『EIC、有望デュープテック企業72社をScaling Clubに選出』、『波力発電技術のCorPower、NordicNinjaなどから資金調達』、『EIB、遠隔運転カーシェアリングのVayへ資金投入』、『Koloma、三菱重工業などから5,000万ドルを調達』、『「オン、オフ」可能ながん細胞療法研究AvenCell、1.1億ドル調達』、『Monogoto、グローバル展開加速に向け2,700万ドルを調達』、『三菱商事、フィリピンのフィンテック企業Myntに出資』、『GlobalTix、約500万ドルのシリーズB資金を調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第106回」をお届けします。
120社以上の有望なディープテック企業が集まるコミュニティとして知られる欧州イノベーション会議(EIC)のScaling Clubに、新たに域内24ヶ国から72のスケールアップ企業が選出された。Scaling Clubは、厳しい審査を勝ち抜いてきたディープテック企業に対し、資金調達支援、リーダーシップの指導やコーチング、企業パートナーシップの発掘とマッチメイキング、メディアへの露出、人材採用など、さまざまな支援を通じて、そのうちの20%をユニコーンに成長させることを目標としている。選ばれた企業は、あらかじめ設定された以下の6つのセクターに属している。これには、アグリ&フードテック(仏害虫駆除技術のAgriodorなど)、バッテリー&エネルギー貯蔵(独バッテリーリサイクルのcylibなど)、心臓血管治療(オーストリア発胸部CT向けソフトウェアのcontextflow)、クリーン燃料&水素(蘭電解槽&統合バッテリーのBattolyser Systems)、バイオテックプラットフォーム(スペイン発早期がん検出のAmadix)、スペーステック(フィンランド発推進システム開発のAurora Propulsion Technologies)が含まれる。
スウェーデン発のCorPower Oceanは、波力エネルギーソリューションの商業化を進めるため、日系VCのNordicNinjaが主導した最新のシリーズBラウンドで3,200万ユーロの資金を確保した。2009年設立のCorPower Oceanは、大西洋の厳しい暴風雨にも負けず、波から効率的にエネルギーを回収できる装置を開発している。世界で回収・活用可能な波力エネルギー資源は500GWに達し、その供給力と予測精度は風力や太陽光をはるかに上回ると言われている。同社の技術を利用したプロジェクトは、スコットランド、アイルランド、ポルトガル、ノルウェーなど大西洋の数ヶ所で進行中だ。特にアイルランドのSaoirse Wave projectは、4,200世帯の年間需要に相当する年間15GW時の再生可能エネルギーを波から発電する能力を持ち、波力エネルギー変換装置の商業的可能性を探るため、欧州委から約4,000万ユーロの共同出資を受けている。
欧州投資銀行(EIB)が、ドイツ発モビリティスタートアップのVay に3,400万ユーロを融資し、欧州における遠隔運転をベースとしたモビリティ・サービス事業の展開を支援する。2018年に設立されたVayは今後、遠隔操作技術に基づいてドア・ツー・ドアのカーシェアリングを提供する計画だ。これにより、専門的な訓練を受けたテレドライバーが、顧客のピックアップ場所まで遠隔操作で車両を運転することができる。そして車が到着すると、ユーザーは通常の車と同じように手動で操作、運転する。下車後は、テレドライバーがパーキングの手配や次の顧客まで車を遠隔で移動させることができるため、ユーザーは駐車の心配をする必要がない。Vayは、2024年1月に米国ラスベガスで初となる商業サービスを開始し、現在は米国やハンブルクを含む欧州の複数都市と提携しながら遠隔運転サービスを拡大している。
デンバー発地中水素スタートアップのKolomaは、シリーズBエクステンションラウンドで5,000万ドルを調達し、再生可能エネルギー分野におけるリーダーとしての存在感を一層高めた。この資金調達には、三菱重工アメリカ(MHIA)、大阪ガス、その他投資家からの戦略的投資が含まれており、エネルギー転換における天然水素への認識の高まりを反映している。2021年設立のKolomaは、データ主導の戦略を活用した地中水素の探査と商業化に重点的に取り組んでいる。ホワイト水素とも呼ばれる天然水素は、地表下に存在する天然の水素ガスの形態であり、CO2排出量を最小限に抑えた持続可能なエネルギー源とされている。高度な分析、AI、センサー技術を活用することで、Kolomaは水素鉱床の可能性を最大限に引き出すことを目指す。これまでもAmazonのClimate Pledge Fundなどが資金調達に参加しており、天然水素が重要なエネルギーソリューションとしての戦略的な関心を集めていることが裏付けられている。
AvenCell Therapeuticsは、Novo Holdingsの支援に加え、F-Prime CapitalやEight Roads Ventures Japanなどの新規投資家も参加したシリーズBラウンドで1億1,200万ドルを調達した。同社は、T細胞(白血球の一種)を操作してがん細胞を見つけ出し、破壊するという革新的なアプローチによってキメラ抗原受容体CAR-T技術の開発を進めている。中でも、体内投与後に活性化または非活性化の「切り替え」ができるCAR-T 細胞の開発を通して、血液がんの治療における安全性と有効性を高めることを目指す。同社のAVC-101は、急性骨髄性白血病(AML)を対象とした第1相臨床試験段階にあり、従来のCAR-T療法のチャレンジを打破できると期待が高い。AvenCellの独自技術は、細胞療法の大幅な進歩を意味し、AMLのような難病に対する臨床試験で有望な初期結果が得られている。
カリフォルニアを拠点にIoT接続管理プラットフォームを開発するMonogotoは、Toyota Ventures主導、Samsung NextやJ-Venturesなどが参加したシリーズAラウンドで2,700万ドルを調達した。2018年設立の同社は、パブリックおよびプライベートLTE/5Gネットワークや衛星ネットワーク全体でセキュアな接続を実現するソフトウェア定義の接続ソリューションを提供している。API主導のアプローチでIoTデバイス接続を簡素化するため、ユーザー企業はサブスクリプションモデルのもと、550のグローバルネットワークを通じて180ヶ国以上のデバイスを接続できる。Monogotoのソリューションには、リアルタイム管理、セキュリティなどが含まれ、ドローンから電気自動車まで、多様なデバイスに対応する。顧客基盤は自動車、小売、エネルギー、スマートシティなどにおけるFortune 500企業にも拡大中だ。最新調達資金は、グローバル展開の加速と市場開拓の強化に活用される予定だ。
三菱商事は、フィリピン大手財閥Ayala Corporationが所有するAC Venturesの50%の株式を買収する形で、デジタルウォレットブランド「GCash」を運営するフィンテックユニコーン、Myntへ投資すると発表した。フィリピンは東南アジアの中でも急成長を遂げているフィンテック市場の一つであり、特にパンデミックの影響でデジタルサービスの需要が急速に拡大している。三菱商事は今後、デジタルキャッシュレスエコシステムの推進に取り組むフィリピン最大の金融アプリMyntへの出資を通じて、デジタル金融事業における事業創出を図るという。なお、 今年8月には三菱 UFJ フィナンシャル・グループもMyntへの出資を発表している。
シンガポール発の観光業界向けチケット販売ソフトウェアプロバイダー兼マーケットプレイス配信プラットフォームであるGlobalTixは、Tin Men Capital主導によるシリーズBラウンドで約500万ドルの資金調達を完了した。2013年の設立以来、GlobalTixは東南アジア最大のチケットアグリゲーターへと成長し、現在は15万以上の体験コンテンツを提供している。また1万2,000を超える旅行代理店と提携し、年間1,200万枚以上のチケット発行数を誇る。中国、インド、日本を含むアジア10ヶ国に拠点を持ち、アジア全域で強力な市場基盤を築いてきたGlobalTixは、革新的なチケット販売および流通ソリューションにより、アトラクションの業務効率化と顧客体験の向上に寄与している。今回の資金調達により、同社はAI主導ソリューションの強化に取り組むという。
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