シリーズ6回目となる今回は、エレクトロニクス及び通信機器製造業を中心に発展する南京を特集します。世界的な半導体不足により、生産能力の拡大を決断したTSMC(台湾積体電路製造)は、2021年4月に南京にあるチップ製造工場拡張のため、30億ドルの投資を発表しました。これには、南京の地元のスタートアップや企業を後押しする、集積回路、IoT、材料科学、化学などの分野における豊富な人材プールの存在が大きく関係しています。本ブログでは、日本企業が活用すべき南京エコシステムの特徴を解説します。
南京をリードするトップセクター
2020年に南京政府が発表したハイテク企業に関する統計によると、域内34%の企業を占めるエレクトロニクス及び通信機器製造業が南京をリードするトップセクターとして位置付けられています。ほかにもスマートデバイス製造、新素材製造、製薬業界などが代表するセクターとして挙げられています。南京発の有名企業としては、スマートホームデバイスのパイオニアであるWulian IoT、通信事業者のIoT子会社のChina Unicom、電力機器ソリューションプロバイダーのNARI 、製薬会社のCTTQやSimcere などがよく知られている一方、Siemens、Ericsson、Iveco、Samsung、IBMなどのグローバル大手企業もこの地にR&D拠点を構えています。 また南京政府の産業投資ガイドによると、集積回路、新エネルギー車、製薬及びライフサイエンス、AI、ソフトウェア・情報サービスの5分野が、主要セクターとしてあらゆるインフラとポリシーを通じて促進されています。そして、これらのセクターは、関連するスタートアップを統合し、商業や投資に関するベネフィットを提供する専用のイノベーションパークを抱えています。
南京最大の魅力:人材プール
南京に目を向ける企業にとってのその魅力は、やはり強い人材プールでしょう。2020年にNature Indexが発表したTop 200 science citiesでは、科学論文出版物のシェアを図る総合順位において、南京は東京首都圏に次ぐ世界8位に、化学論文のカテゴリーにおいては世界3位にランクインしました。この背景には、南京にハイレベルな大学と研究組織が多く存在している点があります。重要な大学としては南京大学や東南大学(Southeast University)に加え、集積回路に強い人材教育に注力するNanjing Integrated Circuits Universityが2020年に設立されたばかりです。
南京スタートアップとユニコーン
南京政府が発表したホワイトペーパーによると、2020年時点での南京発のユニコーン数は15社にのぼり、その多くがデジタルトランスフォーメーションやIoTに焦点を置いています。有名企業では、戦略的投資家にアリババを擁し、地方市場のデジタル変革のためのB2Bプラットフォームを提供するHuitongda、スマートホーム関連のIoT技術のHosjoy、AIとビッグデータを活用したロジスティクス・サプライチェーンサービスのYunmanman、スマートな貨物輸送AIとプラットフォームサービスを提供するFor-Uなどが活躍しています。 その他セクターでも、南京は電気自動車スタートアップのBytonの本拠地にもなっています。Bytonは2016年にTencentとFoxconnから誕生したものの、財政及びリーダーシップ関連の問題により、2020年に一旦事業を停止していました。しかし、今年1月にFoxconnとの新たなパートナーシップを発表し、南京のインダストリー4.0、そして高度な製造に関する専門知識の活用が期待されています。
最後に、、、
深刻化する半導体不足の中、その関連分野に強く、優秀な人材を多く輩出する南京の重要性は今後も増していくと考えられます。また既にエレクトロニクス業界において複数のグローバル大手企業が研究開発拠点を構えている点を考慮すると、南京はものづくりに強い日本企業にとっても、最新技術に精通した人材重要なテックハブとなりうる可能性を持ち合わせているのではないでしょうか。さらに、今後はそれだけに止まらず、集積回路、新エネルギー車、製薬及びライフサイエンス、AI、ソフトウェア・情報サービスなどの分野に注力していく南京は、幅広い分野におけるイノベーション・最新技術に精通した人材を探索する企業や、これから中国でのイノベーションハブ設置を検討している企業にとって、興味深いテックハブとなるかもしれません。 南京のエコシステムにご関心をお持ちの方は、ぜひ info@intralink.co.jp までお声掛けください。 筆者について
Emma Hsu(プログラム・マネージャー) 台湾出身、カナダ育ちの中英バイリンガルで、10年間カナダで就労していた経験がある。現在はイントラリンク上海オフィスで、プログラムマネージャーとして欧米組織向けにアジア市場開発をサポートする一方、中国における日本企業のオープンイノベーションプロジェクトにも長年携わってきた。