シリーズ7回目となる今回は、中国でも長年、富裕層が集まるTier-1の都市であり、新時代に向けて進化している「千年の商業省都」として知られる広州エコシステムの強みと特徴を特集します。広州はグレーターベイエリア(GBA)の中心という理想的なロケーションにあり、中国で4番目に大きな港を持ち、2000年以上の歴史があります。広州は強力な産業体制と奨励的な政策環境により、海外企業の関心を着実に集めてきました。本ブログでは、日本企業が活用すべき広州エコシステムの特徴を解説します。
若者の経済都市、広州
UNDPが発表した「世界競争力レポート2019-2020」において、広州は世界第18位の経済競争力を持つ都市にランクインしています。そのインバウンドFDIは、過去5年間で5%以上の増加を維持し、年平均成長率は5.6%で、市内には合計約3万社の中小テクノロジー企業があり、これは中国国内で第1位となっています。また広州には、中山大学などの総合的な学際的大学を含む、合計62の省レベルと国家レベルの研究開発施設があり、STEM分野の専門家排出に強みを持っています。生活費が安く、食べ物の選択肢が豊富な広州は、キャリアのスタート地点に最適で、北京、上海、杭州、深センに次いで、中国で5番目に新卒者にとって魅力的な都市にランクインしています。 またGBAの中核都市の一つである広州は、深センや香港から電車で1時間の距離にあり、この地域の資源を十分に享受することができます。この地域の政府は、若く教育水準の高い世代がビジネスアイデアを商業化することを大いに奨励しています。香港貿易発展局の調査によると、起業家のほぼ全員(97%)が少なくとも学部卒で、修士号と博士号はそれぞれ21%と10%です。また、20%が22〜30歳、61%が31〜40歳と、若年層の起業家が多数います。WIPOのGlobal Innovation Index 2021によると、特許と科学出版物の数に基づき、GBAは世界で2番目に活発な技術クラスターとなりました。
政府支援によるイノベーション能力の構築
広州市政府は、市のイノベーション能力の構築に力を注いでいます。広州の14次五ヵ年計画(F Y P)では、自動車、AI、医療技術/バイオテクノロジー産業に重点が置かれ、これに沿って、外資系企業、知的財産保護、投資に有利な多くの支援政策が実施されています。FYPに記載された主要産業に該当する企業に対して、政府は土地の割引や最大3,000万米ドルから1億米ドルまでの投資ベースの報奨金を提供し、各分野で世界をリードする技術を持つハイテク企業には、ケースバイケースで減税の可能性もあります。 広州は日本のビジネスを歓迎しており、政府によると、2021年第1-3四半期、日本は広州に24社の新規投資企業を設立し、50%増加しています。広州-日本の輸出入総額は113億5300万米ドルで、6.95%増加し、そのうち広州の日本への輸出は25億4700万米ドルで、20.18%増加しました。一方輸入は88億600万米ドルで、3.65%の増加となりました。特に自動車産業は、GAC Honda、GAC Toyota、Dongfeng Nissanなどが中心となって形成され、生産額は5000億人民元で、広州の自動車産業クラスターを支えています。
大企業及び中小企業に人気な都市
多くの多国籍企業が中国での研究開発やビジネス拠点として広州を選択しています。Guangzhou Commerce Bureauの最近の発表によると、フォーチュン500社のうち309社が広州に投資し、1,166社を設立しています。外資系企業は広州市の工業総生産額と指定規模以上の付加価値の50%以上、指定規模以上のハイテク工業生産額の60%、市の総輸出入額の37%を占めています。最近のトレンドは、提携産業イノベーションパークで、企業が地方政府と提携して産業パークを設立し、重要技術の研究開発を加速させることです。GEはバイオテクノロジーの商業化のために、またFoxconnは高度なディスプレイ技術のために、このような工業団地を設立しました。 また、WeChat、Netease、GAC、Xpengなど、中国のトップクラスのインターネット企業や自動車企業の発展過程を見てきた広州にはユニコーンがかなり多く存在します。これらスタートアップ企業は、地元企業との初期の提携から、より広範な国内およびグローバル市場へと成長しています。最も成功したユニコーン企業には、次のものがあげられます。 - Weride.ai: 世界有数のレベル4自律走行技術企業 - XAG:農業用ドローンの革新的メーカー - Cloudwalk:世界をリードするマンマシンコーディネーションプラットフォーム - Shein:手頃な価格のレディースファッションを提供する越境ECプラットフォーム 広州は、起業家向けインキュベーション・プラットフォームを積極的に開発し、スタートアップ企業に対しクオリティの高いエコシステムを提供しています。広州市科学技術局 (Guangzhou Science and Technology Bureau)によると、広州には405の技術ビジネスインキュベータと294のメーカースペースがあります。その中で、7つのインキュベータが国家認証を取得し、中国国内で1位となっています。これらはすべて、3,000社以上のハイテク企業と51社の上場企業を育ててきました。
広州における今後の投資機会
2022年1月1日にRCEPが発効し、世界最大の自由貿易圏が正式に船出しました。日本と中国が自由貿易関係を構築し、二国間の関税引き下げを実現するのは初めてのことです。RCEPの合意によれば、最終的に、日本の対中輸出の86%が関税ゼロを達成し、中国の対日輸出の88%が関税ゼロを享受することになります。 これに先立ち、2020年3月、広州は中国初のRCEP越境EC特別政策を打ち出し、9月以降、一連の支援政策によってさらに詳細化されました。これは、日本の自動車企業が広州でのビジネスチャンスや新技術をさらに開拓するための強いポジティブな兆候であると考えられています。このため、GAC Toyotaの第5工場は建設を加速しており、年産高100万台のグローバル生産拠点となることが期待されています。
最後に、、、
広州は、イノベーションのための新たな選択肢としてとても魅力的な場所です。海外企業を受け入れ、政府はイノベーションと海外投資の両方をサポートし、エコシステムはAIや新エネルギー車などの新産業に深く潜り込んでいます。また、深センや香港と密接な関係にあるため、GBA市場全体を柔軟に享受することができます。 アクセラレータやスタートアップコンテストを立ち上げる予定があれば、広州を選択肢に入れることを推奨します。イントラリンクは、現地で長年の実務経験があり、アイデア出しから、初期のコンセプトやプロトタイプの市場テスト、また老朽化した製品の刷新、全く新しいタイプのソリューションやビジネスモデルを生み出すための新技術のスカウトなど、いくつかのプロジェクトに取り組んでいます。 広州は多くの日本企業にも選ばれており、私たちも中国オープンイノベーション・プログラムの検討を推奨しています。中国のイノベーションの状況や、ご紹介したイントラリンク・イノベーション・ネットワークのパートナー企業についての詳細、広州エコシステムへのご関心をお持ちの方は、ぜひこちらからイントラリンクまでお声がけください。
著者について Chelsea Lai(プロジェクト・コーディネーター)
イントラリンク上海オフィスでプロジェクト・コーディネーターとして活躍する。欧州のクライアントの代理として、家電、自動車、再生可能エネルギー技術を中国に紹介している。