『NATO Innovation Fund、グラフェン・マイクロチップのCamgraphic に出資』、『TOPPANグループ、高機能BOPPフィルムの伊 Irplast を買収』、『Patent Index 2024: 欧州イノベーションは堅調を維持』、『直接リチウム抽出の加Summit Nanotech、日韓投資家から資金調達』、『Latigo Biotherapeutics、オピオイド代替薬で1.5億ドルを調達』、『SkySpecs、再エネ資産の健全性管理で2,000万ドルを調達』、『シンガポールKyberlife、ヘルスケアB2B eコマースプラットフォーム拡大へ300万ドル調達』、『マイクロソフト、マレーシアに3つのデータセンターを開設』、『米国の関税懸念にもかかわらず、アジアのデータセンター向け資金調達が活発化』を取り上げた「イノベーションインサイト:第126回」をお届けします。

英国を拠点とするフォトニクス企業のCamgraphicは、NATO Innovation Fundが共同主導し、Sony Innovation FundやBosch Venturesも参加した最新のシリーズAラウンドで2,500万ユーロを確保した。ケンブリッジ大学からの2018年にスピンアウトしたCamgraphicは、光と電気信号を使用して、シリコンベースの代替フォトニクスよりも高速で安価かつエネルギー効率の高い方法でデータを伝送するグラフェン・マイクロチップを構築している。この技術は、AIやハイパフォーマンス・コンピューティング、衛星通信、自律走行車、レーダー画像処理などに応用される。Camgraphicは今回の調達資金により、伊ピサで研究開発業務を拡大し、ミラノにパイロット製造ラインを設立する。また、現在の17名から来年には34名、2年後には68名へとチームを拡大する予定だ。

TOPPANグループ会社でインドに本社を置くTOPPAN Speciality Films は、同時二軸延伸技術による高機能BOPPフィルムの製造販売を行うイタリアのフィルムメーカーIrplastの株式を80%取得すると発表した。Irplastは、ポリプロピレンを延伸し、透明性、耐久性、加工性を向上させたフレキシブルフィルムであるBOPPに特化し、食品、飲料、乳製品、パーソナルケア、ホームケアなどの業界向けに、フレキシブルフィルムパッケージング、ラベル、粘着テープを提供している。また380人の従業員を擁し、2023年の売上高は1億1,000万ユーロ、生産高の70%以上を世界70ヶ国以上に輸出しているという同社は、バージン原料だけでなく、バイオベースポリマーや産業廃棄物のリサイクル原料も使用している。TOPPANは、印刷・包装分野での経験を活かし、Irplastの技術を自社のフィルム事業に統合することで、日本企業の持続可能なソリューション・ポートフォリオをさらに強化していく。

欧州特許庁(EPO)が最新版となる「Patent Index 2024」を公開した。その中で世界中の企業やイノベーターが2024年にEPOに提出した特許出願件数は、2023年と比べて約20万件増加したという。テーマ別では、AIなどの技術を含む「コンピュータ技術」が初めて首位となり、2024年の特許出願件数は16,815件(2023年比3.3%増)となった。一方で、「電気機械、器具、エネルギー」などの分野は、クリーンエネルギー技術、特にバッテリーの技術革新(24.0%増)に牽引され、昨年最も力強い伸びを示した(前年比8.9%増)。欧州の特許取得件数上位国は、ドイツ、フランス、スイス、オランダ、英国となった。大手企業が引き続き主要な貢献者である一方で、2024年には、特許出願の30%近くが個人発明家、中小企業、大学、公的研究会社によるものであり、スタートアップや学術組織がイノベーションをリードしていることも確認された。今回の発表を受けて、昨年は政治的・経済的な不確実性にもかかわらず、欧州企業が引き続き研究開発に力を入れていることが明確化した形となった。


カナダのカルガリーを拠点とするSummit Nanotechが、開発する直接リチウム抽出(DLE)技術の商業化に向けて2,550万ドルの資金を確保した。Evok InnovationsとBDC CapitalのClimate Tech Fundが主導した同ラウンドには、三井金属とSBIホールディングスが共同運営するファンドやLG Technology Venturesなど、アジアからの投資家も参加した。「denaLi」と名付けられたSummit NanotechのDLE技術は、高度なプロセス制御のためのデータ分析とAIを活用し、そのシステムと完全に統合された水のリサイクル機能を融合する。このアプローチにより、水の使用量削減や使用される吸着剤の寿命延長、そして回収するリチウムを最大限に確保することで、オンストリームでの信頼性を向上し、リチウムの生産コストを引き下げる。同社はこの半年で、チリ北部の実証プラントの稼働や、大手リチウム採掘会社との吸着剤の適格性確認に成功し、独自のデータ分析プラットフォームを立ち上げるなど、複数の重要なマイルストーンを達成してきた。今回の新たな調達資金により、Summitは戦略的パートナーシップの強化と本格的な商業設計を開始する予定で、今後より経済的な資源抽出を実現することで、国際的なサプライチェーンの強化に貢献すると期待されている。

米国疾病予防管理センターによると、2023年には約860万人のアメリカ人が処方されたオピオイド鎮痛薬を誤用していると報告した。加えて、鎮痛剤の膨大な市場と、依存性のない治療選択肢を求める大衆の緊急ニーズから、多くのバイオテック企業がオピオイド代替薬の開発を試みている。そんな中、Latigo Biotherapeuticsは、非オピオイド系疼痛管理薬のパイプライン拡大に向け、Blue Owl Capitalが主導、Qatar Investment AuthorityやSanofi Venturesなどから1億5,000万ドルのシリーズB資金を調達した。2018年に設立され、臨床段階にある同社は、痛みをその根源からターゲットとする新しい経口非オピオイド疼痛治療薬であるLTG-001が、第Ⅰ相試験において、良好な忍容性と速やかな吸収性を示したと報告したばかりだ。また慢性疼痛向けのLTG-305という経口薬も開発している。Latigoは今後、この調達資金を製品およびパイプラインの開発に充てる予定だ。

多様なデータストリームを統合し、再生可能エネルギーアセットの健全性に対するインサイトを提供するSkySpecsが、Goldman Sachs Alternatives、Statkraft、Equinor Venturesなどから、戦略的成長資本として2,000万ドルを調達した。SkySpecsは、風力発電所の所有者や運営者がリスクを管理し、パフォーマンスを最適化、最終的に収益性を向上できるよう支援する。世界中に所在する125社にのぼる顧客を持ち、これまでに27万台以上のタービンを点検してきたSkySpecsは、業界最大のブレードデータリポジトリを有している。このデータセットと同社の深い専門知識、自律型ドローンを組み合わせることで、利用者は資産パフォーマンスと収益性を高めるデータに基づく意思決定を行うことができる。同社は今回の資金調達により、グローバルにスケーラビリティを強化し、再生可能エネルギー資産の健全性管理におけるリーダーとしての地位を確固たるものにしたい意向だ。


シンガポールを拠点とするヘルスケアB2B eコマースプラットフォームのKyberlifeは、5I Venturesが主導し、East Ventures、A2D Ventures、NUS Alumni Venturesが参加した資金調達ラウンドにおいて、300万ドルを調達した。2021年に設立されたKyberlifeは、サプライヤーと研究機関、医療機関、大学をつなぐオンラインマーケットプレイスを運営している。同社のプラットフォームでは、Merck、EppendorfおよびSartoriusなど160ブランドの120万点以上の製品を取り扱い、シンガポール国立大学、デューク・シンガポール国立大学メディカルスクール、シンガポール国立がんセンターなどの主要顧客にサービスを提供しており、このプラットフォームを通じ、調達時間の平均40%削減を実現できるとしている。同社は今回の資金調達により、シンガポール、インドネシアおよびタイにおけるサプライヤーネットワークの拡充を図る。また、今後3年以内にベンダーポートフォリオを10倍に拡大する計画である。加えて、臨床試験や医薬品研究を支援するため、実験機器や化学試薬などの新たな製品カテゴリーを導入予定の上、AIとデータ分析の活用により、パーソナライズされた製品推奨の精度を高める計画もあるという。同社は、長納期や価格の不透明性といったヘルスケア調達の課題に対応し、東南アジアにおける主要なデジタルマーケットプレイスとしての地位確立を目指している。

マイクロソフトは、2025年半ばまでにマレーシア初のクラウドリージョンを設立する予定である。クアラルンプール首都圏に3つのデータセンターを設置し、同国におけるクラウドおよびAIサービスの拡大に向け22億ドルを投資する計画だ。「Malaysia West Cloud 」と名付けられたこのデータセンターは、2025年第2四半期に稼働を開始する見込みである。マイクロソフトは具体的な容量の詳細を公表していないが、 CEOを務めるLaurence Si氏は、米国の半導体チップ輸出規制の影響はなく、計画通りに事業が進行していると述べた。同社は、この投資により今後4年間で109億ドルの経済効果と3万7,000人以上の雇用創出が見込まれるとしている。マレーシア政府は、クラウドおよびAI分野で東南アジアのハブとなることを目指しており、今回の取り組みはその戦略を後押しするものとなる。

アジアのデータセンター市場における資金調達活動が加速しており、大規模な取引が相次いでいる。オーストラリアのFirmus Technologiesのシンガポール部門は1億2,000万ドルの私募債を発行予定であり、インドのYotta Data Servicesはデータセンターパーク向けに5億ドルの調達を協議中である。さらに、Bridge Data Centresはマレーシア事業向けに28億ドルを調達し、DayOneは34億ドルの借入を実施した。また、フィンテック企業CURRENC Group Inc.は、ARC Groupとの共同プロジェクトによるAIファンドの支援を受け、マレーシア・ジョホール州に100エーカーの土地を取得し、500MWの超大型AIデータセンターを建設する計画である。プライベートクレジットおよびインフラファンドの活用が拡大し、従来の銀行融資を超えた資金調達手法が主流になりつつある。クッシュマン&ウェイクフィールドの分析によれば、アジアのデータセンター需要は2028年まで年間32%の成長が見込まれており、米国の18%を大きく上回る。しかし、地政学的リスクや半導体などの主要部品に対する米国の関税政策が業界に影響を与える可能性がある。投資家がより高いリスクプレミアムを要求したり、中国関連のプロジェクトから撤退したりする動きが広がれば、資金調達の勢いにブレーキがかかる可能性も指摘されている。

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