『自律型配送ロボットのStarship Technologies、8,360万ユーロを調達』、『蘭LionVolt、持続可能な固体リチウムイオン電池開発で資金調達』、『英Greyparrot、蘭リサイクル大手Bollegraafと戦略的提携』、『クリーン燃料のKoloma、水素掘削計画推進で約2.5億ドル調達』、『CO2除去のAvnos、3,600万ドルを調達』、『核融合発電のThea Energy、2,000万ドル調達』、『デジタル調達プラットフォームのDoxa、マレーシア進出へ』、『Temasek、農林中金と1億7,300万ドルのアグリ・フードファンド設立』を取り上げた「イノベーションインサイト:第70回」をお届けします。

タリン発自律型配送ロボット・プロバイダーのStarship Technologiesが、8,360万ユーロを調達し、その資金調達総額も2億1,370万ユーロに達した。2014年に設立された同社の配送ロボットは、主にレストランからのテイクアウトや食料品、企業書類などを配達するため、すでに米国、英国、ドイツ、デンマーク、エストニア、フィンランドなど世界80ヶ所で600万件以上の配送を行っている。また各ロボットはフル充電で18時間機能するため、エネルギー効率が非常に高く、平均的な配達にかかるエネルギーは、お茶を1杯飲むためにやかんを沸騰させるのと同程度であり、発売以来、約180万kgのCO2を削減してきたという。この新たな投資ラウンドにより、特にStarshipのDaaS(デリバリー・アズ・ア・サービス)製品が、同社パートナーの配送インフラに統合されることで、さらに多くの国際市場への展開が可能となり、AIとワイヤレス充電インフラのさらなる発展に貢献する狙いだ。

固体リチウムイオン電池開発のLionVoltが、新たに1,500万ユーロの株式資金を確保した。TNOからのスピンオフとして2020年に設立された同社は、3D電極アーキテクチャに基づく3D固体電池の開発に7年間の研究開発を費やした。その結果、同社のバッテリーは本質安全防爆構造(爆発の危険性がない)で、現在入手可能な最も先進的なリチウムイオンバッテリーと比べて重量が50%軽く、性能も200%向上しているという。LionVoltの中核となるイノベーション・チームはオランダのアイントホーフェンを拠点とするが、現在3D構造電極のさらなる開発と商業化のため、同市内に位置するBrainport Industries Campus (BIC)にもパイロット生産ラインを建設中だ。また今回確保した新たな資金による成長加速に向け、今後5年以内にスケーラブルなギガ工場を建設し、世界のバッテリー業界で重要なプレーヤーになるというビジョンを掲げている。

AI廃棄物分析を専門とするGreyparrotは、戦略的投資を受け、オランダのリサイクル大手Bollegraaf Groupとの提携を発表した。Bollegraafは、廃棄物処理向けインフラ建設における世界最大手の一社である。一方、英国発Greyparrotは、2019年に設立されたコンピュータービジョンのスタートアップ。AIを活用して「廃棄物インテリジェンス」を生み出すことで、混合廃棄物の流れからリサイクル可能な材料の品質と回収の向上に取り組んでいる。これまでGreyparrotは、自社のAI機器を既存のリサイクル工場に導入することに注力してきたが、将来的には新たな機会として、新規廃棄物回収施設に最初からAIが組み込むことができると期待されている。今回の提携により、BollegraafがGreyparrotのAIソリューションに機械とロボット工学における数十年の専門知識をもたらすことで、共同で廃棄物セクターのデジタル化を目指す。またその一環として、BollegraafはGreyparrotに1,280万ドルを出資し、自社のAIビジョン事業と既存のAI導入案件をGreyparrotに移管する。さらに現在世界14ヶ国、40ヶ所の施設に導入されているGreyparrotのソリューションの世界的な販売代理店および戦略的パートナーとしての役割も果たすことになる。


地下鉱床から天然由来の水素を抽出するKolomaが、Khosla Ventures主導、United Airlines Venturesを含む投資家参加のシリーズBラウンドで2億4,570万ドルを調達した。ビル・ゲイツのBreakthrough Energy Venturesなどからの出資も合わせると、調達総額は3億5,000万ドル以上となった。Kolomaは、CTOであるオハイオ州立大学の地質学者トム・ダラーによる研究を商業化している。ダラー氏は、水素ポケットが発見されやすい場所や、石油・ガス産業で開発された技術を活用して水素資源を得る方法を研究してきた。CO2排出量削減、電力の貯蔵・製造を含むエネルギー源としての水素の柔軟性が注目の理由だ。工業用水素は、天然ガスから蒸気で水素を分解して製造されているが、このプロセスでは二酸化炭素が排出される。クリーン水素の新産業として、電気分解を使って水から水素を取り出す方法が有望視されているが、コストが高い。その点、古くからのエネルギー掘削技術を活用する地中水素は最も安価な方法とされており、今後Kolomaの推進する水素掘削には大きな期待が寄せられている。

米エネルギー省のパシフィック・ノースウェスト国立研究所で開発された斬新なアプローチで、空気中から炭素と水の両方を吸い上げる「ハイブリッド」空気直接回収システムを開発するAvnosが、電力大手NextEra Energyの子会社が主導するシリーズAラウンドで3,600万ドルを調達した。Avnosは2020年初頭の起業以来、ShellのVC部門、JetBlue、韓国VCのEnvisioning Partnersを含む投資家からの支援で、1億ドル以上の資金を確保してきた。同社は昨年秋、カリフォルニア州ベーカーズフィールドで初の商用パイロットシステムの運用を開始した。320万ドル相当の本プロジェクトは、主にエネルギー省の支援を受けながら、AvnosとSouthern California Gasが残りの費用を分担している。このプラントは、年間約30トンのCO2を回収する能力があり、これはガソリン車7台分の年間排出量にほぼ等しく、同時に150トンの水を生産する。今月、Avnosはニュージャージー州ブリッジウォーターに研究所を開設し、ハイブリッド・システムのテストと拡張を継続する予定だ。

Thea Energyは、Prelude Venturesが主導し、Hitachi Venturesなどが参加したシリーズAラウンドで2,000万ドルを調達した。核融合発電には、高温レーザーなどで高密度を作り核融合反応を実現する「慣性閉じ込め方式」と、高温超伝導体から発生する強力な磁場によって燃焼プラズマを閉じ込める「磁場閉じ込め方式」というアプローチがあるが、Theaを含む多くのスタートアップは磁場方式のバリエーションを使っている。Theaは独自のステラレータ・アーキテクチャと磁場システムで、10年以内にパイロット規模の原子炉を、2030年代にはより大規模な350MWhの実証プラントを建設する予定だ。商用炉が送電網に接続される頃には、1MWhあたり50ドルの電力を生産したいと考えている。Lazardのエネルギー分析によると、これはソーラー+バッテリー発電の下限にあたり、圧縮空気の中で燃料を燃やしてガスを発生させ、その圧力でタービンを回して発電するコンバインドサイクル発電よりもわずかに高く、石炭よりも安い。人類の長期的エネルギーニーズに応えるために、信頼性が高く安価な核融合発電の実現を期待したい。


中小企業の発展には融資が不可欠である。しかしサプライチェーン・ファイナンスは、信用判断に必要なデータやツールが限られているため、リスクが高く、困難であると考えられている。シンガポールを拠点とするフィンテックのDoxa Holdingsは、サプライチェーン分野などのデジタル調達プラットフォームを提供することで、この問題に取り組んでいる。このプラットフォームは調達プロセスを自動化し、すべての取引データを追跡・分析することで、信用スコアリングのためのデータポイントを提供する。同社によると、顧客には建設・不動産開発業界も含まれる。シンガポール市場では、VisaおよびUOBと提携し、請負業者向けの決済ソリューションを提供している上、ヘルスケア業界の顧客とインドネシア市場にも参入したという。なお、DoxaはCento Venturesから新たな出資を受け(金額、ステージともに非公開)、金融機関との連携を通じてマレーシア市場にも事業を拡大する予定だ。

シンガポールの投資会社Temasekと農林中央金庫は、アジア太平洋地域の農業と食品技術のスタートアップに投資する1億7,300万ドルのファンドを設立すると発表した。Temasekの完全子会社で520億ドルの資産を運用するSeviora Holdingsの声明によると、Seviora T3F Strategyとして知られるこのファンドは、食品と農業産業の脱炭素化への取り組みにも焦点を当てる。また同ファンドには他にも複数の機関投資家が出資しており、より多くの投資家が参加することで、当初の出資額以上の成長を目指している。今後はSeviora Capitalが投資マネージャーとなり、Temasekが特定した案件からポートフォリオを構築する計画だ。

植木 このみ
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