シリーズ3回目となる今回は、デジタルイノベーションに強みを持つ北京に着目しています。今回は、現地政府の支援を受けるインキュベーター、そしてイノベーションに取り組む北京在企業との対談を通じて、同都市のイノベーションの特徴や、外資系企業が地元のエコシステムをどのように活用できるのか、話を伺ってきました。
政治と国有企業の中心地、北京
過去800年もの間、北京は中国の政治の中心地として機能してきました。世界第3位の国土面積を誇る中国の指導者たちは、法律や税金、研究開発への支出の内訳など、あらゆる国家方針について北京から指令を出しています。 その影響もあり、北京は中国国有企業の多くが本社を置く、戦略的な必需品の供給と管理の中心地でもあります。具体的には、通信(中国移動通信、中国電信)、銀行(中国銀行、国家開発銀行、中国建設銀行)、天然資源(中国石油天然気集団、中国金属、中国中化集団、中国石油化工)、基礎インフラ(中国鉄道、中国郵政、国家電網)などが北京を中心に活動しています。
中央政府主導の企業戦略とイノベーション政策
その一党主義体制により、中国では国有企業だけでなく民間企業も中央政府の目標や規制に合わせて企業戦略を立てています。特に中国企業による中核部品や材料技術のコントロールと自給自足を目標に、製造業の高度化を目指す重要政策の『中国製造2025』により、ロボット工学、情報技術、新素材、新エネルギー自動車、バイオ医療、医療機器、農業、電力、鉄道、航空宇宙、海洋など10の重点分野への国内投資・金融支援が急増しています。 また、中国政府は起業家精神とイノベーションを奨励するために複数の政策を発表し、2018年には国内多くの地域で史上最高の投資額を記録しました。その結果、PE Dailyが発表した年次報告書によると、北京の株式投資件数は、国内2位の665件を記録した上海の約2倍となる1,041件で、総投資額も2,000億元に達しました。Hurunの「2020年グローバルユニコーンリスト」によると、北京には93社のユニコーンが存在しています。これにより、北京は68社のサンフランシスコ、それに続く上海、ニューヨーク、深圳、杭州などのテックハブを抑え、国内だけでなく、世界的にも最大のユニコーン輩出都市となりました。
北京発スタートアップの専門分野と強み
今回、北京のスタートアップ動向について詳しく知るために、弊社イノベーションネットワークのパートナーであり、北京市政府が支援する現地の大手インキィベーターに話を伺いました。同社取締役のTim Luan氏は、「2018年から続く製造企業の市外への移転政策により、北京のスタートアップはAI、ディープラーニング、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、モバイルインターネットなどのデジタルイノベーションに特化する傾向にあり、製造業やサプライチェーンに優れた深圳市、医薬や製薬に強い蘇州市などの他都市とは異なり、バーチャル・デジタルの商品・サービスに注力しています。」と述べています。 さらにデジタルサービスや製品は中央政府の厳しい監視の対象となりやすく、その結果、顔認証にAIを活用したSensetimeやMEGVII、動画やニュースのプラットフォームTiktokやToutiaoを運営するエンターテイメントグループのBytedance、消費者向けにビッグデータを提供するTalkingData、世界最大の仮想通貨マイニング機器メーカーBitmainなどのユニコーンが北京に集中しています。
中国最大のテックハブを支えるイノベーション組織
同市内には、Cyberagent、Microsoft Accelerator、Intel Accelerator、Y Combinator、IDG、Sequoia、KPCB、DaimlerのLab 1886など欧米のインキュベーターやベンチャーキャピタルも拠点を置いています。また、清華大学が100億元以上(約15億ドル)を投じて清華ホールディングス・キャピタル(THC)経由で運営する清華大学サイエンスパーク(TUSパーク)や、中国のシリコンバレーとも呼ばれる巨大ハイテクパーク中関村も、多くのスタートアップやインキュベーターが集まり、市内のホットスポットとなっています。 その上、北京には国内トップを争う北京大学や清華大学をはじめ、83の大学があります。その結果、200億ドル以上の企業価値を達成したDidi、Xiaomi、Meituan、Toutiaoなどを含め、2017年にはこのゾーンだけで70社のユニコーンを輩出しました。
現地エコシステム従事者が語る北京の強み
同都市に本社を置く中国の消費者向けグローバルエレクトロニクス企業に、北京エコシステムの強みを含めて、同社のイノベーション活動について話を伺いました。投資ディレクターを務めるRay Lv氏は、北京が得意とする分野について以下のように述べています。「中国企業は一般的にアプリケーションには強い一方、基礎科学や研究は得意としていません。そのため、弊社はセンサーや新素材の分野で日本や欧州の企業との提携に高い関心を持っているものの、これらの分野に必要な高レベルな精度と基礎科学研究が現時点では不足していると考えています。とは言え、新技術を応用して持続的なビジネスモデルを構築するための新しいイノベーションを求めているのであれば、北京は世界的にも最も適切なハブと言えます。」
最後に、、、
中国国内で最も多くのスタートアップ、資本、人材が集中している北京は、デジタル製品やサービス、既存の革新的な技術の斬新なアプリケーションやビジネスモデルなど、中国のイノベーションを発掘する絶好の出発点となっています。そしてスタートアップを含む地元企業の多くが、その発展を加速させるために、海外企業とのパートナーシップを積極的に求めているのです。このようなビジネスチャンスに溢れた北京のエコシステムにご興味がございましたら、ぜひお声掛けください。
著者について
Emma Hsuは、台湾出身、カナダ育ちの中英バイリンガルで、10年間カナダで就労していた経験がある。現在はイントラリンク上海オフィスで、オープンイノベーショングループのプログラムマネージャーとして活躍している。