『欧州でも「健康的な高齢化」に対する技術需要が増加』、『協和キリン、スイスのCimeioと 3億ドル相当の提携契約』、『Aisti、持続可能な音響タイルで2900万ユーロを調達』、『情報の窃盗阻止講じるFlare、3,000万ドルを調達』、『EVソフトウェア開発のWeaveGrid、2,800万ドルを調達』、『ソーラーパネル点検用ソフトウェアRaptor Maps、3,500万ドルを調達』、『シンガポールのEureka Robotics、1,050万ドル調達』、『NTTデータ、マレーシアに新データセンター建設へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第114回」をお届けします。
イントラリンクからのご挨拶
今年もイノベーションインサイトをご愛読いただき、誠にありがとうございました。
2024年は今回が最後の配信となり、年明けは1月10日(金)より再開いたします。
新しい年が皆様にとって、さらに素晴らしい一年となりますよう、スタッフ一同お祈り申し上げます。どうぞ良いお年をお迎えください。
引き続き、ご愛顧賜りますようお願いいたします。
欧州では、2042年までに労働人口の37%が50歳以上になると予測されており、高齢化社会への対応に向けて革新的なソリューションの必要性が高まっている。このような背景から、多くのスタートアップが「健康的な高齢化」の実現に向けて、高齢者の身体的、認知的、感情的な幸福を促進するソリューションを開発している。同セクターで活動する欧州テック企業の予想VC調達資金総額は今年、2014年の10倍以上となる4億9,200万ドルに達すると言われており、特に英国、スイス、フランスがリードしている。また同セクターにおいて資金が集中している分野には、創薬・治療薬、デジタルツール、高齢者ケアプラットフォームがある一方で、過去5年間では栄養&サプリメント(840%増)、予防医療(560%増)、転倒&緊急検知(320%増)などが最も顕著な成長を遂げているという。活躍するスタートアップには、フィンランド発スマート睡眠トラッキングリングのOura(シリーズDで7,500万ドルを調達)、英国発男性の健康とウェルビーイングを支援するManual(2,900万ポンドを調達)、オランダ発認知症ケアを目的とした看護師向けアプリのMomo Medical(650万ユーロを調達)などが挙げられている。
協和キリンと、スイス・バーゼル大学のスピンオフとして2020年に設立され、血液がんやその他自己免疫疾患、遺伝性疾患などの血液疾患患者向けに遺伝子編集および免疫療法の商業化に注力するスイス発Cimeio Therapeuticsが、3億ドル相当の提携契約を締結した。Cimeioのソリューションは、健康な細胞を治療薬の標的から守る一方で、病気の細胞を排除し、健康な組織へのダメージを最小限に抑えるという二重のアプローチを採用しており、2022年には5,000万ドルのシリーズA資金を調達している。今回の提携に基づき、協和キリンが商業ライセンスオプションを行使することにより、Cimeioは契約一時金、2年間の研究資金、ロイヤリティを受け取ることができ、開発・商業マイルストーンの達成が見込まれる。
フィンランドを拠点とする音響タイルのAistiは、最新のシリーズAラウンドで2,900万ユーロを確保した。2019年設立の同社は、従来のミネラルウール系素材の代替となる、木質繊維ベースでリサイクル可能な音響タイルを開発している。このソリューションは、リグノセルロース系木質繊維を非常に多孔質で軽量なタイルに変える、Aistiの特許取得済み発泡成形技術をベースとしており、建設業界は建物の音響効果を向上させながら、二酸化炭素排出量を削減することができるという。すでに北欧の音響タイル市場の3%に相当する年間総額680万ユーロにおよぶ複数の引取契約を結んでいるAistiは、今回の調達資金により、フィンランドに同社初となる商業工場を建設し、年間生産能力250万平方メートルの製品提供を目指すとともに、まず持続可能な建築ソリューションへの需要が高まる北欧市場をターゲットに事業を拡大していく予定。
モントリオールを拠点に、サイバーセキュリティリスクへの継続的対策として脅威エクスポージャー管理ツールを開発するFlareは、Base10 Partnersが主導するシリーズBラウンドで3,000万ドルを調達した。2024年を通して、情報窃取マルウェアの増加によりサイバー犯罪が急増し、ハッカーは認証情報を自ら盗むことなく、ダークウェブで購入することができるため、ログイン認証情報を取得することが今までなく容易になっている。こうした悪質の攻撃に対抗するため、Flareは中小企業向けのサイバー脅威インテリジェンスに特化し、Telegramのようなプラットフォームを独自に監視している。Telegramアプリは創設者が法的な問題に直面しているにもかかわらず、そのダウンロード数は増加しており、脅威の根源となるハッカー達のコミュニケーションの場として利用され続けている。Mandiant、Palo Alto Networks、Microsoftなどを競合とするFlareは40ヶ国に250社の顧客を持っており、投資家の信頼が高い脅威インテリジェンス分野において更に存在感を高めている。
シームレスな電気自動車(EV)の導入を可能にするWeaveGridは、トヨタのWoven Capitalが主導し、Salesforce Venturesなどの既存投資家、およびHSBC Innovation Bankingからの融資により、2,800万ドルを調達した。これにより、EVをグリッドに統合し、最適な充電とグリッドの安定性を実現する充電ソリューションにおけるWeaveGridのリーダーシップを強固にしていく方針だ。同社のEV管理システム(EVMS)は、AI、特許取得済みのグリッド最適化、およびV2G機能を使用して、電化やAIデータセンターによる電力需要の増加に対応する公益事業をサポートする。また送電網の信頼性を高めながら、EVドライバーに安全で効率的な充電体験を提供する。トヨタに加え、米国内を走るEVの40%以上を供給する公益事業者との提携により、WeaveGridはエネルギーと輸送という観点から持続可能なモビリティの未来を推進する。今回の最新調達資金で、同社プラットフォームの拡大、研究、および自動車メーカーや公益事業者とのより深い連携が加速し、持続可能なエネルギーエコシステムが構築されると期待されている。
ソーラーパネル検査に特化したソフトウェア開発のRaptor Mapsは、Maverix Private Equity主導のシリーズCラウンドで3,500万ドルを調達した。2015年にMITで設立されて以来、同社のソフトウェアは、北米および世界市場における主要なソーラーポートフォリオの規模拡大とデジタル化に貢献してきた。ソーラーパネルアレイをデジタルモデル化し、システムのデータと画像を統合する。 その情報を分析することで、オペレーターは回路の異常や、植物がパネルを覆い隠すなどの問題を感知することができる。独自のプラットフォームRaptor Solarは、資産所有者がソーラーサイトを構築、管理、運用するための記録システムとワークフローを提供する。世界的な太陽光発電(PV)システムのパフォーマンス低下に関する年次報告書の発行もしているRaptor Mapsだが、2023年のまとめによると、システムレベルの異常が電力損失の最大の要因である上、ストリング、インバーター、コンバイナーの異常が、検査された総電力に占める割合で最も大きな影響を与えると報告された。
シンガポールを拠点とするロボット工学スタートアップのEureka Roboticsは、B Capitalが主導するシリーズAラウンドで1,050万ドルを調達した。このラウンドには、ディープテック分野の起業家を支援するAirbus Venturesや、日本の機械専門商社であるマルカ株式会社などが新たに参加している。2018年設立のEureka Roboticsは、工場における単調で危険、かつ労働集約的な作業の自動化を目指している。同社のソリューションは、ロボット工学とAIの進歩を活用し、高精度かつ高機動性(HA-HA)のアプリケーションを実現するためのソフトウェアとシステムを提供している。なお、Eureka Roboticsは、シンガポールと日本での事業拡大を計画する中、すでに初期顧客を獲得している米国市場への参入準備も進めている。今回の調達資金は、同社の主力製品である「Eureka Controller」およびEureka 3D Cameraの開発に充てられる。
NTTデータグループは、マレーシアのジョホールバルにおいて、新たに68.5エーカーのデータセンター用地を取得すると発表した。このプロジェクトは、同社のアジア太平洋地域(APAC)での事業拡大戦略の一環で、APAC地域最大級のデータセンターキャンパスの一つとなる予定。また同施設は6棟の専用ビルで構成され、合計約290メガワットのIT負荷容量を提供する計画。最初に建設されるビルの初期容量は48MWで、2027年4月に稼働を開始する見込みだ。これにより、マレーシアのデジタルインフラの強化と地域経済の成長促進が期待されると同時に、NTTデータがこれまでにAPAC内で築いてきた強力なパートナーシップを活用することで、さらなる市場拡大を図る。さらに、同施設ではAIに対する需要の高まりに対応するため、直接液体冷却などの新技術を導入し、エネルギー効率の高い持続可能な設計を取り入れる予定だ。同社は、現在世界20kヶ国以上で150以上のデータセンター施設を運営しており、2030年までに自社事業活動の排出量、2040年までにバリューチェーン全体で排出量を実質ゼロにするという長期的な目標を掲げている。
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