『2023年の欧州テック市場概観』、『2024年、世界を変える気候テック』、『蘭Lightyear、韓国のVC2社から資金調達』、『フォトニック・コンピューティングのLightmatter、1億5,500万ドル調達』、『ImpriMed、犬猫がん治療技術とAI応用でヒト腫瘍学への拡大目指す』、『Agtonomy、農家の労働力不足と気候変動へのソリューション開発に挑む』、『マレーシアLiveIn、プレシリーズBラウンドで830万米ドル調達』、『サイバーセキュリティNexagate、150万米ドル獲得』を取り上げた「イノベーションインサイト:第64回」をお届けします。

Dealroomによると、欧州のスタートアップ企業は2023年に630億ドルを調達し、世界のVC投資におけるシェア19.5%と過去最高を記録した。国別では、イギリス、フランス、ドイツが2023年も引き続き欧州で最も多くのVC投資を集め、スウェーデンが4位に続いた。また、2023年はノルウェーとデンマークもトップ10入りし、北欧のスタートアップ・エコシステムの強さを示している。セクター別では、フロンティアテックとフィジカルテックが2023年の欧州VC投資の半分近くを集めた。上位3セグメントには、電動モビリティ(60億ドル)、EVバッテリー(40億ドル)、グリーン・ビルディング(38億ドル)が含まれる。その他の主要分野には、水素、スペーステック、生成AI、サーキュラー・エコノミー、自律型モビリティなどがある。全体として、欧州のVCがSaaSからフィジカルテックに軸足を移している傾向が見られ、欧州におけるディープテックスタートアップの重要性が高まっていることがわかる。

排出ゼロ目標達成に向け、2024年はクリーンテックや気候テックがますます重要な役割を果たすとみられる。以下は、VCが予測する主要トレンドである。
- Atomicoによると、2023年のVC投資総額に占める炭素・エネルギー分野のシェアは27%で、フィンテックとソフトウェアを抜き、資金調達額で欧州最大のテック分野となった。
- Eight Roads Venturesは、市民の高い意識と強力な政策・規制枠組みにより、欧州は気候テックにおける支配的地位を維持すると予測。
- A/O Proptechは、2024年にはVC投資とGHG排出量の再編成が起こると予測している。例えば、GHG排出量全体の37%をも占める建造物の問題に焦点を当てるスタートアップ企業への年間VC投資はわずか3%程度に止まる一方、2023年には、建物のエネルギー効率に対するVC投資が73%増加し、投資トレンドの変化を示している。
- Earlybird Venturesは、新しいソフトウェア・ソリューションが、スマートで柔軟性のある分散型エネルギー・グリッドを実現する重要な要素になると見ている。

オランダを拠点とするソーラーEV開発企業Lightyearは、韓国のVC企業Sunbo Angel PartnersとLighthouse Combined Investmentから非公開の戦略的投資を受けた。2016年に設立されたLightyearは、高効率のソーラーEVを開発することで、EVの二大懸案事項である充電頻度の高さと航続距離の制限に対処することを目指している。同社はこれまでに1億6,840万ユーロ以上の資金を調達しており、製品ラインには一台25万ユーロのプレミアムソーラーEV「Lightyear 0」や、4万ユーロのより手頃な車種「Lightyear 2」がある。しかし現在は、子会社のLightyear Layerを通じて、サードパーティの自動車メーカー向けのソーラールーフの生産に集中している。今回の新たな投資によりLightyearは、Sunbo Angel PartnersとLighthouse Combined Investmentの強固なエコシステム(太陽エネルギー、電気モーター、先進製造能力などの次世代技術を持つ他の投資先企業やLPを含む)にアクセスできるようになる。


カリフォルニア拠点Lightmatterは、2023年5月の1億5,400万ドル資金調達に続き、AlphabetのVC部門GVとViking Global Investors主導のシリーズCエクステンションラウンドで1億5,500万ドルを調達し、評価額を12億ドルに引き上げた。Lightmatterは、電気信号の代わりに光を使ってデータを伝送することで、コンピューターチップの計算や通信の方法を変えるフォトニック技術を開発中だ。チップの小型化と高性能化に伴い、チップ間で信号がにじむ可能性があるため、性能と速度の向上が課題となっているが、この問題は、信号の伝達に光子(光)が使われる場合には存在しないとのこと。Lightmatterは、計算集約的なワークロードの性能、効率、消費電力を向上させる、フルスタックのフォトニクスハードウェア及びソフトウェアソリューションを提供している。OpenAIのChatGPTのような大規模な言語モデルAIや、DALL-EやMidjourneyなどの拡散画像モデルの人気により低コスト、高性能がより不可欠となるトレンドへの対応を目指す。

プレシジョン・オンコロジー(がん領域の精密医療)のImpriMedは、SoftBank Ventures Asiaが主導し、SK Telecom、HRZ Han River Partners、Ignite Innovation Fund、Murex Partnersなどが参加したシリーズAラウンドで2,300万ドルを調達した。ImpriMedは、獣医師が犬や猫の血液がんに最適な薬剤の特定を支援する、AIを活用したがん治療技術を構築しており、米国では350以上の獣医師が同サービスを利用している。同社が開発する犬や猫の血液がん向け生体外ライブセル技術は、ほとんどの種類のヒトの血液がんにも十分に応用できるとしており、獣医腫瘍学のAIアルゴリズム開発で得た実証済みのノウハウは、ヒト腫瘍学の新たな予測モデル構築効率化も可能にすると見ている。現在ImpriMedは、ヒトの腫瘍学への応用に向けた精密医療技術拡大のため、がん化した形質細胞である多発性骨髄腫に対応するAIソフトウェアが承認され次第、2025年の商業化を目指している。

農業向けの先進的な自律化・AIに特化したソフトウェアとサービスを提供するAgtonomyは、Momenta主導、戦略的パートナーToyota Ventures、Doosan Bobcat North Americaを含む多数の投資家が参加したシリーズAラウンドで2,250万ドルを調達した。Agtonomyは、AI、オートノミー(自律化)、農業を包括的に捉え、OEMに必要不可欠なソリューションを提供する。「スマート」トラクターなど、機材とソフトウェアのデジタル変革を推進といった、商業規模のサービス拡大を目指す。国連食糧農業機関は、2050年までに、増加する世界人口93億人に対し、現在より60%多い食糧をより少ない土地で生産する必要があると予測している。同時に米労働統計局は、2020年から2030年にかけて農業従事者の雇用増加率はわずか2%で、他職種の平均よりも低いと予想。熟練労働者の危機と増大する気候変動の影響は、農家と土地維持管理業務の課題をさらに複雑化するという懸念から、Agtonomyは、農家が直面する労働力不足、サステナビリティ、利益率の縮小など、差し迫った課題に焦点を当てている。


マレーシアに本社を置くプロテック企業LiveInは、Wavemaker PartnersとInterVestが主導し、Malaysia Debt Ventures(MDV)、Jungle Ventures、CAC Capitalが参加するプレシリーズB資金調達ラウンドで830万米ドルを調達した。現在マレーシアとタイで事業を展開しているLiveInは、今回の資金をもとに2024年までにベトナムとインドネシアを含む新市場への参入を計画している。また、将来的にはフィリピンや新たな都市部への進出、プラットフォームへの新たなサービス機能の導入も目指している。以前はHostel Huntingとして知られていたLiveInは、2018年に不動産オーナー向けのマーケットプレイスから長期滞在型賃貸ソリューション・プロバイダーへと転換した。120人の従業員を擁する同社は、O2O管理プラットフォームを通じて、既存の物件を手頃な賃貸住宅に変えることに注力しており、今後同プラットフォームに1万室をオンボードする予定であるという。

マレーシア有数のサイバーセキュリティ・サービス・プロバイダーであるNexagate Sdn Bhdが、VentureTECH Sdn Bhdから150万米ドルの投資を受けた。この投資は、Nexagateの拡大段階を後押しするもので、主力製品の開発と、革新的なサイバーセキュリティ・ソリューションのポートフォリオ強化に重点を置く。リスク・コンプライアンス、セキュリティ・ポスチャ・アセスメント、セキュリティ・オペレーション・センター(SOC)as-a-serviceを含む包括的なサービス群を提供するNexagateは、企業や政府機関がサイバー脅威に対するセキュリティを強化できるよう支援する。同社の事業拡大の中心は、サイバーセキュリティの完全な可視性を提供するために設計されたソリューション、ネクサ・セキュリティ・インテル(NSI)プラットフォームで、ステークホルダーがサイバーセキュリティの全体的な態勢を強化する上で重要な決定を下す際に役立つ実用的な洞察を提供している。

植木 このみ
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