『富士通と仏METRON、製造業のESG経営支援に向け提携』、『ICEYE、追加資金調達で欧州第2位のスペーステック企業に』、『Europe Tech Update – Q1 2024』、『文書AIのUpstageが7,200万ドル調達、グローバル展開へ』、『Quilt、ヒートポンプの熱波に乗り3,300万ドル調達』、『風力タービンのEocycle、米国と欧州での規模拡大を目指す』、『インドネシアPathGen、疾患早期発見と精密医療をより身近に』、『AI配車技術のSWAT Mobility、アジア市場拡大で資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第80回」をお届けします。

富士通とエネルギー管理を専門とするMETRONが、製造業における脱炭素化に向けた戦略的提携を発表し、今月から日本とドイツ市場の製造業者を対象に、新たなエネルギーマネジメントサービス「Energy Consumption Optimisation」の提供を開始する。同サービスは、富士通が持つ量子インスパイアード技術やAIの知見と、METRONのエネルギーマネジメントに関する専門知識を融合することで、従来の技術では不可能であった複数の変数(設備の電力使用量、電力料金、生産量、製造所要時間など)に基づく高速シミュレーションを可能にする。これにより、製造業者は生産性を向上させるだけでなく、環境への影響やエネルギー支出を削減しながら、あらゆる情報に基づいた決定を下すことができるようになる。今後、両社は同サービスの提供を、製造拠点から商業施設やオフィスにもさらに拡大する計画だ。なお、今回の発表は、2023年3月に富士通ベンチャーズが出資を行い、それに伴い連携を深めてきた両社の継続的な協業におけるマイルストーンとなる。

フィンランド発ICEYEが、成長資金として新たに9,300万ドルを確保し、その調達総額も4億3,800万ドルに達したことから、欧州第2位のスペーステック企業となった。2018年設立の同社は、時間帯や天候に関係なく地表の画像を収集するレーダー衛星を配備している。また、同社衛星の重量は、他社衛星の1/10となる約100kgであることから、競合他社に比べ、はるかに安いサービスを提供することができる。現在、ICEYEの衛星データとサービスは、自然災害への対応と復旧、セキュリティ、海上監視、金融・保険業界などの分野における意思決定をサポートしている。2023年だけで1億ドルの売上を達成している同社だが、今回の追加資金調達により、衛星コンステレーションの更なる構築に加え、特に洪水や山火事に対する洞察提供のための製品ポートフォリオを拡大する予定だという。

Dealroomの最新レポートによると、欧州エコシステムは、2024年第1四半期に、前年同期比5%増となる137億ドルのVC資金を調達した。セクター別では、エネルギーが最も高額の31億ドルを調達し、4四半期連続で最も資金調達の多いセクターとなった。これにヘルステックとフィンテック(各28億ドル)、運輸(17億ドル)といったセクターが続いた。一方でソリューション別にみてみると、38億ドルを集めたディープテックが全体の27%を占めた一方、クライメートテックもほぼ同額となる35億ドル(26%)を調達した。国別では、英仏独が依然としてトップ3を独占しているものの、VC投資が前年比で100%以上増加しているオランダが、2024年に最も急成長しているエコシステムとして顕著な存在感を示した。本レポートの結果は、欧州エコシステムの回復力と、ディープテックやクライメートテックを扱うスタートアップへの関心の高まりを示唆するものと言える。


サンノゼを拠点に、文書処理の大規模言語モデル(LLM)を開発するUpstageは、SBVA (旧SoftBank Ventures Asia)に加え、韓国開発銀行、Shinhan Venture Investment、Hana Ventures、Mirae Asset Venture Investmentなどが新規投資家として参加したシリーズBラウンドで7,200万ドルを調達した。Upstageは、企業顧客による電子商取引、医療、金融、法律業界の特定ニーズに合わせてカスタマイズ可能な文書処理エンジンと独自LLM、Solarを提供している。これらを組み合わせることで、利用者は紙ベース文書やデジタル文書を素早くスキャンし、自然な会話言語を使って適切な質問をすることができる。また同社のDocument AIソリューションは、光学式文字認識(OCR)技術を使用、書き出された文書や手書きの文書を素早くデジタル化して理解し、情報を抽出できる。Upstageによるとその分類精度は99%で、テキストだけでなく、グラフやチェックボックスも認識でき、回転、斜め、しわなどの異なる形状も認識できるという。

インフレ抑制法に基づく数千ドルの奨励金を受けることができるという背景から、米国ではヒートポンプの売上が2年連続でガス暖炉を上回っている。そんな中、ヒートポンプスタートアップの Quilt が、Energy Impact PartnersとGalvanize Climate Solutionsが主導するシリーズAラウンドで3,300万ドルを調達した。多くの米消費者はこれまで、ヘッドと呼ばれるミニスプリット1台につき1つの部屋の冷暖房をコントロールするというヒートポンプの作動方法を敬遠してきた。各ヘッドにはそれぞれサーモスタットやリモコンが設置され、家全体の温度を調整したい場合、それぞれの部屋に足を運ぶ必要があるからだ。一方で、Quiltはシステム制御の一元化に成功したという。各部屋にはまだ温度を感知する機能を持つヘッドが配置されているものの、ユーザーは1つのコントロールだけで家中の設定温度を調整できるというのものだ。現在まだティザー画像のみを公開している同社、5月には完成品を発表する予定だ。

モントリオール発Eocycle Technologiesは、カナダ輸出開発公社(EDC)主導、Fonds de Solidarité FTQとInvestissement Québecが参加したシリーズAラウンドで2,000万ドルを調達した。Eocycleは、クリーンな電力を電力会社より大幅に安い料金で自家発電するために設計された小型風力タービンを製造している。エネルギーコスト削減とCO2排出量目標の達成を目指す商業施設や産業施設だけでなく、農場にも理想的だという。「分散型風力発電」とは、送電網と一体化したタービンのことで、余剰電力を送電網に戻すことができる。同社によると、この仕組みはエネルギーの浪費を防ぎ、ユーザーの経済的利益と節約を最大化するという。またこのモデルは高い信頼性、低コスト、効率的なエネルギー出力で、競合他社とは一線を画していると主張している。すでに北米と欧州で事業を展開するEocycle、今回の資金調達により、インフレ削減法のような米国政府優遇措置や欧州における同様の優遇措置を活用し、市場プレゼンスを拡大する計画だ。


分子検査ソリューションに特化したインドネシアのPathGen(PathGen Diagnostik Teknologi)は先日、East VenturesとRoyal Group Indonesiaから資金を調達したと発表した。この資金は、研究開発、技術向上、市場拡大などに割り当てられる予定。病気の早期発見や、より正確な治療へのアクセスは、合併症予防に非常に重要であるにも関わらず、すべての人がその手段を持ち合わせているわけではない。同社はこの問題に対処すべく、インドネシアで癌やその他疾患向けの低コスト分子診断ツールを提供し、中低所得国におけるゲノミクス・ソリューションの民主化を目指すというビジョンを掲げている。具体的には、家族性リスク(家族に罹患者がいる場合の疾患リスク)の特定、予後予測(疾患の経過予測)、治療反応予測などを対象に、アクセスしやすく、かつ信頼性の高い分子診断ソリューションを提供しており、現在、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、上咽頭がんなど、複数のがん種に対応する分子遺伝学的検査キットを開発中だ。

AIを活用した配車ソリューションを開発するSWAT Mobilityは、最新の資金調達ラウンドで720万ドルを確保した。この資金を背景に、SWATはアジア全域での事業拡大を加速し、地域内のモビリティ業界でのポジションをより確固たるものにしていく計画だ。また今回の資金は、ロジスティクス・ソリューションの研究開発にも投じられ、この重要分野での能力強化に注力する。SWATのAI搭載プラットフォームは、効率的なルートプランニングと最適化を通じて、都市交通の革新を促進するもの。今回もNEC、中部電力、NIPPON EXPRESSホールディングスのCVCなどから出資を受けているSWATは、2020年から日本市場に展開を開始しており、50を超える地域で地方自治体や交通事業者にオンデマンド輸送ソリューションやデータ分析ソリューションを提供してきた。輸送・物流分野におけるスマートモビリティ・サービスの需要増加や、配送最適化システムの急速な導入に加え、今年4月に施行されたトラックドライバーへの労働規制強化により、日本における同社のルート最適化ソリューションのニーズが高まると想定される。

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