『2025年、ディープテックの展望』、『ダブリン発FIRE1、慢性疾患の改善に向け1.2億ドルを調達』、『Swave Photonics、3Dホログラフィック・ディスプレイ技術で資金調達』、『安価でクリーンな鉄精製を追求するElectra、1.8億ドル調達』、『AIを活用した鉱物探査 KoBold Metals、5億ドル超を調達』、『2025年は高まるAIの環境負荷に伴い、クライメートテックへの投資加速』、『マレーシアのUモバイル、FELDAがデジタル変革で提携』、『East Venturesの市場展望2025:「信頼できる東南アジア」の実現』を取り上げた「イノベーションインサイト:第115回」をお届けします。
Atomicoが発表した最新の「State of the European Tech 2024」によると、調査対象となったLPの57%がディープテック・ファンドのデューデリジェンスを行っていると回答し、投資家にとってのディープテックの重要性がさらに浮き彫りになっている。この結果を受け、2025年に最もホットなディープテックが何か、様々な意見が飛び交っている。Promus Venturesは、AIがロボット工学、バイオテック、半導体などの分野を独占し、成長を促進すると予想する一方で、Redalpine VCは、AIにとってエネルギーも依然として重要な課題であり、2025年には核融合技術がさらに加速すると期待する。またSilicon Roundabout Venturesは、将来の技術収入の60%がハードウェアを活用したイノベーションによるものと見込まれていることから、ハードウェア開発企業への投資も、VCの資金調達に占める割合が現在の20%から2025年には40%に拡大すると述べている。最後に、今年は量子技術も重要な役割を果たすとされ、欧州の関連企業は、2025年までに2億ユーロ以上の収益を上げると言われる中、OpenOceanはこれらの企業が企業向けソリューションの実用化に注力すると予測している。
慢性疾患を持つ人々の生活の改善を目指すアイルランド発FIRE1は、その心不全管理ソリューションで1億2,000万ドルを調達した。2013年に設立されたFIRE1は、米国で600万人以上が罹患する心不全患者に共通する問題である体液過多の測定のため、「Norm」と呼ばれる小型で低侵襲の埋め込み型センサーを開発している。これにより、持続的グルコース・モニタリングが糖尿病治療に革新をもたらしたように、患者自身が自宅で使用可能な装置を使って体液量をモニター、コントロールできるようにすることで、心不全管理方法を改善したい考えだ。昨年5月、アイルランドで初めて心不全の遠隔モニタリング用システムの導入に成功したFIRE1は、今回の調達資金を活用し、臨床試験を完了させる予定である。
ベルギーを拠点にホログラフィック・ディスプレイを開発するSwave Photonicsは、Murata Electronics North Americaが参加したシリーズAラウンドで2,700万ユーロを調達した。半導体技術を専門とする世界有数の研究機関であるimecからのスピンオフとして2022年に設立されたSwaveは、光波を高解像度の画像に成形するホログラフィック拡張現実ディスプレイ技術を開発する。主にARグラスや車載用ヘッドアップディスプレイなどに応用される同社の技術は、既存技術に比べ、高価な部品を必要とせず、ARシステムを簡素化することができる上、CMOSチップ技術をベースにしているため、スケールアップも容易で低コストだという。さらに、現在のARデバイスはユーザーに吐き気や疲労感を与える可能性がある中、Swaveのソリューションは人間の視覚が自然にこれらの画像を処理することを可能にし、より快適な使用を実現する。今回の資金調達により、同社は製品の開発をさらに進めていく予定だ。
コロラド州に拠点を置くElectraは、環境汚染の激しい鉄鋼製造業界に革命をもたらすべく、電気を使用して低品位鉱石から純粋な鉄を抽出する技術で1億8,040万ドルの資金を調達した。同社の技術革新は、世界全体の二酸化炭素排出量の7%を占める従来の製鉄プロセスをよりクリーンなものにする可能性を秘めている。 AmazonやBreakthrough Energy Venturesなどの大手投資家から支援を受けるElectraは、通常は銅やニッケルなどの金属の採取に使用される電気採取法の改良版を採用し、酸性の溶液を60℃まで加熱することで、低品位の鉱石からも効率的に鉄を抽出することができ、化石燃料を使用する高炉に代わる費用対効果の高い方法を実現する。 こうして得られた鉄板は、再生可能エネルギーで稼働可能な電気アーク炉の原料となるという。この独自のアプローチと電気アーク炉を組み合わせることで、Electraは製鉄によるCO2排出量を大幅に削減する計画だ。
カリフォルニア発、AIを活用して再生可能エネルギーやバッテリーに不可欠な金属を特定するKoBold Metalsは、T. Rowe PriceとDurable Capital Partnersが主導し、Breakthrough Energy Venturesを含む新規および既存投資家が参加したシリーズCラウンドで5億2,700万ドルを調達した。KoBoldは、生成型AIと機械学習を活用して膨大な地球物理データを分析し、従来の方法では見逃されがちな鉱物鉱床を特定する。同社は、EVバッテリー、再生可能エネルギー、半導体にとって不可欠なレアアース金属、銅、リチウム、ニッケル、コバルトなどの金属に重点的に取り組んでいる。世界的な金属需要の高まりを受け、KoBoldは5大陸70以上のプロジェクトに年間1億ドル以上を投資、昨年2月には、ザンビアで20億ドル相当の銅鉱床を発見し、2030年以降、年間30万トンの生産を予定している。また新規資金調達額の約40%は既存プロジェクト、特にザンビアの事業に資金注入を行い、データ科学者や地球科学者のチーム拡大と5年以内の株式公開を目指している。
新年早々に、クライメートテックは課題と機会の両方に直面している。米国連邦議会選挙でインフレ削減法(IRA)巻き戻しの可能性が生じ、助成金に依存するスタートアップの懸念が高まった。一方で、AI駆動に必要な電力需要により、原子力、再生可能エネルギー、バッテリー、核融合などの多様なエネルギー源への関心は強まっている。例えば、2年前の国立点火施設による世界初陽子核融合反応生成に関する発表以来、Marvel Fusion などの核融合企業はこれを資金調達の起爆剤として利用してきた。そして Zap Energy を含む各企業は、2030年代初頭に発電所をグリッドに接続するために、プロトタイプや商業用原子炉の研究開発を継続する予定だ。さらに水素関連企業においては、地中水素への関心が高まれば救済措置が講じられる可能性もあるが、IRA助成金の不安定な影響を受け、1キロあたり1ドルの実現が遠のく可能性が調達活動のマイナス素材になり、業界の将来は不透明である。他にもAIの電力需要のさらなる高まりに対応するために、グリッドへの投資や直接エネルギー取引などが重要視されている。
マレーシアの5GネットワークプロバイダーであるU Mobileは、政府機関である Federal Land Development Authority(FELDA)と提携し、デジタル変革の推進を支援する契約を締結した。これにより、U MobileはFELDAのデジタル化において中核的な役割を担うことになる。U Mobileは、FELDAの全国にわたるオフィスや支店にエンタープライズグレードの接続ソリューションを導入する。この取り組みにより、従来の固定電話ベースの通信プラットフォームが、機動性と効率性を備えた統合ソリューションへとアップグレードされ、FELDAのスタッフは1つの電話番号で3つのデバイスから音声通話やデータにアクセス可能となる。この変革はFELDAに多くの利点をもたらす。例えば、電話回線の削減によるコスト効率の向上、スタッフがデスクにいない場合の電話対応による顧客サービスの改善、ビジネスの成長に応じた内線番号の柔軟な追加、そしてスタッフ間の連携強化による生産性の向上などが挙げられる。
主要国で新たな指導者が政権を担う中、世界経済と市場の見通しはより明確になりつつあり、将来の成長に向けた有望な機会が広がっている。今後5年間で世界経済は3.1%前後の成長率を維持することが予測され、パンデミックの影響からの回復を示す見込みである。この成長は技術革新による後押しを受け、イノベーションを促進し、新たな産業を創出する要因となる。こうした変化は、グローバル市場と地域経済の課題に対応する革新的な貿易アプローチを生み出し、経済的相互依存の未来を再構築する可能性がある。特に東南アジアでは、堅調な消費、投資の改善、観光業の回復が2025年の成長を支える要因となる。さらに、FRBによる利下げは消費者と企業の双方に恩恵をもたらすだろう。Googleにより発表されたe-Conomy SEA 2024レポートでは、東南アジアのデジタル経済に関するトレンドと指標が示されており、East Venturesが投資先企業の評価に活用する基準となっている。2025年において、East Venturesが注目する分野は、AIを最優先とするスタートアップ、ヘルスケアのイノベーション、気候技術、そして消費者向け技術である。
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