『仏、国内AIエコシステムに1,000億ユーロ以上の投資計画』、『世界初の細胞培養肉ペットフード、英国で店頭販売開始』、『パイオニア、ドイツに研究開発拠点を新設』『ドローン防御のHidden Level、6,500万ドルを調達』、『カニ殻をグリーンな化学物質に変えるTidal Vision、1.4億ドル調達』、『加StackAdapt、プログラマティック広告技術で約2.3億ドル調達』、『East VenturesとSV Investment、1億ドルのファンドをクローズ』、『マレーシアのPayd、40万ドルの追加資金を確保』を取り上げた「イノベーションインサイト:第120回」をお届けします。

今週パリで開催されたArtificial Intelligence Action Summit に先立ち、フランスのマクロン大統領は、今後数年間で国内AIエコシステムに総額1,090億ユーロの民間投資を行うと発表した。これは、先月に米国政府が1月に発表した5,000億ドルのAIインフラ投資に対抗するもので、投資の大半はAIに特化したデータセンターの新設に充てられる予定。主な出資者にはOrangeやThalesなどが名を連ねている。フランスは、AIのイノベーションを支援する上で複数の利点に期待を寄せている。第一に、国内発電の大部分がいまだに原子力に依存している上、同国は使用量を上回る電力を供給していることから、仏政府は、2026年末までに1GWの原子力をAI学習に充てる予定だという。また同国では、MistralやOwkinといったよく知られたAIスタートアップ企業も活躍しており、こうした利点を生かして海外からの投資を呼び込む狙いだ。

昨年、英国で初めて規制当局の認可を受け、細胞培養食肉サプライヤーとなったMeatlyが、市販のペットフード用に細胞培養食肉を供給する世界初の企業となった。2022年に設立されたMeatlyは、1個の鶏卵から採取した1つのサンプル細胞から鶏肉を製造している。この鶏肉はステロイド、ホルモン、抗生物質を一切使用せず、既存の製造サプライチェーンに直接導入することができる。この業務用ペットフードは、ペットフードブランドTHE PACKとのコラボレーションにより製造され、英国最大のペット小売業者、Pets at Homeの店舗で期間限定で販売される。Pets at Homeは、Meatlyの最大出資者の一社であり、また養殖肉を原料とするペットフードを世界で初めて販売した小売業者でもある。なお、Meatlyは今後2年間で、これらの商品を定期的に提供できるよう生産規模を拡大する予定だ。

電機メーカー大手のパイオニアが、独ヘッセンに研究開発拠点を新設し、欧州におけるモビリティ・イノベーション活動を強化すると発表した。「“未来の移動体験を創ります-Creating the Future of Mobility Experiences-」という企業ビジョンの一環として、同社は過去数年にわたり、モビリティ体験をより安全、快適、スマートなものに変えることを目的に、斬新な製品やサービスの開発に取り組んできた。この新たなドイツ拠点では、欧州自動車メーカー向けに付加価値の高い自動車用サウンド製品の開発に注力するという。自動車産業における独エコシステムの強みを考慮すれば、同社が研究開発センターの建設地としてドイツを選んだことは驚く話ではない。これにより、同社は欧州自動車メーカーにより近い場所でサービスを提供し、市場により近い場所で研究開発プロジェクトを実施することが可能になる。


高度な無線周波数センシング技術に特化したドローン防御を開発するHidden Levelは、DFJ Growthが主導し、Booz Allen Ventures、Revolution Growthなどが参加したシリーズCラウンドで6,500万ドルを調達した。2018年設立の同社は、有人・無人を問わず、隠密行動をとるドローンなど、空中からの脅威を検知・追跡するリアルタイム監視ソリューションを提供している。Hidden Levelのパッシブレーダー技術は、探知可能な信号を発信せずにステルス探知を可能にするため、妨害が困難になるという仕組みだ。 同社のソリューションは、既存システムと統合することで、拡張可能な空域監視を実現し、空中での活動や操作者の位置情報など、実用的な洞察を提供する。すでに国防、重要インフラ、公共安全の分野で広く展開されており、米国国防総省やNASAも顧客に名を連ねる。過去1年間に総額1億ドルを調達した同社は今後、民間・軍事用途の両方におけるドローンの急速な普及に伴い、空域の安全を確保するための効果的な防御システムの必要性に応える構えだ。

ワシントン州に拠点を置くTidal Visionは、Cambridge Companies SPG主導、Milliken & Companyなどが参加したシリーズBラウンドで1億4,000万ドルを調達した。2015年に2人の元漁船船長によって設立された同社は、廃棄されたカニ殻や甲羅を水質浄化、農業、難燃剤、化粧品などに使用される多用途の化学物質であるキトサンとして有効活用している。キトサンは、有毒化学物質や石油由来製品に代わる環境にやさしい製品として生まれ変わる。Tidal Visionは、サウスカロライナ州の施設をはじめ、テキサス州における液体肥料用の新工場、オハイオ州と欧州で建設予定の施設など、事業設備を拡大している。また2023年には、同社の水浄化技術の初期採用者であるクリアウォーター・サービスを買収するなど、事業拡大にも意欲的だ。最新の資金調達を機に、Tidal Visionはキトサン技術のさらなる発展と、より幅広い産業分野での応用を目指すなど、持続可能なイノベーション・リーダーとしての役割を強化していく。

トロント発、プログラマティック広告企業のStackAdaptは、オンタリオ教職員年金基金の投資部門Teachers’ Venture Growthが主導し、Intrepid Growth Partnersや匿名投資家なども参加した資金ラウンドで2億3,500万ドルを調達した。2014年設立の同社は、AI主導のプログラマティック広告を専門としており、政治キャンペーン、小売、ヘルスケア、金融など、幅広い業界のマーケティング担当者が、ネイティブ広告、動画、コネクテッドTVなど、さまざまなデジタルフォーマットを通じて、オーディエンスを効率的にターゲットできる広告技術を提供する。より多くの企業が、自動化とAIを通じて費用対効果を優先しながらビジネスソリューションを模索する中、自動化とは裏腹に、広告詐欺やブランドセーフティのリスクなどの課題が浮き彫りになっているのも現状だ。その結果、StackAdaptのような企業は自社ソリューションに対する強い需要を実感しており、今後はAIを活用したデジタル広告ソリューションのリーダーとしての役割を強化していく意向だ。


インドネシアおよび東南アジアを拠点とするEast Venturesと、韓国に本社を置く上場VC・PEのSV Investmentが、1億ドル規模の東南アジア向けファンドのイニシャルクローズを発表した。同ファンドは韓国産業銀行(KDB)からのアンカー出資と、世界有数のネオバンクによる戦略的コミットメントとともに、両社がこれまで築いてきた実績と投資パフォーマンスを基盤として構築され、2025年半ばまでに最終クローズを目指す。両社は、すでに収益を生み出し、東南アジアと韓国において事業拡大を目指すスタートアップを対象に、シリーズAからシリーズBラウンドにかけて、リードインベスタートとして100万ドルから300万ドル規模の投資を行う計画だ。

マレーシアのフィンテック企業で、勤労所得アクセス(EWA)ソリューションを提供するPaydは、最新のシード・エクステンション・ラウンドにて、A2D Ventures、Orbit StartupsおよびAngelSparkから40万ドルを調達した。Paydは、この資金を活用し、東南アジア全域における従業員の経済的安定を向上させる取り組みを加速させるとしている。同社はマレーシアとタイで事業を展開する金融ウェルネスプラットフォームであり、従業員が給与の一部を即時に受け取れる仕組みを提供する。EWAを導入することで、従業員の金銭的ストレスを軽減し、生産性と忠誠心の向上を目指す。現在、10万人以上の従業員に利用されている同プラットフォームは、雇用主にとっても、Paydは従業員の定着率と満足度を向上させる有力なツールとなる。従業員が稼いだ賃金にオンデマンドでアクセスできることで、企業はより意欲的で忠誠心の高い労働力が確保され、離職率の低下と採用コストの削減が期待される。同社のソリューションは、優秀な人材の獲得・維持に貢献する独自の価値提案となる。

イントラリンクについて
イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。