『英国、新たに139億ポンドの研究開発資金を投入』、『手術ロボットのCMR Surgical、新たに2億ドルを調達』、『仏Ecoat、低炭素塗料とコーティング技術で2,100万ユーロを調達』、『AIアプリにセキュリティもたらすAurascape、5,000万ドル調達』、『宇宙太陽光発電・供給のAetherflux、5,000万ドルを調達』、『従業員医療保険提供のThatch、4,000万ドルを調達』、『Foxconn、AIサーバー生産体制を強化に向けベトナムへの投資拡大』を取り上げた「イノベーションインサイト:第128回」をお届けします。

英国の科学・イノベーション・技術省(DSIT)は、2025年から2026年にかけて、ライフサイエンス、スペーステック、グリーンエネルギーなどの分野に139億ポンドの研究開発資金を拠出すると発表した。この資金は、科学研究に資金を提供し、今後1年間で88億ポンドの受給を予定しているUK Research and Innovation(UKRI)など多くの機関に配分される。また、英国宇宙庁には6億7,000万ポンド近くが投入され、グローバル衛星ネットワーク構築などのプロジェクトを支援するで、英国気象庁も気候モデリングに向けて3億1,000万ポンドを受け取るという。さらにハイリスク・ハイリターンの研究への投資と成長を継続することを目的に、DSITは高等研究発明局(ARIA)に1億8,400万ポンドを、AI Security Instituteにも6,600万ポンドを投資する。

英国を拠点とするメドテック企業で、過去にソフトバンクやTencentからも出資を受けていたCMR Surgicalが、その医療用ロボットソリューションで、株式資本と負債資本を合わせて2億ドルを確保した。2014年設立のCMRが開発する軟部組織手術用のロボット は、小型でモジュール化されており、持ち運びが可能な可能な上、アームを360度回転させることができるため、より多くの病院にロボットを用いた最小限のアクセス手術のメリットを提供することができる。このツールは、大腸肛門外科、婦人科、胸部外科、泌尿器科など幅広い手術に活用されている。同社によると、同社のロボットは世界で2番目に多く利用されている軟部組織手術ロボットであり、世界中で3万例以上の手術に使用されてきた。CMRは今回の資金調達により、特に米国市場を中心に、手術用ロボットシステムの世界的な商業化を展開する予定。

フランス発Ecoatは、世界の温室効果ガス排出量の2%を占める塗料・コーティング部門の脱炭素化を目指すソリューションで、2,100万ユーロを調達した。2011年に設立された同社は、化石由来のポリマー・バインダーを水性およびバイオベースの代替品に置き換え、装飾塗料、木材塗料、金属塗料に応用している。過去5年間、年平均60%の成長率を記録してきたEcoatは、近年横ばいあるいは減少傾向にあるコーティング剤市場全体の成長率を上回っていると言われており、中国(Caldic)、韓国(Chemistry Corp.)を含む世界11ヶ国に販売代理店を展開している。今回の資金調達により、同社は米国とアジアにおける事業を拡大するととも、国内施設でバイオベースのバインダー生産を3万トンまで増強する。


2023年設立のAurascapeは、AIネイティブのリアルタイム保護プラットフォームを通じたAIアプリケーションのセキュリティ確保のため、5,000万ドルを調達し、ステルスモードから脱却した。生成型AIの企業導入が急増する中、IT部門の管理外で導入されることも多く、データプライバシー、セキュリティ、AIによる脅威への懸念が高まっている。そんな中、Aurascapeのプラットフォームは、AIツールの使用状況を詳細に可視化し、何千ものAIモデル、コパイロット、マルチモーダルアプリ全体にわたって脅威の検出、リスク分析、ポリシーの適用を実現する。また、社員が独自にAIツールを導入し、セキュリティプロトコルを回避することが多い「シャドーAI」という深刻化する問題にも対応する。従来のセキュリティ・ソリューションが現代のAIのダイナミクスに対応できてない状況下でも、AIは継続的に職場に定着するものと想定されており、今後Aurascapeはサイバーセキュリティのベテラン企業からの支援も受けながら、防御の基盤となることを目指している。

Robinhoodの共同創業者バイジュ・バット氏によって設立された、宇宙太陽光発電のAetherfluxは、Breakthrough Energy Ventures、Andreessen Horowitzを含む投資家が参加したシリーズAラウンドで5,000万ドルを調達した。宇宙から地球に太陽光発電を送信するという野心的な計画を推進するAetherfluxは、米国防総省の支援も受けながら、軍事利用における宇宙エネルギーの可能性も探っている。アイザック・アシモフの小説にインスピレーションを受け、2026年に最初のデモ衛星を打ち上げることを目指す同社は、太陽エネルギーをレーザーパワーに変換する低軌道衛星を展開し、そのレーザーパワーを地球上の地上局に送信する計画だ。これら地上局は太陽光発電アレイを装備しており、エネルギーをバッテリーに蓄電した後に使用する。Aetherfluxの衛星はApex SpaceのAriesバスを使用し、最大1キロワットの電力を生成することができるという。このミッションの主な目的は、「エンドツーエンドの電力リンク」を証明することであり、宇宙から地上に利用可能な電力を供給することだ。

医療保険スタートアップのThatchは、雇用主が従業員に個人医療保険償還制度(ICHRAs)を提供するプラットフォーム拡大のため、最新のシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達した。従来の制度とは異なり、ICHRAでは従業員が雇用主の非課税拠出金を個人医療保険プランの購入やその他医療費の補償に利用できる。Thatchを通じて、さまざまな保険オプションを選択可能で、支給されたデビットカードを使用して、治療費や処方薬など医療費の自己負担分に余った残高に充てることができる。平均すると、利用者の約半数に毎月250ドルの残高があるという。比較的新しい ICHRA の規則は、従業員タイプや所在地によって給付内容を調整するなど、イノベーションの余地を生み出すとの見解もある。特に同社は、ICHRA は雇用主から個人へと主導権を移行させ、医療費支出の柔軟性を促進すると予想する。多くのアメリカ人、特に女性が医療費による大きな金銭的ストレスに直面し続けている中、Thatchのような新ビジネスへの期待が高まっている。


台湾の電子機器大手Foxconnは、傘下のIngrasys (Singapore) Pte. Ltd.を通じて、ベトナム子会社であるFulian Precision Technology Componentに2,340万ドルの追加投資を行った。これは、先行する1,796万ドルの出資に続くものであり、FulianをAIサーバー、サーバーラックおよび通信機器の主要生産拠点として強化する動きとなる。Fulianは2023年にバクザン省で設立され、生産拠点の多角化とともに、ベトナムをAI関連ハードウェアの中核拠点とするというFoxconnの長期戦略の一環を担っている。なお、同社は2025年2月にも、Goertek Electronics Vietnamの株式25%を5,000万ドルで取得している。Foxconnは現在、台湾、米国、メキシコなど世界各地でハイエンドAIサーバーの生産を拡大しており、柔軟な供給体制を維持しつつ、急速に高まる市場ニーズに応える構えだ。
シンガポールのスタートアップCinchは、東南アジアにおける「デバイス・アズ・ア・サービス(DaaS)」プラットフォーム拡大を目的に、2,880万ドルの資金を調達した。今回のラウンドにはMonk’s Hill Venturesが主導し、Z Venture Capital、1982 Ventures、Ratio VenturesおよびDCGが出資に参加した。2023年設立のCinchは、スマートフォンやタブレット、ノートPCなどの電子機器を月額契約でリースできるサービスを提供しており、高額な初期費用なしで最新テクノロジーへのアクセスおよびアップグレードを可能にしている。すでに同社のプラットフォーム上では1万台超のデバイスが流通しており、今後5年で100万台への拡大を目指す。今回の資金調達を通じ、Cinchはマレーシアおよびタイ市場での展開を強化し、通信事業者や小売業者との提携も拡大する計画である。さらに、2025年第2四半期までのキャッシュフロー黒字化と、年末までの収益化を見込んでいる。

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