『英国、国家戦略の一環で4,500万ポンドを量子領域へ投資』、『パナソニック、伊INNOVAと資本業務提携へ』、『Heart Aerospace、ハイブリッド電気飛行機で1億ドル超調達』、『気候変動プラットフォームWatershedが1億ドル調達』、『種子遺伝子編集のInari、1億超ドルを調達』、『クライメートテックAiDash、5,000万ドル調達』、『インドネシアのHukumonline、シリーズB資金を調達』、『船舶電化を目指すPyxis、335万ドルのシード資金確保』を取り上げた「イノベーションインサイト:第69回」をお届けします。

今週、英国政府は量子領域に総額4,500万ポンドを投資すると発表した。この資金は2つの別々のイニシアティブに分配される。まず、科学・イノベーション・技術省(DSIT)が、スケーラブルな量子コンピューターの開発を加速させる「量子コンピューティング・テストベッド」の一環として、2025年3月までに実施されるプロジェクトに3,000万ポンドを投資する。現在までにORCA Computing、Oxford Ionics、Aegiq、Quantum Motionなどがこの資金を受け取ってきた。一方で、残りの1,500万ポンドは量子カタリスト・ファンドに充てられ、ヘルスケア分野での量子技術による脳機能の可視化、量子技術を利用したエネルギー・グリッドの最適化など、量子技術を公共部門に応用するプロジェクトを支援する。これらのイニシアチブは、昨年発表された25億ポンドの国家量子戦略の一部であり、2033年までに英国を量子技術を活用した経済に変革することを目標としている。

パナソニックの空質空調社が、イタリアの空質空調機器メーカーINNOVAと資本業務提携契約を締結し、INNOVAの発行済株式総数の 40%を取得したと発表した。2003年に設立されたINNOVAは、水を使用して室温を制御し、従来のシステムよりも冷媒の量を削減するハイドロニック・システムを含むHVACソリューションを開発している。同社のソリューションは、温室効果を最小限に抑える冷媒への転換を目指すEUのFガス規制をはじめとする欧州の法規制を背景に、HVAC部門の脱炭素化を目指す幅広い動きに貢献する。パナソニックは、すでに欧州で家庭用のヒートポンプ式給湯暖房機やエアコンなどの分野で活躍している。両社は、ハイドロニック・システムとHVAC関連IoTにおけるリソースと専門知識を組み合わせることで、技術開発を強化し、より付加価値の高い製品を顧客に提供していく予定だ。

スウェーデン発ハイブリッド電気飛行機メーカーのHeart Aerospaceが、シリーズB資金として1億700万ドルを調達した。投資家には、カナダ航空、European Innovation Council Fund、ユナイテッド航空、Yコンビネーターなどの有名企業が名を連ねている。Heart Aerospaceは、この資金をさらなる事業構築と、同社初となるハイブリッド電気飛行機ES-30の欧州航空安全機関からの認証取得に向けた取り組みに充てる意向だ。ES-30は、乗客定員30人の小型機で、短距離路線では、現行の燃料を使用した航空機よりも低排出ガス、低騒音、低運航コストを実現する。完全電気ゼロエミッションの航続距離は200kmだが、最大800kmの飛行が可能である。Heart Aerospaceは、すでにES-30を250機受注している上、さらに191機の受注意向書も取得しており、航空業界が2050年までのネット・ゼロ・エミッションを約束するなか、同社のES-30のようなソリューションが大きな注目を集めている。


Watershedは、Greenoaksが主導するシリーズCラウンドで1億ドルを調達し、その企業価値も18億ドルに達した。2019年に設立されたWatershedは、企業が温室効果ガス排出量を測定、報告、削減し、報告要件に対応しながら気候変動目標を達成するための持続可能性プラットフォームを提供している。同社のソリューションには、排出量測定のための気候データベース、サステナビリティ報告やサプライチェーン・エンゲージメントのためのソフトウェアツール、企業が炭素除去やクリーン電力プロジェクトにアクセスするためのマーケットプレイスなどが含まれる。General Mills、Paramount、Spotify、米国銀行トップ4行、PE企業トップ6社を顧客とするWatershedは、2022年に成功した7,000万ドルのシリーズBラウンド以降大きく飛躍し、最近ではCO2排出量データベースCEDAの買収、気候情報開示ソフトウェアWatershed Disclosureの立ち上げ、KPMGやアクセンチュアなどの組織とのパートナーシップ確立など成長を続けている。

種子遺伝子編集の Inari は、 Hanwha Impact、カナダ年金投資委員会、Flagship Pioneeringなどの既存投資家の参加を得て、1億300万ドルの増資を行い、その評価額は16億5,000万ドルとなった。InariのSEEDesignプラットフォームは、AIを活用した予測設計により、植物の複数の在来遺伝子を同時に編集することができる。これによって農家は、より少ない資源と合成化学物質で、より多くの食料を生産することができるようになる。植物のゲノムは非常に複雑で、収量や水利用効率などの特性は、複数の遺伝子が連携する複雑なネットワークによって駆動する。Inariの遺伝子編集技術とアプローチにより、より少ない資源で同等以上の収量を生み出す種子が実現される。Inariは現在、従来に比べ、窒素と水の使用料を40%削減したトウモロコシの収穫に挑んでおり、最初の市場である北米とオーストラリアでの商業化に向けて準備を進めている。

AIモデルと衛星を組み合わせ、送電線に影響を及ぼす可能性のある火災や天候リスクを特定するクライメートテックのAiDashは、 Lightrockが主導し、SE Ventures を含む投資家が参加した資金ラウンドで5,000万ドルを調達した。今回の資金調達は、エネルギー企業が気候変動に適応するための新製品を開発したいというシリコンバレーの強い要望を反映したものだと同社は話す。山火事や暴風雨による停電のリスクを排除しなければならないというプレッシャーに電力会社がさらされている中、AiDashは、衛星画像をスキャンし、送電線に影響を与える可能性のある問題や変化を検索するAIモデルを開発した。例えば、草木が伸びて送電線に侵入している場所を特定するなど、同社のテクノロジーは、暴風雨時に木や植生が原因となる停電の回数を15%削減するとともに、送電網の信頼性を最大15%向上、保守コスト効率を10%〜20%も改善できるという。


インドネシアのレグテック企業であるHukumonlineがMedia Development Investment Fund (MDIF)からシリーズB資金(金額非公開)を調達した。MDIFはニューヨークを拠点とする非営利の投資機関で、世界中の独立系メディアと協力している。同社は、法律家や学者の生産性を高める技術を提供している。Hukumonlineは、20年以上にわたり、インドネシアの法律家や弁護士向けに、専門的な情報に関する主要な参考資料としての役割を果たす、簡単にアクセス可能なオンライン・プラットフォームを展開してきた上、規制コンプライアンス・システム・プラットフォーム、文書管理システム、ビジネス・ライセンシング・サービス、また法律相談などのリーガル・テック・サービスも提供している。また2023年4月には、ask.hukumonline.comを通じてAI導入の初期実装を開始している。今後はさらなるAI導入の一環として、法律情報の提示効率を高めるため、より広範なジェネレーティブAI搭載機能の展開を予定している。

シンガポールに本社を置き、船舶電化技術に特化するPyxisは、海運イノベーションに特化したMotion Venturesと、インパクトファンドのShift4Goodが共同主導するシード資金調達ラウンドで約335万ドルを調達した。また、Enterprise Singaporeの投資部門であるSeeds Capitalや海運テックVCのShipsFocusなどの地元企業も参加した。同社は、電気航船の大量商業化と普及を促進するため、既存の船舶所有者が高い初期費用をかけずに包括的に脱炭素化を実現できるよう、ワンストップで合理的なソリューションを提供することを目標としている。Maritime and Port Authority of Singapore (MPA) は、2030年以降にシンガポールで就航するすべての新造港湾船舶に、完全電動化、またはバイオ燃料での航行、ならびに水素などのネットゼロ燃料へ対応することを義務付けている上、すべての船舶が2050年までにネット・ゼロ・エミッション達成を求められている。

植木 このみ
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