イノベーションを語る上で、ますます欠かせない地域となっているイスラエル。世界に大きな変化が起きている昨今も、現地に進出する日本企業の数は徐々に増え、現在100社近くの日本企業が同国に進出しています。イントラリンクとしても、高まり続けるイスラエル市場・スタートアップ企業調査の需要に応えるため一昨年テルアビブに拠点を設立し、カントリーマネージャーのEran Eizikを中心に現地でのネットワークを拡大しています。そんなイスラエルについて理解を深めるべく、2022年12月に現地視察を行いました。イノベーションエコシステムの関係者や現地日本企業の方々と触れ合う中で、特に印象に残った気づきをご紹介します。
写真:イスラエルオフィスマネージャーのEran、東京オフィス事業開発ディレクターの森と。今回訪問したテルアビブ、ヘルツェリアは空も海も綺麗で人も優しく安全で、とても素敵な場所でした!
現地イノベーションハブ組織に触れて得た気づき
イスラエルでなぜイノベーションが起こるのでしょうか?1948年の建国当初から、陸の孤島状態で資源獲得にも課題が山積みだったイスラエルは、政府主導で様々な人材教育・産業支援を行い、経済力を飛躍させてきました。そのためイスラエルでは、多様な産業が高い技術レベルで発展しており、スタートアップ企業への投資も盛んに行われています(詳細については、イスラエル政府イノベーション庁とのインタビューを行った際の記事に纏められています)。 事業創出やイノベーションが、民族を守るために不可欠であったとも言えるイスラエルでは、個人間の「ネットワーク」も非常に重視されているようです。
今回、現地のベンチャーキャピタルやビジネスビルダー、大学など様々なイノベーションハブ組織と触れる中で印象的だったのは、キーパーソンの名前が最も重要な情報の一つとして位置づけられていることでした。全ての会話において個々人の名前を出し、共通のコネクションの有無を確認しているのを見て、誰にどのような話をすれば物事が前に進むのかが常に意識されていることを実感すると同時に、幅広いネットワークの活用がイノベーションを効率的に進める上での鍵となりうることに気づきました。 イスラエルでは男女共に兵役があり、この期間中に高度な技術訓練を受けています。このような軍での経験やネットワークも、イノベーション活動に強い影響を与えているようです。例えば、ユニコーン創出を目指し数々の事業を生み出しているビジネスビルダーとのお話では、スタートアップ設立の際、軍の中で上部数%の優秀な成績を収めた人や特殊部隊出身の人を採用して事業を任せていると伺いました。イスラエルは教育水準が高く、エンジニアや科学者を多く輩出することで知られていますが、教育機関だけでなく軍も人材育成やインキュベーションに大きな役割を担っていることを知り、とても興味深く感じました。
なお、2022年、イスラエルのVC投資は前年から大幅に減少しましたが、ローカルVCの方々からは「世界的な景気後退の影響もあるが、これまでの過剰な投資が自然消退した結果でもあり、今後は適切なレベルでの投資が期待できる」というポジティブな意見が多くありました。2022年の投資を牽引したのは、イスラエルが強みとするソフトウェア関連セクター(特にエンタープライズソフトウェア、サイバーを含むセキュリティソフトウェア、フィンテック)でした。
写真:インターネットなしで空港→ホテルを公共交通機関で移動してみました。予想外にヘブライ語のみ表記の場所が多かったですが、親切な方々に助けていただき無事宿に辿り着けました。Toda Raba! SIMカード購入後は、現地の方々に勧められたMoovit(2020年Intelが買収)アプリをフル活用して移動しました。
現地日本企業のコメント
現地に拠点を置く日本企業のうち、多くは営業・マーケティング、テクノロジースカウティング、R&Dや共同研究を主な機能としているようです。今回テクノロジースカウティングを担当されている方々にお話を伺う中で、特に印象的だったコメントとして下記の2つがありました。 「イスラエルのスタートアップは連携しやすい。米国を担当していたときは、国内市場が大きいので見向きもされなかったが、イスラエルは日本企業との連携を積極的に考えてくれる。インバウンドの問い合わせも多い。」 「イスラエルのスタートアップ企業はペースが非常に早く、これに合わせるのが難しい。」 国内市場が小さいイスラエルでは、企業活動の基本として海外展開が常に視野に入っているといわれています。その点、スタートアップ企業も海外企業との連携には積極的な一方で、常に危機感とスピード感を持って成長してきた国として、足並みを揃えることができる相手のみとの連携を求めているのかもしれません。海外企業がイスラエル企業との連携を目指す場合に、念頭に置くべき点と感じました。 なお、現地組織の方のお話では、近年はアグリテック・フードテックの分野に日本企業からの関心が集まっているそうです。国土の半分が砂漠のイスラエルは、サステナビリティの議論が活発化する前から農業・食関連の技術が発展しています。この分野は、2021年から2022年にかけて資金調達総額が堅調に推移した唯一のセクターでした。一方で、今回お話をさせていただいた全ての日本企業は、業界問わず、ヘルスケア領域をターゲットセクターの一つに含んでいたことも印象的でした。イスラエルには、デジタルヘルス、医療機器、バイオ・医薬品の分野を中心に1,500を超えるスタートアップ企業があります。ヘルスケア領域への投資や、他業界からの新規参入を検討するケースは欧州でも散見されますが、ヘルステックセクターが特に活発なイスラエルエコシステムならではの興味深い協業事例がでてくるのではと期待しています。
写真:食べ物もとっても美味しかったイスラエル。飛行機を乗り過ごす覚悟で最後に駆け込んだフムス屋さんでは、直前に面会したVCのパートナーさんにばったり会いました。
最後に、、、
現地日本企業において、イスラエルー日本間の橋渡しを数十年に渡り経験されている方によると、両社間のビジネスで一番課題になることは、「文化の違い」とのことです。失敗を恐れず、スピーディーな行動を重視するイスラエル人と、正攻法に則って着実に物事を進める日本人。真逆のようにも感じますが、家族を大事にする点や、コミュニティを重視する点など共通点もあるのではないかと思います(余談ですが、今回お話したイスラエルの方々は全員家族ファーストで、家族からのメールや電話にはミーティング中でもすぐに応答されていたのが印象的でした。素敵ですね!)。
今回の視察を通し、イスラエルでビジネスを行うには、他の地域以上に、現地のネットワークを持つことや文化を深く理解したパートナーを持つことが有用だと感じました。 イスラエル企業との連携や、市場進出を検討されている方は、ぜひイントラリンクにご相談ください。現地での豊富な経験とネットワークを持った担当者が、喜んでサポートさせていただきます。