『パナソニック、水素活用の再エネだけで英工場を稼働へ』、『帝人、トレーサビリティ管理システムのCirculariseに出資』、『Planet A Foods、カカオフリーチョコレートで3,000万ドル調達』、『カーボン除去技術のHeirloom、1.5億ドルを調達』、『Tractian、産業用機器のダウンタイム削減に1.2億ドル調達』、『廃棄物選別ロボット開発Amp Robotics、9,100万ドルを調達』、『シンガポールのBECIS、EaaSソリューションで5,300万ドル調達』、『ベトナムの食品EコマースKamereo、住友商事などから資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第113回」をお届けします。
パナソニックは、英国にある同社の電子レンジ製造工場に、水素を利用した再生可能エネルギー発電システムを導入すると発表した。これは工場で必要な電力をすべて再エネで賄うことを目的とした実証実験で、グリーン水素による燃料電池と太陽光発電、そして蓄電池を活用する。カーディフに設立され、50年の歴史を持つ同製造工場では、年間約5,000万ポンド相当の電子レンジを製造・組立てており、年間消費電力は約1ギガワット時にのぼる。今回のプロジェクトでは、372kWの太陽光発電と1MWhの蓄電池に加え、グリーン水素を燃料とする5kWの燃料電池が21台設置されている。さらに、燃料電池による発電時に発生する熱は、工場内の暖房や給湯に利用され、水素システムの全体的な効率向上を図る。なお、今回の取り組みは、2050年までに少なくとも3億トンのCO2排出量を削減するという長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」の一環として位置付けられている。
オランダを拠点に、ブロックチェーンをベースとしたサプライチェーンの透明性とトレーサビリティのプラットフォームを提供するCirculariseに、 帝人グループがプレシリーズBラウンドの戦略的投資を行った。2016年に設立されたCirculariseのプラットフォームは、デジタル製品パスポートを実現し、サプライチェーンパートナー間のデータ管理と共有を保証すると同時に、機密情報を保護する。さらに、同技術を採用する企業は監査への備えやESPRなどの規制要件の遵守だけでなく、ISCC EUやISCC PLUSのような認証基準の取得がしやすくなる。出資比率や出資額は非開示であるものの、今回の投資と提携により、Circularise は高機能素材をはじめとする産業市場への進出を果たすことになる一方で、帝人グループはサプライチェーンの透明性や信頼性を向上し、循環型経済の実現を推進する。なお、Circulariseは帝人以外にも、すでにジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(J-CEP)、伊藤忠商事、丸紅、旭化成などと提携している。
カカオフリーチョコレートを開発するドイツ発Planet A Foodsが、最新のシリーズBラウンドで3,000万ドルの資金を調達した。2021年設立の同社は、オーツ麦やヒマワリの種などの原料をチョコレートに変える精密な発酵プロセスを用いて、従来のチョコレートと同様の豊かな味わいとなめらかな舌触りを実現する上、従来の製造過程に比べ、CO2排出量を80%ほど削減するという。2023年にドイツのスーパーマーケットで販売が開始されたPlanet A Foodsの製品は、現時点でオーストリアとスイスをはじめとする欧州全土に拡大しており、これまでに20以上の製品が42,000以上の小売店で販売されているが、今回の資金調達により、2025年第1四半期に英国とフランスにも進出する予定。またドイツ鉄道、ルフトハンザ航空、さらには同社の技術を提供し、ヴィーガンチョコレート製品を発売したリンツといった一流ブランドとも提携している。今後、自社設備と戦略的パートナーシップを活用し、生産量を年間2,000トンから15,000トン以上に拡大する計画だ。
大気中のCO2を直接回収するHeirloomは、Future PositiveとLowercarbon Capitalが共同主導し、三井物産やMOL Switchなども参加したシリーズBラウンドで、1億5,000万ドルを調達した。カリフォルニア発Heirloomは昨年、年間1,000トンのCO2を除去できる米国初の商業用直接空気回収施設を立ち上げたばかりだ。 また、米エネルギー省が支援する年間100万トン除去プロジェクトにも参加しており、2026年までに年間17,000トンのCO2を除去するプラントの開発もルイジアナ州にて進めている。Heirloomは、炭素除去コストを1トンあたり600~1,000ドルから、業界の理想的なベンチマークとされる、1トンあたり100ドルに引き下げることを目指す。 同社の革新的なプロセスは、石灰岩による炭素除去を数年間から数日に短縮し、CO2をコンクリートまたは地下に貯蔵するという技術。マイクロソフトなどと炭素購入に関する提携も結び、今後もCO2除去施設の増設と技術コストの削減に向けて邁進する。
産業用機器のモニタリングに特化したTractian Technologiesは、Sapphire Venturesが主導し、General Catalyst、Next47、NGP Capitalが参加したシリーズCラウンドで1億2,000万ドルを調達した。同社のSmart Trac Ultraセンサーは、5年間のバッテリー寿命を持ち、温度、速度、加速度などの要因について5分ごとにデータを収集する。LTEを使用して信頼性の高い伝送を行い、クラウドでデータを分析して機器の故障を検出・診断するというもの。このプラットフォームは、視覚化と要約を提供し、技術者が業務に支障が出る前に問題に対処することを可能にする。独自のAIモデルは、季節の変化などの環境要因に合わせてアラートを調整し、診断精度向上にも役立つ。そして、大規模メーカーに向けたソリューションとして、Tractianは、重要な機器やシステムの問題を優先して迅速に解決するだけでなく、材料の在庫と有効期限も監視し、稼働機器のダウンタイム削減を実現する。その結果として、エネルギー効率、生産目標、工場パフォーマンスを評価する分析ツールを通した業務最適化へのサポートを提供する。
廃棄物管理にAIとロボット工学を活用して変革をもたらすAMP Roboticsは、Congruent Venturesが主導し、Sequoia Capitalなどが参加したシリーズDラウンドで9,100万ドルを調達した。 この調達資金でAMPは、自治体一般廃棄物(MSW)を分別することにすることによるコスト削減、物質的価値の獲得、埋立地の寿命延長を実現するAMP ONEシステムの展開を加速する予定だ。2014年設立のAMPは、これまでに北米、アジア、欧州に400以上のAIシステムを展開し、1,500億点の品目を識別、さらに250万トン以上のリサイクル可能な品目を分別してきた実績を持つ。このAIはディープラーニングを活用して素材をリアルタイムで認識し、回収効率を向上させる。AMP ONEの施設はほぼ自動化されており、これまで不可能だった費用対効果の高い自治体一般廃棄物の処理を実現できるという。AMPの技術は、より安全でデータが豊富で効率的なリサイクルをサポートするという点で、停滞する米国のリサイクル率の向上に貢献すると期待されている。
脱炭素化ソリューションに特化したBE C&I Solutions Holding(BECIS)は、既存株主であるFMO、KLP Norfund Investments、Pula Investments(Berkeley Energyが代表)、およびSiemens Financial Servicesから5,300万ドルの新規株式資金を調達した。同社は、 EaaS(Energy as a Service)モデルを活用し、分散型エネルギーソリューションの開発、構築、運営に携わり、太陽光、バイオエネルギー、そして急速に拡大する冷暖房サービスを中心としたソリューションを提供している。すでにインド、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシア、中国、カンボジアの8つの戦略的市場で事業を展開するECISは、今回の資金調達を通じ、新たなソリューションポートフォリオを拡大する一方、今後2年間で太陽光発電600MWp以上、バイオエネルギー資産400TPH以上の目標ポートフォリオを達成する計画だ。
ベトナムで食材調達プラットフォームを運営する Kamereo Internationalは、住友商事などが主導するシリーズBラウンドで780万ドルの資金を調達した。この資金をもとに、事業をベトナム南部から北部のハノイへと拡大する。同社は野菜、調味料、日用品などのオンライン注文を受け付けており、ダラットの施設から冷蔵トラックでハノイへ配送している。需要予測に基づいて在庫を確保し、午前0時までの注文には翌朝6時までに配達するという。調達した資金は、倉庫やトラックへの投資や、システム改善を目的としたソフトウェア技術者の増員に充てられるという。ハノイ市内では日系や韓国系のコンビニエンスストアやスーパーが増加しており、同社のCEOを務める田中拓氏は「高品質な野菜の需要が高まっている」と述べている。これに加え、現在約40種類あるプライベートブランド商品の拡充にも資金が活用される見込みだ。
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