「原子力技術のユニコーンNewcleo、4,800万ユーロを調達」、「MRのDistance Technologies、Googleなどから追加資金調達」、「急速に成長するイタリアエコシステム」、「カゴメ、SVG Venturesとアグテックファンド設立」、「レアアースリサイクルのCyclic Materials、5,300万ドルを調達」、「ヒトラクトフェリン開発Helaina、4,500万ドルを調達」、「シンガポールのSleek、Fintech Nation Fund主導ラウンドで資金調達 」、「HeiTech Padu、イスラム教徒向け決済企業Souqa Fintech の株式取得」を取り上げた「イノベーションインサイト:第103回」をお届けします。
放射性廃棄物を燃料とする鉛冷却小型モジュール炉(SMR)を開発するユニコーンのNewcleoが、4,800万ユーロの資金を確保し、資金調達総額も5億3,500万ユーロに達した発表した。2021年に設立された同社は、現在、英国、フランス、イタリア、スイス、スロバキアを含む19拠点で事業を展開し、850人以上の従業員を雇用している。またEU金融機関からの資金調達や、同社の原子炉で燃料として使用可能な放射性廃棄物を排出するフランスの原子力発電所へのアクセスなどに基づく戦略として、本社をロンドンからパリに移転することも決定している。次のステップとして、同社は2026年までにイタリアに研究施設を、さらに2030年までにフランスに実証炉を完成させる予定で、最終的には2033年以降に同社初となる商業炉を立ち上げる意向だ。
ヘルシンキを拠点とする複合現実(MR)企業Distance Technologiesが、たった3ヶ月前に完了した270万ドルのプレシードラウンドに続き、Google Venturesを含む投資家から1,000万ユーロの追加資金を調達した。2023年設立の同社は、窓やフロントガラスなど、透明な表面をもつ物体を拡張現実(AR)ディスプレイに変換することができるグラスレス技術を開発している。これにより、MRヘッドセットやARグラスのような追加のハードウェアが不要になる。Distance Technologiesの機能は、ほとんどの液晶ディスプレイ(LCD)の上に光学層を追加し、目の焦点が合っている場所に画像を照射できるようにするもので、同技術は、運転体験を向上させる自動車分野だけでなく、パイロットの状況認識を高める航空宇宙産業にも応用できるという。
2023年から24年にかけてのVC投資総額は19億ドルと欧州で10位にとどまるイタリアだが、同域内で今最も急成長しているエコシステムのひとつでもある。これは、過去10年間で20.3倍の成長を遂げたノルウェーに次ぎ、11倍の成長を遂げた事実に起因する。2019年にはEコマースへの投資が全体の64%を占めていたが、2024年には4%に減少。一方で、製造業が46%、またSaaSが51%に増加していることから、総じて、伊スタートアップへの投資は、SaaSや製造業へとシフトしていると言える。また、製造業関連スタートアップにとって主要拠点であるトリノには、VC投資の93%が集まっているという。さらに、過去5年間における投資総額のトップセグメントは、原子力(5億4,370万ドル)、決済(4億5,430万ドル)、スペーステック(2億4,690万ドル)であった。一方、アカデミアや研究センターも重要な役割を果たしており、伊大学のスピンアウト企業は過去5年間で3倍以上に成長し、現在20億ドル以上の価値がもたらしている。その例としては、腫瘍学を専門とするRAS Genix、合成データ技術を開発するAINDO、アグテックのPlantBitなどが挙げられる。
カゴメは、シリコンバレー拠点のベンチャーキャピタルSVG Venturesと戦略的提携を結び、5,000万ドルのアグテックファンドを設立した。カゴメは 、SVG Ventures Sunrise Fundと名付けられた運用期間10年の本ファンドに、米国子会社Garbic USAを通じて参加し、新的な農業技術の開拓に取り組む世界中のスタートアップとの連携を通じて、50万から100万ドルを目安とした初期段階の投資に重点的に取り組む意向だ。また、Ingomar Packing CompanyやUnited Genetics Seed Companyなど既存の米国事業が、投資先への技術的ソリューションの検証と導入において重要な役割を果たすと期待している。気候変動の影響に対処し、世界的な食糧システムの回復力を確保するための積極的な取り組みが求められる中、今回の提携は、農業のバリューチェーン変革を目指した持続可能なソリューションに取り組むことができる、次世代のスタートアップを大きく力付けるきっかけとなるだと期待される。
レアアース(REE)やその他重要鉱物の循環型サプライチェーンを構築するカナダのCyclic Materialsは、 ArcTern Venturesが主導、Fifth WallやBMW i Venturesなどの既存投資家に加え、日立ベンチャーズやマイクロソフトのClimate Innovation Fundなどの新規投資家が参加したオーバーサブスクライブのシリーズBラウンドで5,300万ドルを調達した。2021年設立のCyclic Materialsは、耐用年数を終えた電気自動車のモーター、風力タービン、MRI装置、データセンターの電子廃棄物などから、重要な原材料を経済的かつ持続的に回収する技術を持つ。Cyclic Materialsの磁石からレアアースをリサイクルするプロセスは、従来の採掘プロセスと比較して、CO2排出量削減や比類のない水効率など、環境面で大きなメリットをもたらすという。英国Synetiqなど、主要な業界リーダーとの戦略的パートナーシップにも積極的で、レアアースを含む磁石のリサイクルと循環型サプライチェーンの確立に更なる意欲を見せている。
ヒトと同等の生理活性タンパク質に重点的に取り組むバイオテックHelainaは、Avidity Partners主導のシリーズBラウンドで4,500万ドルを調達した。 この資金は、女性の健康、アクティブな栄養摂取、健康的な加齢をサポートする同社のヒトラクトフェリンの供給拡大に活用される。ラクトフェリンは、母乳やその他の体液中に自然に存在するタンパク質で、さまざまな健康効果があることで知られている。このタンパク質をバイオ工学的に改良したHelainaの「effera」は、遺伝子組み換え微生物を用いて特定のタンパク質を生成する、精密発酵技術を用いて生産されている。そのため、動物由来の原料を使用することなく、自然界に存在するものと同じタンパク質を生成することができる。今後KromaやHealthgevityなど健康食品・サプリ企業の消費者向け製品を通じて、「effera」が商用化される見通しで、三菱商事の関連会社Mitsubishi International Food Ingredientsが販売代理店となる予定だ。
シンガポールを拠点とするフィンテックのSleekは、Fintech Nation Fundが主導する債務ファイナンスにより、500万ドルの資金調達を行った。Sleekによると、今回の資金調達により、既存顧客に対する高品質なサポートを維持しつつ、同社が展開している市場での成長の加速、さらにサービスの拡充を図るという。今年第2四半期にはシンガポールで黒字化を達成し、創業7年目にして大きな節目を迎えた同社は、2017年の創業以来、世界中で15,000社以上にサービスを提供してきた。過去1年間は従業員数を増やすことなく、顧客ベースを30%増加させた。同社は、会社設立、会計、税務、給与計算などをデジタルプラットフォーム上で処理することで、ビジネス管理を効率化するサービスを提供し、現在、シンガポール、香港、オーストラリア、英国で事業を展開している。
マレーシアのテHeiTech Paduは、イスラム教徒向け決済企業Souqa Fintechの30%の株式を394万ドルで取得する提案を発表した。HeiTech Paduは、今回の増資による資金は、主要人材の雇用や決済パートナーシップの構築、コアバンキングシステムの改善など、技術の強化に充てられるとした。また貿易債務の決済や広告、マーケティング、トレードショー、従業員向けの研修やセミナー、および新規事業開発にも資金が使用される予定。この買収は、オンライン予約や決済サービスを社内開発製品やソリューションを通じて積極的に展開するHeiTechが、デジタル領域へのさらなる進出を目指すための戦略的決定の一環であり、従来の契約業務を補完する形で行われる。一方で、Souqa Fintechは、加盟店契約、決済処理および決済ゲートウェイを提供する総合的なオンライン決済プラットフォーム企業であり、その決済ソリューションは「PayHalal」というブランドで運営されている。PayHalalは、従来の決済ソリューションに代わるシャリーア法準拠の決済システムとして開発され、マレーシア中央銀行から適切なライセンスを取得し、規制を受けている。
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