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イノベーションインサイト:第68回

イノベーションインサイト:第68回

『協和キリン、英国Orchard Therapeuticsの買収完了』、『オランダ、細胞培養食品の試食実現に向け大きく前進』、『スイスのTransmutex、新たな原子力システムで資金調達』、『NY発Bilt Rewardsが2億ドル調達、評価額31億ドルを達成』、『次世代EVバッテリー開発Sion Power、7,500万ドル調達』、『Accent Therapeutics、癌治療薬開発資金7,500万ドル調達』、『Mesh Bio、高齢化対策デジタル・ヘルスケアで350万ドル調達』、『Arkadiah、AIを活用した森林再生ソリューションでシード資金獲得』を取り上げた「イノベーションインサイト:第68回」をお届けします。

 

協和キリン、英国Orchard Therapeuticsの買収完了

大手製薬の協和キリンが、英国の遺伝子治療のOrchard Therapeuticsの買収を完了、完全子会社化したと発表した。University College Londonのスピンオフとして2015年に設立されたOrchard Therapeuticsは、造血幹細胞(HSC)遺伝子治療技術プラットフォームを用いて、希少疾患や遺伝性疾患に苦しむ人々にソリューションを提供してきた。現在までに、6つの異なる疾患領域において、160人以上に臨床試験で造血幹細胞遺伝子治療を提供してきた上、一部の疾患では治療後10年にわたる追跡調査が行われている。今後、両社はOrchardの広範な遺伝子治療の経験に基づき、十分な治療を受けていない疾患に対する解決策を開発していく。なお、新しい組織体制では、Orchardの創業者兼CEOが協和キリンの社長兼CEOの直属となり、協和キリンのシニアR&Dリーダーシップチームの一員となる一方、Orchard の従業員は、引き続き英国ロンドンと米国ボストンにある既存施設での業務を継続する予定だ。

 

オランダ、細胞培養食品の試食実現に向け大きく前進

オランダ政府は、細胞培養食品の試食可否を評価するための専門家委員会の設置を発表、同国における細胞培養肉・魚肉の承認に向けた大きな一歩となった。これには、昨年、培養食品の試食を安全に実施するための「基準」を作成するよう蘭政府に働きかけを行っていた細胞培養肉企業のMeatableMosa Meatが大きく貢献した。今回の委員会設置により、企業は製品の関連資料一式を提出できるようになり、それらをトキシコロジスト、微生物学者、医師、倫理的専門家で構成される専門委員会が審査、試食が可能かどうかを調査・承認する。現在、オーストラリア、イスラエル、アメリカ、シンガポールでは、すでに細胞培養肉・魚肉がある程度流通しているが、このニュースは、世界的に活動する150以上の細胞培養肉・魚肉関連企業にとって大きな成果であり、オランダは、EUにおける新規食品規制の承認前に細胞培養食品の試食を許可しうる域内初の国となる。

 

スイスのTransmutex、新たな原子力システムで資金調達

スイス発原子力工学スタートアップのTransmutexが、新たな原子力エネルギーシステムの開発に向け、最新のシリーズA2ラウンドで約2,300万ドルを調達した。2019年に設立された同社は、ウランを使用せず、これまで原子力エネルギーの材料として見過ごされていたトリウムなど、より安価で安全な金属を使用する未臨界炉を開発している。同社は、核反応を2ミリ秒で止めることができ、より安全な運転が可能だとする上、トリウムを燃料として使用するため、プルトニウムのような長期的な廃棄物も発生しない。さらには、ウランベースの原子力システムから排出される長寿命の放射性廃棄物の焼却にも利用できるという。Transmutex は現在、国際的な連合を結成するために世界各国の政府機関と協力し、同社初となる施設建設の加速に取り組んでいる。

 

 

NY発Bilt Rewardsが2億ドル調達、評価額31億ドルを達成

2022年に設立されたBilt Rewardsの評価額が、General Catalyst率いる2億ドルの株式投資後、31億ドルを突破した。同社は、Mastercard発行のクレジットカードとロイヤリティ・プログラムを提供、米消費者にとって毎月の最大支出である家賃で特典を獲得できる初のプラットフォームとして、GreystarやBrookfieldなどの住宅不動産会社と提携にしている。カード利用者はBilt Mastercardで家賃を支払うとポイントが貯まる上、Bilt Homes サービスを通じて、これを住宅購入の際に必要な頭金や決算費用に充てることができる。また、ポイントによるAmazonからの購入、特定の航空会社やホテルの利用も可能だ。Biltは昨年、会員による年間約200億ドルの利用で黒字を達成したと発表した。今回の資本注入で同社は、集合住宅、一戸建て住宅、学生住宅部門におけるアライアンス拡大と、コミュニティ内で利用した金額に応じて報酬を与える地元プログラム強化に注力する予定だ。

 

 

次世代EVバッテリー開発Sion Power、7,500万ドル調達

EV用バッテリースタートアップのSion Power Corporationは、主導のLG Energy Solutionに加え、再参画のEuclidean Capital、元グーグルCEOエリック・シュミット氏のHillspire LLCからも新たに出資を受け、独自のEV向け次世代技術の商業化推進のためシリーズAラウンド資金7,500万ドルを調達した。アリゾナ州ツーソンに本社を置くSionは、自動車や航空宇宙市場のニーズに対応する最先端の蓄電システム開発に注力している。同社の開発したリチウム金属技術Licerionは、リチウム金属電池の圧縮を利用して安全性、寿命、充電率を向上させる。既に大容量バッテリーセル (最大20Ah)の実証に成功しており、現在56Ahの実現を目指している。Sionは今回調達した資金で、自社技術の技術的・市場的検証を行い、自動車OEMや電池メーカーによるテストや市場開発のため、大判リチウム金属セルの完全自動化製造ラインを建設する予定だ。

 

 

Accent Therapeutics、癌治療薬開発資金7,500万ドル調達

Accent Therapeuticsは、Mirae Asset Capital Life Scienceが主導し、Mirae Asset Capital、Mirae Asset Venture Investment、 Bristol Myers Squibb、Johnson & Johnson Innovationを含む新規投資家が参加したシリーズCラウンドで7,500万ドルを調達し、低分子精密がん治療薬の開発を進める。このラウンドには、AbbVie Ventures、GVを含む既存投資家も参加しており、この調達資金は、安全性、薬物動態、初期の有効性試験に重点を置き、DExH-Boxヘリカーゼ9(DHX9)阻害剤とキネシンファミリーメンバー18A(KIF18A)阻害剤を含む主要な新薬候補の早期臨床開発に活用される。DHX9阻害剤は、乳がん遺伝子の機能喪失(乳がん、卵巣がん)やミスマッチ修復機能欠損(大腸がん、子宮内膜がん、胃がん)など、医療ニーズの高いがんの治療を目的としている。KIF18A阻害剤は、トリプルネガティブ乳がんや卵巣がんなど、幅広いがん適応症に対応できる可能性があると期待されている。

 

 

 

Mesh Bio、高齢化対策デジタル・ヘルスケアで350万ドル調達

シンガポールを拠点とするヘルステックスタートアップのMesh Bioが、東南アジアに特化したベンチャー・キャピタルのEast Venturesが主導するシリーズAラウンドで350万ドルを調達した。同社は、高齢化による代謝性疾患の世界的な臨床負担の増大と、ケア提供における課題への対応に焦点を当てている。今回の資金調達により、同社は香港、インドネシアやフィリピンを中心とする東南アジア全域で、医療提供者向けにデジタル・ツイン技術を展開する。Mesh Bioのソリューションは、医療提供者の患者管理を支援する最先端のデジタル・ソリューションで、患者データとその予測分析により、医師が患者や患者の抱える病気に関する情報とインテリジェンスを得ることができる。同社のDARA Health Intelligence Platformは、データ主導のケア提供を可能にし、患者のエンゲージメントとヘルス・アウトカムを改善するもので、シンガポール、マレーシア、インドネシアの120以上の医療センターで予防検診に使用されている。

 

 

Arkadiah、AIを活用した森林再生ソリューションでシード資金獲得

シンガポールを拠点とするクライメートテック企業のArkadiahは、Golden Gate Venturesが主導し、The Radical FundとMoney Forward Venture Partners(HIRAC FUND)が参加したシードラウンドで、非公開の資金を調達した。この新たな資金調達により、同社はAIモデルを強化、製品提供を拡大することで、不動産デベロッパーや自然気候投資家、土地所有者や所有企業とともにビジネス拡大に挑む。Arkadiahは、森林再生やアグロフォレストリー(森林農法)などの自然ベースのソリューションが、パリ協定の目標達成のために2050年までに必要な温室効果ガス削減の30%に貢献できるという考えに基づき、2023年に設立された。しかし、現在の再生プロジェクトは、手作業によるプロセスの遅れに直面しており、資金調達、規模拡大、スピードアップの妨げとなっている。そこでArkadiah独自のプラットフォームは、AI、LiDAR、衛星画像を活用し、透明性のある検証可能なデータを提供することでこれらの課題に取り組む。このプラットフォームは、デベロッパー、土地所有者・企業のためにプロセス全体をデジタル化することで、自然ベースの気候ソリューションの実施を簡素化する。これにより、高品質の炭素除去や生物多様性に富んだ生態系の構築が促進されるという。

 

 

植木 このみ

Corporate Development Services, Intralink Limited

 

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