『英国、量子技術に1億2,100万ポンドを投資』、『日産自動車、自動運転でWayveと商業契約を締結』、『UP Catalyst、EUの重要原材料生産を促進するために1,800万ユーロを調達』、『Brinc、緊急対応用ドローンに7,500万ドルを調達』、『nEye Systems、光スイッチ技術で5,800万ドルを調達』、『IUNU、次世代農業基盤の構築に向け2,000万ドルを調達』、『東南アジアのフィンテック・エコシステム、2025年第1四半期の資金調達額が前年比66%減』、『Huawei、現地企業とAI連携 マレーシアのDX促進』を取り上げた「イノベーションインサイト:第129回」をお届けします。

世界量子デーにあたる2025年4月14日、英国政府は、公共サービスや医療分野を支援し、サイバーセキュリティの強化を図るべく、今後12か月間にわたり量子技術に総額1億2,100万ポンドを投資すると発表した。本投資は、National Quantum Technologies Programmeの一環として、基礎研究の支援および研究成果の商用化促進を目的とするものである。具体的には、Innovate UKを通じて4,610万ポンドを割り当て、量子コンピューティング、ネットワーク、PNT(位置・航法・時刻)、センシングなど、さまざまな分野における量子技術の社会実装を加速させる。また、2,100万ポンドをNational Quantum Computing Centreに拠出し、新たな応用分野の発見を支援する。さらに、1,090万ポンドがNational Physical Laboratoryによる量子測定プログラムに割り当てられ、民間企業による量子技術の利活用を促進する構えである。

英国・ロンドンを拠点とする自動運転技術スタートアップのWayveは、日産自動車と初の大規模な商業契約を締結し、同社の自動運転ソフトウェアを日産の量産車両に搭載する計画を発表した。日産は2027年より、Wayveのソフトウェアを自社の先進運転支援システム(ADAS)「ProPilot」に統合し、新たなレベル2自動運転機能の導入を予定している。Wayveの技術は、ステアリングやブレーキ操作など複数の運転タスクを自動化する一方で、運転者が常に制御を維持する必要がある点が特徴である。同社は2017年設立で、Nvidia、Microsoft、Uber、ソフトバンクなどの著名企業から総額10億ドル超の資金を調達している。既存のカメラやレーダー、GPUとの互換性の高さにより、自動車メーカー各社からの関心を集めており、本契約はWayveにとって商業展開に向けた重要なマイルストーンとなる。

エストニア発のディープテックスタートアップUP Catalystは、産業由来のCO₂排出物を高付加価値な原材料に転換する独自技術に対し、欧州投資銀行より1,800万ユーロの融資を確保したと発表した。2019年に設立された同社は、溶融塩電解プロセスを用いて、排出CO₂を電気自動車用バッテリー材料、塗料、コーティング材、ポリマー、コンクリート用途のグラファイトおよびカーボンナノチューブに変換する技術を開発している。同社は、2030年までに累計25万トンのCO₂をカーボンニュートラルな原材料に転換する目標を掲げており、2025年3月には、EUの「重要原材料法(CRMA)」に基づく戦略的プロジェクトに選定された。今回の資金調達により、2027年までに年間270トンのカーボンナノチューブ、1,350トンのグリーングラファイトの生産体制を整備する予定であり、年間約6,000トンのCO₂活用が見込まれる。


シアトルを拠点とする公共安全向けドローンスタートアップBrinc Dronesは、Index Venturesが主導する資金調達ラウンドで7,500万ドルを調達した。これにより、累計調達額は1億5,720万ドルに達した。Brincは2017年、当時まだ10代であった Blake Resnick 氏によって設立された。現在25歳のResnick 氏率いる同社は、米国の警察機関および公共安全機関向けに、緊急対応用ドローンを開発・提供している。Brincのドローンは、災害現場や事件発生時に迅速な対応を可能にすることを目的としており、現場での可視化や物資輸送などに活用されている。米中間の技術的緊張が高まる中、DJIをはじめとする中国製ドローンに対する規制が強化されており、Brincは米国ドローン産業の再構築を象徴する存在として注目されている。今回のラウンドでは、緊急通報ソフトウェアで知られるMotorola Solutionsとの戦略的提携も発表された。これにより、同社のAI駆動型緊急応答システムとBrincのドローンが連携し、911コールセンターから現場へ直接ドローンを派遣することが可能となる。競合にはFlock SafetyやSkydioといった高評価のスタートアップが存在するが、Brincは窓ガラスの破壊機能や救急用品の運搬能力といった独自機能を通じて差別化を図っている。OpenAIのSam Altman氏から早期に支援を受けた同社は、リアルタイム空中支援という新たな公共安全の在り方を模索し続けている。

AIデータセンター向けに設計された光スイッチチップを開発するnEye Systemsが、CapitalG(Alphabetの成長投資部門)主導の資金調達ラウンドにおいて5,800万ドルを調達した。これにより、同社の累計資金調達額は7,250万ドルとなった。nEyeは、従来の電気信号による通信を置き換える、光信号ベースのチップ技術を開発している。同技術は、AI処理を担うデータセンターにおいて、サーバー間の接続を光で再構成可能にし、大幅なエネルギー効率の向上と通信の柔軟性を実現する。Googleが社内で使用するAIスーパーコンピューティング向けに同様の技術を開発している一方で、nEyeはこのコンセプトをより広範な市場向けに商業化しようとしている。カリフォルニア大学バークレー校のミン・ウー教授によって設立された同社は、すでにプロトタイプを完成させており、2026年には量産チップのサンプル提供を開始する予定である。今回の資金調達には、Microsoftのベンチャー部門であるM12、Micron Technology、Nvidiaといった戦略的投資家が参加しており、nEyeの技術が次世代のデータセンター・アーキテクチャを変革する可能性に業界の関心が高まっている。

アグリテックスタートアップのIUNUは、S2G Investmentsが主導し、Farm Credit CanadaおよびLewis & Clark Partnersが参加するシリーズBラウンドにおいて、2,000万ドルを調達した。2013年にシアトルで設立されたIUNUは、制御環境農業(Controlled Environment Agriculture:CEA)に特化しており、大規模な温室農家向けにAI・コンピュータービジョン・機械学習を融合したプラットフォーム「LUNA」を展開している。LUNAは、自律型カメラとセンサーを通じて、植物ごとの詳細な生育情報をリアルタイムで収集・可視化するSaaSソリューションである。この技術により、生産者は植物のストレス、病害、栄養欠乏などの兆候を早期に発見し、収量や品質に悪影響が出る前に対応することが可能となる。また、LUNAは農業資源の無駄を削減し、温室の経済性と持続可能性を同時に高める設計となっている。IUNUはつる性作物部門において330%の成長を記録するなど、市場で強いトラクションを得ている。導入時の課題や競争激化といった障壁はあるものの、同社が掲げる「より効率的で自立型かつ持続可能な温室の実現」というミッションは、今後の世界的な食料供給における重要な鍵となるだろう。


東南アジアのフィンテック・スタートアップエコシステムにおける2025年第1四半期の資金調達総額は1億9,300万ドルとなり、前年同期(2024年第1四半期)の5億8,400万ドルから66%減少した。前四半期(2024年第4四半期)の2億7,400万ドルと比較しても、30%の減少となっている。調査会社Tracxnが木曜日に発表したレポートで明らかになった。同レポートによれば、2025年第1四半期におけるシードステージの資金調達額は3,410万ドルで、前年同期比では52%減、前四半期比では22%減となった。この大幅な減少は、グローバルな資金調達環境の厳格化、投資家の慎重姿勢の強まり、また市場の飽和といった要因によるものとみられる。一方で、1億ドルを超える大型調達ラウンドが見られない状況や景気後退が続く中でも、新たなユニコーン企業の誕生やデジタル化の継続的な進展は、同地域の成長ポテンシャルを改めて示す材料となっている。

Huawei Malaysiaは、マレーシア国内における電子商取引、物流、スマート政府サービスの高度化を目的として、現地企業とAI分野での提携を開始した。先週金曜日、Huawei Technologies (Malaysia) Sdn Bhdは、複数の地元有力企業との間で覚書を締結した。同覚書に基づき、AI、クラウドコンピューティング、次世代デジタルインフラを活用した4件の新たな戦略的提携が展開される見通しである。これらの提携を通じ、全国規模の電子商取引プラットフォームや物流ネットワーク、政府サービスの高度化、ならびにマレーシア全体のデジタル・インフラストラクチャーの変革が進むと期待されている。Huaweiは、同国のデジタルイノベーションと経済エコシステムの成長を支える重要なパートナーとしての役割を強調している。

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