必要とする大量のデータをより効率的に、より安く、より効果的に保存することを可能にしました。例えば、AnswerIQでは、AIアルゴリズムとクラウドコンピューティングを利用して、カスタマーサポートチームが問い合わせに迅速かつ正確に対応できるよう支援しています。これは、カスタマーサポートの担当者と顧客の間で交わされた過去のやりとりをアルゴリズムで読み取り、より深く理解することで、顧客体験を向上させることを目的としています。 シアトルがこの分野で近年成功を収めているもう一つの理由は、ワシントン大学のコンピュータサイエンスプログラムに多額の資金が投入されている点に起因しています。2017年にMicrosoftの共同創業者であるPaul Allen氏は、4,000万ドルをワシントン大学コンピュータサイエンス&エンジニアリング学部に寄付し、10万平方フィートの「Global Innovation Exchange」の新設に貢献しました。また、Bill Gates氏も過去3年間で合計5億ドル近くをワシントン大学に寄付しています。
大型組織の支えにより、ライフサイエンスも飛躍
2017年には、ワシントン大学から1,200人以上の生物学の卒業生が輩出されるなど、シアトルではライフサイエンスも成長分野として掲げられています。同ハブは、革新的な企業が活用できるスペースを大規模に提供するライフサイエンス・キャンパスを開発することで、市内インフラを強化する努力をしてきました。このような努力により、新規免疫療法開発のJuno Therapeuticsが90億ドルでCalgeneに買収された件に見られる通り、シアトルは自然免疫調節などの特定技術で大幅な進歩を遂げてきました。 また、デジタルヘルスも成長を続けており、Bell氏は「シアトルはデジタルヘルス分野で優位性を持っています。AIの応用に加え、NIH(アメリカ国立衛生研究所)の助成金を全米2番目の規模で給付され、重要なヘルスセンターが密集していることもあり、新たな価値創造の機会を多く提供しています。」と述べています。成功事例のうち、例えば、患者が医師とテキストチャットで会話できる遠隔医療プラットフォームの98Point6は、ユーザー数が35万人から300万人まで増加したと言います。
最後に、、、
シアトルは、北米最大規模のテックエコシステムとして大いに成長していると言えるでしょう。既にMicrosoft、Amazon、Starbucks、Boeingなどの大手企業が存在するシアトルは、海外大手企業が北米エコシステムに参入するための魅力的な目的地であると同時に、経験豊富な経営者が率いるスタートアップ企業の波を生み出していることも間違いありません。そして、近年のデジタルエコシステムで重要な鍵となるクラウドコンピューティングにおいて主導的な地位を占めているシアトルから、さらに多くの関連テック企業が誕生することが期待されます。またそれだけにとどまらず、AIやライフサイエンス分野でも手強い存在であることも証明しています。 シアトルエコシステムへのご関心をお持ちの方は、ぜひ イントラリンクまでお声掛けください。
SpringRock Venturesについて SpringRockは、重要な問題を破壊的な方法で解決する起業家チームに資金を提供し、特にデジタルヘルス、サービス、オーラルヘルス、SaaS、ヘルスケアのコンシューマライゼーション/eコマース、IT、その他ヘルス全般にフォーカスしている。また同社は、アーリーからレイトステージまでの企業に、1社につき200万ドルから600万ドルを投資する。現在はワシントン州シアトルを拠点とするが、投資先は北米全域に広がっている。
Eric Bell 氏について SpringRock Venturesの最高経営責任者のEric Bell は、これまでのキャリアを通じて、ライフサイエンス企業がイノベーションを商業化に結びつけるための支援を行ってきた。代表的な投資先には、Illumina (ILMN)、Rosetta Inpharmatics (RSTA - MRK が買収)、Vascular Solutions (VASC)、HemoSense (HEM が IMA が買収)、SignalSoft (SGSF)、C-SATS (JNJ が買収)、Artemis Medical (JNJ が買収)などがある。
New Tech Northwestについて New Tech Northwestは、世界第9位のスタートアップ市場、また第2位の技術人材市場であるシアトルや、同ランキングで第16位であるポートランドをはじめとする太平洋岸北西部の技術組織や企業を結びつけるハブとして活動している。そしてAI、クラウド、IoT、eコマース、ロボット工学、VRなどの専門家を抱え、ダイナミックなエコシステム構築に貢献している。
Brett Greene氏について 受賞歴のあるエコシステムビルダー。ユニークな経歴の持ち主であるGreene氏は、ラスベガスのコミュニティラジオ局でのDJ及びプログラムディレクター、音楽レーベルでのプロモーションディレクターとしてバンドのプロモーションを手がけた後、心理学の修士号の取得し、デジタルマーケティング企業の経営やホワイトハウスでの講演も行ってきた。その中で、何百ものスタートアップ、Fortune 50選出企業、非営利団体、政府関係者と仕事をしてきた経験を持つ。