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イノベーションインサイト:第124回

イノベーションインサイト:第124回

『スペイン政府、Multiverse ComputingとAIに大規模投資』、『Shellやトヨタが出資、グリーン水素のSupercriticalが資金調達』、『IAG、2億ユーロを投資するIAGi Venturesを設立』、『リアルタイム音声AI開発Cartesia、6,400万ドルを調達』、『Spiritus、DACの炭素除去コスト削減に3,000万ドル調達』、『Coalition、三井住友海上から3,000万ドルを調達』、『シンガポールのAgros、シリーズAラウンドで425万ドルを調達』、『ベトナムのSmartSolar、シードファンドとして185万ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第124回」をお届けします。

スペイン政府、Multiverse ComputingとAIに大規模投資

先週開催されたMWC Barcelona 2025にて、スペインのデジタルトランスフォーメーション担当大臣が、AI圧縮を専門とするMultiverse Computing6,700万ユーロを共同投資すると発表した。2019年に設立されたMultiverse Computingは、量子コンピューティングにヒントを得て、より少ないリソースを消費することで、同じ結果をもたらしながらも、AIモデルを元のサイズのわずか10%に圧縮するソフトウェアを開発した。同社は、金融、エネルギー、製造、サイバーセキュリティなどの領域で複雑な問題をAIで解決することを目指している。さらにスペイン政府は合計2億ユーロを超える新たなAIへの資金提供を発表し、AIをバリューチェーンに組み込む企業支援に13,000万ユーロ、ヘルスケア分野におけるAI統合促進へ5,000万ユーロ、中小企業におけるAI導入に2,400万ユーロが投入されるという。これらの取り組みを通じて、スペイン政府はエネルギー効率の高いAIと大規模な言語モデルにおける主要なテックハブとしての地位を確立することを目指している。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Shellやトヨタが出資、グリーン水素のSupercriticalが資金調達 

英国を拠点にグリーン水素製造技術を開発するSupercritical SolutionsShell VenturesToyota Venturesが共同主導し、Global Brainが運営するNiterra 水素の森ファンドThai Oilなどが参加したシリーズAラウンドで1,400万ポンドを調達した。2020年設立の同社は、電解膜を必要とせず、220バールを超える圧力で水素と酸素を供給できる高圧かつ超高効率の電解装置を開発し、純度99%の水素をわずか42kWh/kgという電力効率で生成する。また希土類金属、イリジウム、PFASを使用しないという利点もある。総じて、Supercriticalはこの先10年以内に水素製造コストを1ポンド/kgH2以下に下げることを目指している。今回の資金調達により、同社は独自の電解技術をパイロットスケールまで拡大する計画で、早ければ2027年の納入を目指し、その受付を開始した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IAG、2億ユーロを投資するIAGi Venturesを設立 

英国・スペインの多国籍航空会社であるInternational Airlines Group (IAG)が、革新的な航空関連スタートアップに5年間で最大2億ユーロを投資するコーポレート・ベンチャー部門として、新たにIAGi Venturesを設立した。2011年に設立されたIAGは、ブリティッシュ・エアウェイズ、エア・リンガス、イベリア航空などを運営、現在は600機以上の航空機を保有し、12,200万人以上の顧客を運ぶ航空会社グループである。2016年から実施されているIAGアクセラレーター・プログラムを強化する目的で設置されたIAGi Venturesは、航空業界が直面する最も差し迫った課題に対処する技術を開発する企業を中心に、世界中の企業に投資する。IAGがすでに出資した企業の例としては、AIを用いて空港や航空会社のオペレーション最適化を専門とするスイスAssaiaをはじめ、航空燃料管理ソフトウェアを提供する英国発i6、持続可能な航空燃料を開発する米国LanzaJetなどがある。なお、IAGが支出する2億ユーロという金額は、この種の投資としては世界最大級となる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアルタイム音声AI開発Cartesia、6,400万ドルを調達

AI駆動の音声テクノロジーを開発するCartesiaは、Kleiner Perkins主導のシリーズAラウンド6400万ドルを調達した。Sonic 2.0は、業界をリードするレイテンシーで、極めてリアルな音声合成を実現する 高度な音声クローニング機能により、微妙なアクセントやトーンのバリエーションも再現できるため、会話型AI、コンテンツのローカライゼーション、アクセシビリティツールに最適とされている Cartesiaのインフラは99.9%の稼働率とデバイス上での展開を実現しており、信頼性も高い。さらに同社はより高速な合成を実現するSonic Turbo導入している同社CEO、リアルタイムでAI生成された音声は、カスタマーサービスからバーチャルアシスタントまで、あらゆる業界で普及するだろうと予想する中、このAIモデルは状態空間アーキテクチャを活用し、速度と効率を最適化する。今回の資金調達により、Cartesiaは音声変換やインフィル編集などの機能を統合、音声AIを進化させ、競争の激しい音声AI分野での地位を強化していく予定 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Spiritus、DACの炭素除去コスト削減に3,000万ドル調達

クライメートテックSpiritusは、炭素除去のためのスケーラブルで低コストの直接空気回収DAC)技術の開発推進のため、Aramco Venturesが主導し、Khosla Ventures、三菱重工アメリカ、TDK Ventures参加したシリーズAラウンド3,000万ドルを調達した。ネットゼロ排出を達成するための重要なツールとして国際エネルギー機関に認められているDACは大気中のCO2を抽出するが、現在1トンあたり平均1,000ドルという高いコストが大きな障壁となっているSpiritusは現在、ニューメキシコ州における1,000トン規模のパイロットプロジェクトや、ワイオミング州を拠点に年間2メガトンのCO2隔離が可能な施設Orchard One」などのプロジェクトに取り組んでいるSpiritus独自のアプローチにより、炭素除去コストを90%削減し、1トンあたり100ドルを目下の目標としている。この方法は、受動的空気接触と低温脱着プロセスを備えた独自の炭素捕捉吸着剤を使用し、モジュール式でエネルギー効率に優れ、大規模展開を可能にするというものだ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Coalition、三井住友海上から3,000万ドルを調達

サンフランシスコ発、サイバーセキュリティに特化したインシュアテックのCoalitionは、三井住友海上火災保険MSI)から3,000万ドルの投資を確保した。この資金調達は、MSICoalitionの戦略的パートナーシップを強化し、グローバルなサイバー保険事業の拡大支援を目的としている。2017年に設立されたCoalitionは、インターネットに接続されたデバイスから収集した膨大なセキュリティデータを分析し、独自のスキャン技術を活用してサイバーリスクを評価している。同社の「Active Insurance」ソリューションは、包括的な補償とサイバーセキュリティツールを組み合わせ、企業のサイバーリスクの評価、予防、軽減を支援する2022年より、両社はセキュリティ脆弱性を検出するMS&ADサイバーリスクファインダーをはじめとするサイバーセキュリティソリューションで協業してきたMSIは本提携により、サイバーセキュリティ分野での事業拡大やリスクマネジメントソリューションの開発、企業の持続的成長の支援を目指すという 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンガポールのAgros、シリーズAラウンドで425万ドルを調達 

シンガポールを拠点とするアグリテック企業Agrosは、最新のシリーズAラウンドで425万ドルの資金調達を完了した。同社は2019年の設立以来、アジア全域の農業部門を対象に革新的なソーラー灌漑技術と柔軟な融資を組み合わせることで、農家の利益向上と気候変動に強い農業の推進を支援する統合型ソリューションを展開している。現在、インドネシア、カンボジアおよびミャンマーに事業を拡大し、燃料費ゼロ・CO₂排出削減を実現する太陽光発電灌漑ソリューションを提供するこれまでに6,000人以上の小規模農家を支援し、3万人以上の農業従事者の生活向上に貢献しており、今回の調達資金は、インドネシアでの全国展開、製品イノベーションの促進、デジタルインフラの強化に充てられるという。特に、昨年のインドネシア市場参入以降、同国の米生産量拡大と雨水依存度低減という国家政策に沿った形で事業を急速に拡大してきた Agros は、2025年前半には追加のデットファイナンスを予定しており、主要マイルストーンの達成後、シリーズAの拡大も視野に入れている。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベトナムのSmartSolar、シードファンドとして185万ドルを調達 

ベトナムを拠点とするエネルギーテック企業のSmartSolarは、Picus Capital、2degreesおよびIterativeから185万ドルのシード資金を調達した。同社は商業ビルの屋上に太陽光発電システムを初期費用ゼロで設置し、企業が資金的な障壁なくクリーンエネルギーに移行できる仕組みを提供しており、創業以来、ベトナム国内数十社の中小企業に、合計1MW近い太陽光発電プロジェクトを展開してきた。今回の資金調達により、国内市場での成長加速とともに、東南アジア全域への事業拡大を計画している。SmartSolarの長期的なビジョンは、単なる太陽光発電システムの設置にとどまらず、中小企業が再生可能エネルギーへ円滑に移行できる包括的なエネルギーテック・プラットフォームの構築にある。東南アジアでは、エネルギー需要の増大と気候変動という二重の課題が深刻化する中、SmartSolarの革新的な資金調達モデルと迅速な実行力は、同社を同地域内における送電網脱炭素化の鍵を握るプレーヤーとして位置づける可能性がある。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イントラリンクについて

イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、プロジェクト実行チームの一員として、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業をリードしている。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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