『Neko Health、予防医療スキャンで2.6億ドルを調達』、『住友商事、藻類由来DHAのHuvepharmaと独占代理店契約』、『AI合成音声スタートアップのElevenLabs、評価額が30億ドルに』、『核融合のHelion、Microsoftとの共同事業に向け4億ドル超調達』、『大手3社がJV設立、AIインフラに5,000億ドル出資へ』、『サイバーセキュリティのEclypsium、インフラ強化で4,500万ドル調達』、『Elev8.vc、3,000万ドルのディープテックファンドをクローズ』、『インドネシアの海藻スタートアップBanyu、125万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第118回」をお届けします。
スウェーデン発予防医療ソリューションのNeko Healthが、最新のシリーズBラウンドで2億6,000万ドルを調達した。2018年設立のNeko Healthは、わずか数分で患者の体内外に存在する何百万ものヘルスデータポイントをマッピングする非侵襲性スキャナーを開発している。この技術は、皮膚のほくろや斑点などを皮膚がん診断の一環として検出する上、ウエスト周囲径、血圧、血糖値、コレステロール値、中性脂肪値、心拍数、握力などを測定し、メタボリックシンドローム、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などのリスクがあるかどうかを判定することもできる。検査と医師の診察の所要時間は1時間で、検査費用は299ポンド。2023年以来、Neko Healthはストックホルムとロンドンで10,000件の検査を完了し、全世界で100,000人以上が待機しているという。今回の資金調達により、同社は米国をはじめとする新たな地域でこれらの検査を提供する体制を整えていく。
住友商事が、ブルガリアで藻類由来DHAを開発するHuvepharma EOODと、日本市場向け独占代理店契約を締結したと発表した。1999年に設立されたHuvepharmaは、家畜向け添加物、動物用医薬品、栄養食品を製造する一方、DHAなどの藻類由来の栄養素を供給するため、欧州最大級の発酵施設を所有している。日本のDHA市場は急速に拡大しているものの、現在普及しているDHAのほとんどが魚由来であり、独特の生臭さ、魚体に蓄積される残留重金属のリスク、乱獲などの問題が懸念されている。Huvepharmaの藻類由来DHAは、魚由来のDHAと同じ成分を持ちながら、これらの問題を心配する必要がない。住友商事は約70年にわたり、農業資材の売買や卸売に携わってきた。その一環として、藻類由来のタンパク質やゲノム編集技術を活用した高機能農畜産物などの次世代素材にも注力している。今回の提携により、住友商事は次世代藻類由来製品のポートフォリオ拡充を目指す。
ニューヨークとロンドンを拠点とするAI合成音声スタートアップのElevenLabsは、最新のシリーズCラウンドで2億5,000万ドルの資金を確保し、その評価額が30億ドルに達した。2022年に設立された同社は、テキストを音声に変換するAIツールを構築し、リアルかつ文脈を意識したスピーチ、音声、効果音を32の言語で生成する。このプラットフォームは、「自信に満ちた」、「表情豊かな」などのタイプに分類された1,000以上の声のライブラリーを備えている。 ElevenLabsのツールは、個人、企業、クリエイティブ・プロフェッショナルなど、さまざまなユーザー向けに設計されており、その技術は、タイム誌のテキスト記事のナレーションや、Nvidiaの企業ビデオの翻訳に使用されている。合成音声分野における競合他社には、Deepdubのようなスタートアップや、グーグルやOpenAIのような業界大手が含まれる中、ElevenLabsは現在、200人以上の従業員を擁している。欧州には英国、ポーランド、ハンガリーに製品・研究チームを配置する一方、米国は主に営業とパートナーシップにフォーカスしたチーム構成となっている。
ワシントンを拠点に核融合技術に取り組むHelionが、SoftBank Vision Fund 2を含む投資家から4億2,500万ドルのシリーズF資金を調達した。これにより、同社の企業価値は50億ドルに達した。2013年に設立されたHelionは、クリーンエネルギーを生産するための核融合炉を開発している。この技術では、強力な磁石を使用し、混合ガスをプラズマになるまで加熱する。このプラズマは2つのリング状に成形され、それらが衝突することでエネルギーが発生する。競合する核融合アプローチでは、そのエネルギーを電気に変換するための追加ステップが必要だが、Helionのプロセスは直接電気を回収することができる。現在、AIサービスやアプリケーションに電力を供給するデータセンターの消費電力が大きいことから、この分野への注目が高まっている。例えば、MicrosoftはHelionと2028年までの50MW規模の電力販売契約(PPA)を2023年に締結した。次の段階として、同社は今回の調達資金の多くを社内サプライチェーン業務の強化に充てることで、融合デバイスの製造能力を加速させ、2028年の期限に間に合わせる予定だ。
OpenAI、SoftBank、Oracleの3社は、Stargateという新会社を設立し、米国における人工知能のインフラ整備に最大5,000億ドルの投資を行うと発表した。同プロジェクトには、まず1,000億ドルが投資され、その後数年間で最大5,000億ドルをStargateに注ぎ込む計画だ。またこの20ヶ所で新たなデータセンターが建設され、10万人の国内雇用が創出される見込みだ。100万平方フィートにわたる最初のデータ・プロジェクトはすでにテキサス州で建設中だ。なお、Oracle の会長は、このプロジェクトがデジタル・カルテにも関連しており、AI を活用してカスタマイズされたワクチン開発をサポートすることで、がんなどの病気の治療を容易にする可能性があることを示唆した。Stargateは、財務責任をソフトバンクが、一方で運営責任はOpenAIが負う形で構成され、他にもMicrosoft、投資家のMGX、チップメーカーのArmとNVIDIAが今後参画すると言われている。
ポートランドを拠点とするサイバーセキュリティのEclypsiumは、Qualcomm Venturesが主導するシリーズCラウンドで4,500万ドルを確保した。2017年設立のEclypsiumは、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア・コンポーネントをスキャンし、アクティブな脅威の兆候やデバイスの完全性に対する予期せぬ変化を検出することで、サプライチェーンのセキュリティを強化する。主に金融サービス、ヘルスケア、通信、公共安全など、重要なインフラに携わり、複雑なサプライチェーンや脅威の高度化によって重大なリスクに直面する企業や政府機関にサービスを提供している。現在100人超えの従業員を抱えるEclypsiumは、その収益が毎年倍増しているという。これは、GPU、アクセラレータ、管理コントローラなどの特殊なハードウェアに依存するAIデータセンターへのシフトが、新たな脆弱性とビジネスチャンスをもたらしたことに起因する。なお、今回の調達資金は、ネットワーク機器、データセンター・インフラ、AI関連ハードウェア・コンポーネントの脆弱性に対処する機能開発に充てられる予定だ。
アーリーステージのディープテック投資に特化したシンガポールVCのElev8.vcは、3,000万ドル規模の最新ファンドのクローズを発表した。このファンドは、シンガポールを世界的な技術革新のハブとすることを目指し、AI、医療技術、ロボット工学、先進製造などの分野におけるディープテック企業を支援する。この最新ファンドは、すでにAevice、Auristone、CoNEX、Equatorial Space、Gush、KABAM Robotics、Moon Technologies、N&E Innovations、Polybeeおよび2社のスタートアップに投資している。これらのスタートアップは、宇宙開発からサステナブルな素材、AI技術に至るまで、多岐にわたる分野で技術の限界に挑んでおり、同ファンドのビジョンである「変革をもたらし、大きな影響を与えるベンチャーの支援」を体現している。Elev8.vcの新ファンドは、今後20~30社の成長ポテンシャルを持つ企業への資金提供だけでなく、戦略的リソースも提供する。また、同社はアジア、欧州、北米に広がるネットワークを活用し、ポートフォリオ企業をグローバル市場、人材、さらなる投資機会と結びつけることで、シンガポールをディープテックのイノベーション拠点としてさらに発展させることを目指している。
インドネシアから海藻事業に取り組むBanyuは、Intudoが主導する125万ドルのシードラウンド資金を調達した。2023年に設立されたばかりのBanyuは、高品質な苗、先進的な栽培技術および安定した収入機会を提供することで地元農家を支援し、インドネシアの海藻産業に変革をもたらしている。Banyuは、海藻バリューチェーンを変革することを目指し、市場の断片化を解消しながら、効率的で透明性の高いシステムを構築。高品質の投入資材の提供、先進農業技術の指導、小規模農家へのテクノロジー支援を通じて、持続可能な成長を促進している。インドネシアは世界最大の熱帯海藻類の生産国であり、グローバルな海藻サプライチェーンにおいて重要な役割を担っている。しかし、同国の海藻産業は主に零細農家によって支えられており、100万人以上が海藻栽培に従事しているものの、低品質の投入資材や労働集約的な農法により生産効率が低く、価格の透明性の欠如や需要の不安定性が市場の成長を阻んでいる。さらに、資金調達の困難さやデータ・技術導入の遅れも課題となっており、業界全体の発展を妨げる要因となっている。Banyuは、これらの課題に対処するため、技術革新と持続可能な農業モデルを組み合わせ、農家や地域社会への包括的な支援を強化している。また、農家、取引業者、加工業者と緊密に連携し、より強固な市場構造と品質保証体制を確立。インドネシア産の海藻および関連製品の国際市場での競争力向上を目指す。
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