『Terra Quantum、韓国の量子技術革新を支援』、『水素向け固体酸化技術のElcogen、大手企業から1.4億ドル超調達』、『独エコシステム、第1四半期は23億ドルを調達』、『血糖値測定ウェアラブルのBiolinq、5,800万ドル調達』、『炭素回収ION Clean Energy、4,500万ドル調達』、『山火事シーズン到来、ロボット工学で予防に挑むBurnBot』、『タイヤ販売プラットフォームWYZauto、225万ドル調達』、『HD、東南アジアのヘルスケア向けAI構築のため資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第78回」をお届けします。

スイスを拠点とするTerra Quantumが、韓国のクラウド・ソリューション・サプライヤーであるMegazoneCloudとの提携を発表した。この合意は、韓国市場を中心に、アジア全域の民間および公共部門向けに量子コンピューティング・アルゴリズムとアプリケーションを共同開発する枠組みを構築するもので、重点分野には、金融サービスや製造業、天気予報やスマートシティプロジェクトなどが含まれる。チューリッヒ工科大学からのスピンオフ企業として2019年に設立されたTerra Quantumは、エネルギー、金融サービス、自動車、ライフサイエンス・ヘルスケア市場向けに量子アルゴリズム設計、量子コンピューティング、セキュリティを提供する「Quantum-as-a-Service」のプロバイダーで、そのソリューションはすでにHonda Research Institute EU、Thales、Volkswagenなどの企業で採用されている。2023年、韓国は2035年までに量子科学技術に23億ドルを投資し、世界市場シェアの10%を確保する計画を発表した。今回の両社の提携は、韓国の技術革新を促進する上で、欧州のディープテックが果たす役割を示している。

エストニア発クリーンテック企業のElcogenは、欧州委員会からのプロジェクト助成金に加え、Baker Hughes、Hydrogen One Capital Growth、韓国のHD Hyundai、Miraeといった大手企業から総額1億4,000万ユーロ以上を調達したと発表した。2001年設立の同社は、固体酸化物燃料電池(SOFC)と固体酸化物電解槽(SOEC)の技術メーカーであり、グリーン水素を活用した電力を供給している。現在エストニアとフィンランドに製造施設を持ち、30ヶ国で160以上の顧客にサービスを提供している。今回の資金調達により、Elcogenはタリンにおける最大360MWが生産可能な新工場の建設を継続、需要増加に対応するために製造能力を拡大する。また同社とBaker Hughesは、Elcogen独自のSOEC技術を使用したグリーン水素製造でも協力する予定だという。

Dealroomの最新レポートによると、ドイツのスタートアップが2024年第1四半期に調達した資金総額は、前年比3億ドル増の23億ドルに達した。これは2024年現時点でのEMEAにおけるVC資金調達額で、同四半期40億ドルを調達した英国に次いで第2位の数字だった。セクター別では、エネルギーが7億8,800万ドルで最も多く、それにヘルスケアが4億6,000万ドル、フィンテックが2億7,300万ドルと続いた。興味深いことに、同四半期、多額の資金を集めた企業の多くがクライメートテックに関連している。例えば、今年3月にシリーズEラウンドで2億ユーロを調達したSunfireをはじめ、水素・燃料電池関連のテック企業は、すでに6億ドル以上を確保している。また1月に1億2,900万ドルを調達した持続可能な合成燃料のINTERATECや、先月2,900万ユーロを調達したバイオ炭・炭素除去のNovocarboなど、CCUS関連企業にも3億ドル以上が集まっている。この最新の数字は、欧州における持続可能性と脱炭素に関連したソリューションへの継続的な関心を証明しているといえる。


サンディエゴ発Biolinqは、Alpha Wave Ventures主導、Pegasus Tech VenturesとNiterraのCVC部門に加え、RiverVest Venture Partners、AXA IM Alts、大正製薬を含む既存投資家が参加した最新ラウンドで5,800万ドルを調達した。Biolinq初となるウェアラブルは、極小のマイクロニードルで血糖値を測定する、持続的なグルコースモニタリング・パッチだ。小型センサーを利用して皮膚表面直下からグルコースレベルをモニターし、データとユーザーの活動を1つのデバイスに統合する。前腕上部に装着するこのパッチは、血糖値が目標範囲内にある場合、あるいは健康的な数値を超えた際にユーザー通知する機能を備えている。グルコース情報と日々のユーザー活動を文脈的な洞察として融合させ、代謝に関する包括的なディスプレイができるよう設計されている。Biolinqは今年米国で臨床試験を実施し、その後のFDA申請を目指す。

コロラドを拠点とする炭素回収企業のION Clean Energyは、米国石油大手Chevron主導によるシリーズAラウンドで4,500万ドルを調達した。IONは2008年から市場参入している炭素回収企業のひとつで、「Hard-to-Abate」と呼ばれる、温室効果ガス排出削減が困難な産業(鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプなど)向けに設計されたアミンベースの炭素回収技術開発を専門としている。このアプローチでは、排出ガスを吸収塔に集め、そこでCO2を最大99%の捕捉率で液体溶媒に吸収させ、残りは大気中に放出する。その後、CO2は熱交換器を通り、圧縮されて貯蔵場所に輸送されるか、価値ある製品の製造などに活用される。IONの溶剤技術は、Chevronのサポートを組み合わせることで、多くの排出事業者に貢献できる可能性があり、低炭素社会実現に寄与するとされ、点源型炭素捕捉ソリューションとして大きく期待されている。

2017年以降に記録された最も破壊的な山火事20件のうち、13件がカリフォルニアで発生したものだという。そんな中、新たな山火事予防アプローチに取り組むBurnBotが、ReGen Ventures主導、Toyota Venturesなどの投資家が参加した最新ラウンドで2,000万ドルを調達した。従来の方法は、消防士や土地所有者が草木を放牧、燃焼用の後除草剤を散布したり、機材と手作業を組み合わせて機械的に草木を除去したりと、高価で時間がかかる上、危険なものだった。BurnBotのアプローチは、ロボット工学と遠隔操作車両を組み合わせ、火災の原因となる植物や乾燥した植物を焼き払う。戦車のような車輪を持つ現行モデルRXは、荒れた土地でも前進可能、煙を出さずに草木を焼くことで、発芽の可能性がある種子の拡散を防ぐため、除草剤に対する耐性がつくこともない。BurnBotのメソッドは、放牧や除草剤、機械的除去よりも精度が高く、生態学的にも有益だという。山火事対策に携わる人々の作業が従来の方法よりも10倍効果的になることが同社の目指すところだ。


タイの大手自動車整備業者向けオンラインタイヤマーケットプレイスであるWYZautoが、225万ドルの資金調達を実施、同時にモビリティとサプライチェーン分野に特化した東南アジアのベンチャーキャピタルであるVynn Capitalとの提携を発表した。WYZautoは、タイの二輪車および四輪車のメンテナンス事業者と一流のタイヤブランドを結びつけるプラットフォームであり、国内最大級のタイヤ在庫へのアクセスを提供している。また、近い将来には他の車両部品へと範囲を広げ、車両整備サプライチェーンを全体的に効率化することを目指している。なお、同社は、モビリティと自動車分野における重要な中心地として戦略的に位置付けられているマレーシア市場にも既に進出を果たしている。そして今回の提携を受け、モビリティ投資におけるリーダーシップとマレーシア市場への深い理解を持つVynn Capitalは、今後WYZautoのマレーシアでの事業拡大を積極的に支援する計画だ。

バンコクを拠点にタイとインドネシアで医療・手術向けマーケットプレイスhdmallを展開するhd社は、560万ドルのシリーズAラウンド完了を発表した。同社はサードパーティー医療・手術サービスのマーケットプレイスとしてスタートし、ヘルスケアカスタマージャーニー向け会話型AIの開発に注力、現在はヘルスケア業界向けのチャットボットを開発中だ。今回得た資金を活用し、3ヶ月以内にマーケットプレイス向けチャットボットを展開するという。ターゲット顧客層は24時間365日のカスタマーサポートを必要とする病院やクリニックとなる。hd社はアジアで約2,000の医療プロバイダーと連携しており、これらの関係を通じヘルスケア領域向け基本言語モデルの調整を行う予定だ。またチャットボットサービスを通じ、2025年までに5,000人以上の医療従事者と300以上の手術室をサポートし、数千件の手術を実現する目標を掲げている。

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