『再利用可能な貨物宇宙船開発の独TEC、1.6億ドル調達』、『仏OpenAirlines、持続可能な航空ソリューションで資金調達』、『英国政府、年金基金から800億ポンドをテック企業に投入』、『抗肥満薬バイオテックMetsera、2億ドル超を調達』、『Vaulted Deep、バイオマス炭素除去・貯蔵能力拡大で3,200万ドル調達』、『藻類タンパク質開発Plantible Foods、3,000万ドルを調達』、『シンガポールのPortcast、シリーズAラウンドで650万ドルを調達』、『ベトナム発EVメーカーVinFast、35億ドルを資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第110回」をお届けします。
ミュンヘンを拠点とするスペーステック企業のThe Exploration Companyは、最新のシリーズBラウンドで1億6,000万ドルの資金を確保し、調達資金総額も約2億3,000万ドルに達した。2021年設立の同社は、宇宙ステーションや宇宙探査の物流ニーズに応える貨物宇宙船の開発、製造、運用を行っている。TECが開発する「Nyx」は、再利用、そして軌道上での再充填が可能な宇宙船。あらゆる重量物打ち上げロケットから複数回打ち上げられる上、最大3,000kgの積荷を積んで地球に帰還することができるよう設計されている。SpaceXのDragon Capsuleのような宇宙船よりも25~50%低コストのソリューションを提供すると主張するTECは、その宇宙船帰還技術で、欧州宇宙機関から約2,500万ユーロ相当の研究契約を獲得している。また、NASAとSpace Act Agreementを締結した最初の欧州企業にもなっている。同社の次に見据える顕著なマイルストーンとして、2028年の国際宇宙ステーションへのクルーレスミッションが計画中だ。
フランス発エコ航空ソフトウェアのOpenAirlinesは、航空業界の脱炭素化を目指し、4,500万ユーロの資金を調達した。2006年に設立された同社は、MLとAIにより燃料使用量を最適化し、CO2排出量を削減するSaaSプラットフォームを提供している。このプラットフォームは、1,500万を超えるフライトデータを活用してエコフライトを推奨する。同ソリューションにより、1フライトあたりの燃料使用量を3~5%削減できると主張するOpenAirlinesは、既にエールフランス、大韓航空、ジェットブルーを含む世界70社以上の航空会社と提携し、燃料消費量とCO2排出量の削減に貢献している。実際に、OpenAirlinesの顧客は42万トンの燃料を昨年だけで節約し、140万トンのCO₂排出を防止したという。これは、前年度に世界で生産されたすべての持続可能な航空燃料によるCO₂削減量の7倍に相当する。同社は2021年以来黒字を維持しており、過去5年間で年間30%の成長を記録している。今回の資金調達により、北米とアジアへのさらなる市場拡大と新製品の開発を推進する予定だ。
英国政府は、同国内のハイテク部門を支援するため、最大800億ポンドの年金基金資本を投入する計画を発表した。これは自主的な取り組みとは異なり、プロのファンドマネージャーが運営する「メガファンド」を創設するために、資産を統合、プールする政府の年金基金改革である。英国政府はカナダとオーストラリアを参考に、年金資金をどのように民間ビジネスに活用できるかを検討している。例えば、2021年にCanadian Pension Plan Investmentsは、英スケールアップのOctopus Energyに3億ドルを投資した。この投資額は、2022年の英国年金基金による国内スタートアップへの投資総額よりも大きかったという。この年金制度法案は来年議会を通過する予定であり、国内テック企業がこの改革から恩恵を受けるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
ニューヨーク発Metseraは、新たに2億1,500万ドルを確保し、創業の4月から総額5億ドルを上回る資金を調達、投資家の強い関心と次世代減量治療に対する継続的な需要が浮き彫りとなった。MetseraのMET-097iは、月1回の注射によるGLP-1受容体作用薬として、第I/II相試験において、36日目には参加者の体重が7.5%減少するという有望な結果を示した。競合他社とは異なり、MET-097iは消化器系副作用を最小限に抑えるための用量調整を必要としないため、軽度の副作用しか生じなかったという点も好材料となった。良好な結果を受け、Metseraは16週間の第II相試験を計画しており、2025年半ばまでに予備データを取得し、その後第III相試験を実施する。同社は先月、先進国および新興市場における自社製品の流通に関してAmneal Pharmaceuticalsとの供給提携を発表したばかり。MET-097iに加え、経口GLP-1受容体作動薬ペプチドや超長時間作用型の注射など、今後も更なる抗肥満薬ポートフォリオの拡充を目指す。
バイオマス炭素除去・貯留(BiCRS)を専門とするVaulted Deepは、Prelude Ventures主導のシリーズA資金ラウンドで3,200万ドルを調達し、CO2除去能力の拡大を目指している。Vaulted Deepは、2023年に廃棄物管理会社Advantekからのスピンアウト企業、バイオソリッドや農業廃棄物などの炭素を豊富に含む有機廃棄物を地下深くに注入して永久的に貯蔵することで、炭素隔離を行っている。同社のアプローチは、CO2を1万年以上にわたって確実に貯蔵し、大気への再放出を防ぐ。Vaulted Deepはすでに7,000トンのCO2を除去しており、Stripe、Alphabet、H&M、JPMorgan Chaseなどの顧客と、2027年までに152,480トンのCO2を恒久的に除去する5,800万ドル相当の販売契約を締結済みだ。
水中に生育する多年植物ヒンジモからプロテインを抽出するPlantibleは、Piva CapitaとSiddhi Capitaが共同主導し、大手ファーストフードChipotleのベンチャー部門Cultivate Nextなどが新規投資家として参加したシリーズBラウンドで、3,000万ドルを調達した。この調達資金で、テキサス州にあるヒンジモ農場での生産規模拡大と、大手食品企業との契約を継続的にサポートする。同社のRubi Proteinは、葉緑素やその他の成分を機械的に除去するプロセスを経て生成され、乳化、ゲル化、結合などの機能特性を持つ動物性タンパク質に似た完全な植物性タンパク質で、焼き菓子、調味料、肉代替品、植物由来の乳製品など、さまざまな食品へ利用可能な点が強みだ。何よりヒンジモは、成長に時間のかからない持続可能な無農薬植物で、必須アミノ酸をすべて含んでいる。Plantibleは、食品業界におけるアレルゲンに配慮した、コスト効率の高い高機能素材への需要の高まりを追い風に、来年度には収益10倍を目指す。
シンガポールを拠点に、リアルタイム輸送データの可視化と予測分析プラットフォームを提供するPortcastが、Susquehanna Asia VCが主導したシリーズAラウンドで650万ドルを確保した。Portcastは、独自の機械学習技術と生成型AIを駆使し、毎日500万件以上のデータポイントを処理する。同プラットフォームは、370社を超える輸送会社、800以上の港、衛星や地上ソースから取得した地理的位置データに加え、航海およびリスクデータ、文書、請求書、企業資源計画(ERP)システムのデータを統合している。これにより、荷送人、物流サービスプロバイダー、輸送管理システム(TMS)に向けた高度に統合された信頼性の高い可視可ソリューションを提供している。近年、グローバルなサプライチェーンはその脆弱性が一層浮き彫りとなり、混乱が深刻化している。このような状況において、PortcastはAI技術への継続的な投資を通じて、顧客の収益性の維持と効率化を支援している。同プラットフォームは、住友倉庫、MPGグループ、AIT Corp、Otentic Customs、FreshCo、Wiloグループなど、業界を代表する企業に採用されており、世界的なサプライチェーン効率の向上に寄与している。今回の資金調達を通じ、Portcastは生成型AIを活用したリスク管理、輸送計画、請求書監査機能の革新と、APACならびに欧州市場への展開を加速させるとともに、テクノロジーパートナーとの統合を強化する方針を示している。
ベトナムの電気自動車(EV)メーカーであるVinFastは、同国最大の民間コングロマリットであるVingroupなどから、35億ドルの資金調達を実施した。Vingroupは、VinFastに対し、2026年末までに約14億ドルの融資を行う計画も発表している。また、同グループの会長も個人的な支援として約21億ドルの出資を約束している。今回の資金調達は、VinFastがベトナム国内で最も売れている自動車メーカーとして、世界市場でも着実な成果を上げていることを背景に決定された。同社はベトナム市場において今年の初めから10月までに51,000台以上の電気自動車を納車し、実績を重ねている。またグローバル市場においても、米国、カナダ、欧州を中心に事業を拡大する一方、中東、インドネシア、フィリピン、インドなどの新興市場にも急速に進出している。
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