『Northvolt、独からの支援を受け新EVバッテリー工場を建設』、『英Genomics、疾病予防検査で約4,450万ドルを調達』、『スロバキアのタバコリサイクル、吸い殻がアスファルトに』、『AIネイティブ検索でGoogle・Microsoft Bingに挑む、Perplexity AI』、『エピゲノム編集のMoonwalk Biosciences、5,700万ドル調達』、『Anecdotes、GRCツール事業拡大で2,500万ドルを獲得』、『アグテックのSemaai、住友商事などから資金調達』、『半導体パッケージのSilicon Box、2億ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第65回」をお届けします。

今週、欧州委員会は、NorthvoltによるEVバッテリー製造工場建設に対するドイツからの国家支援(9億200万ユーロ)を承認した。スウェーデンを拠点とするNorthvolt は、欧州で最も資金力のあるバッテリーメーカーだが、より多くの資金援助を提供する欧州域外に工場を移転するのではないかという懸念があった。そんな中、EUは、同域諸国が「戦略的に重要な」プロジェクトにより多くの資金を提供できるようにするため、2023年3月に採択された危機・移行暫定枠組みの一環として、今回「マッチングエイド」を初めて活用した形だ。これにより、北ドイツに建設される新バッテリー工場の従業員数は約3,000人、年間生産能力は60GWhに達し、(バッテリーのサイズによるが)年間約100万台分に相当すると見込まれている。同社によると、生産開始は2026年、完全稼働は2029年頃になる予定。このニュースは、EUがサプライチェーンのリスクを軽減し、欧州の競争力確保と、域内における事業拡大支援に向けた姿勢を示したものである。

オックスフォード大学のスピンアウト企業であるGenomicsが、一般的な疾患やがんの予防のための高度な遺伝子検査ソリューションで約4,450万ドルを確保し、その調達総額も1億ドルを超えた。2014年設立の同社は、がんや心血管系疾患などの健康問題に対して、個人の遺伝子の組み合わせに基づいてリスク評価を生成できる独自のアルゴリズムを開発する。そして、医療システムによって見逃されがちな人々に洞察を提供し、医療におけるより予防的なアプローチを実現することを目指している。Genomicsは、英国でその予測技術を一般総合診療医の日常業務に統合するために、同国国民保健サービスと提携してきた上、「Our Future Health」と呼ばれる英国史上最大の健康研究プログラムにもその技術を提供している。なお、今回の調達資金は、利益達成を目指す同社の従業員数強化・新規雇用に活用されるという。

世界では毎日約180億本のタバコが廃棄されている。そんな中、スロバキアの首都ブラチスラバで、廃棄タバコに対する解決策が見出されている。同市の廃棄物処理会社は、2024年から一般的なタバコとVAPEのようなタバコ機器の両方から廃棄されたフィルターを回収し、再利用すると発表した。EcoButtなどの企業との提携により、回収されたタバコのフィルターはセルロース繊維の粒に加工され、道路用アスファルトの混和剤として使用される。このプロジェクトで重要な役割を果たすEcoButtは、すでに2022年にスロバキアのジアル・ナド・フロノム市の道路舗装に廃棄タバコを活用している。現在、これらのセルロース繊維は通常木材パルプから調達されているが、この取り組みにより、廃棄物の再利用と貴重な天然資源の節約、そして循環型経済が実現できると期待されている。


Perplexity AIは、IVPが主導、Nvidiaを含む機関投資家やアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏なども参加したシリーズBラウンドで7,360万ドルを調達し、評価額を推定5億ドル以上に引き上げた。AIを活用した検索エンジンの提供を強化し、生成AIと大規模な言語モデルの時代において、大手のGoogleとMicrosoftに挑む計画だ。同大手2社は長年検索エンジンの分野で活躍してきた一方で、Perplexityは、より優れたAIネイティブの体験を提供することで、彼らに対抗できると考えている。またPerplexityは、ウェブインデックスと様々なAIモデルを組み合わせた検索プラットフォームを提供。これは100%会話形式で提供され、リンクをクリックしたり、答えを比較したり、情報を延々と探し続ける必要はない。なお、同社は、ユーザーにデフォルトのモデルを提供する無料版と、より良い結果を得るためにGPT-4を含むモデルを選択する機能をもたらす月額20ドルのPro版を提供している。

サンフランシスコ発Moonwalk Biosciencesは、Alpha Wave Ventures主導のシードおよびシリーズAラウンドで5,700万ドルを調達した。高い精度で遺伝子を改変するエピゲノム編集市場に最も最近参入した同社、エピジェネティック・プロファイリングおよびエンジニアリングプラットフォームを開発するとともに、さまざまなエピジェネティック治療薬を開発中だ。同社の独自技術はいわゆる「読み取り」コンポーネントと呼ばれ、ゲノム全体、約2,800万の部位からメチル化情報を取得するように設計されているという。これにより、健康な状態と病気の状態の両方に存在するメチル化解析を得ることができ、複雑なメチル化パターンについての予測が可能となると同時に、どのターゲットにヒットさせるのが最適かを特定できる。Moonwalkは、DNA の一次配列に変化を加えず、複数の遺伝子を正確かつ永続的に制御できる治療法のパイプラインを開発する予定だ。

自動化ワークフロー、プラグイン、アプリ統合を通じてガバナンス、リスク管理、コンプライアンス(GRC)業務の効率化を目指すAnecdotesは、Glilot Capital Partners主導のシリーズBラウンドで2,500万ドルを調達した。GRCは、組織が規制を遵守しながらリスク管理改善に役立つため、関心も高い上、VC投資で最も活発な領域の1つだ。Tracxnによると、約1,500社に及ぶGRCベンダーは、2021年時点で287億ドルの資金調達を受けている。Anecdotesのプラットフォームは、企業のパブリッククラウド、オンプレミスのデータセンター、プライベートクラウド、SaaSツールなどのソースからGRC関連データやログなどの「成果物」を自動的に収集する。データは、ユーザーがコンプライアンス活動(ポリシー管理、ユーザーアクセス・レビューなど)を開始できる中央ハブで統括され、コンプライアンスを確保しながら生成AIツールの使用を可能にし、リスク回避が可能なフレームワークを提供する。現在Anecdotesは、SnowflakeやPayscaleを含む約100社の顧客を持つ。


インドネシアの農家や農産物小売業者向けにデジタル・アグテック・ソリューションを提供するSemaaiが、470万ドルを調達した。このCyberAgent Capitalが主導し、Sumitomo Corporation Equity AsiaやRuventoなども参加した資金調達ラウンドにより、同社の調達総額は760万ドルに達した。インドネシアの農業セクターはGDPに大きく貢献しているものの、限られた資金やサプライチェーン、低い技術導入といった課題に直面している。Semaaiは、これらの課題に対処するため、同国内の農産物小売業者と小規模農家向けに、B2Bデジタルマーケットプレイス、農学アドバイザリー、金融サービスなどの統合デジタル・エコシステムを提供する。同社によると、この1年間だけで、純収入が15倍以上と大幅増加した上、そのマーケットプレイスのユーザーベースも倍増したという。今回の調達資金は、Semaaiのアドバイザリーサービスの拡大、フィンテック機関との連携、中部ジャワ地方でのプレゼンス強化に充てられ、2024年末までに同地域の75%をカバーすることを目指す。

シンガポールを拠点とする半導体パッケージング企業Silicon Boxは、Tata ElectronicsやTDK Venturesなどが戦略的投資家として参加した2億ドルのシリーズBラウンドに成功し、同社の評価額も10億ドルを超えたと発表した。米国において800以上の特許を取得している創設メンバーにより2021年に設立されたSilicon Boxは、最先端のチップレット・インテグレーション・サービスに特化している。今回の発表では、シンガポールにある20億ドル規模の先進的パッケージング工場が、2023年10月から初期顧客向けに量産を開始したことも明らかにした。同社はすでに既存の生産能力に対する高い需要を予測しており、この75万平方フィート規模の施設では、効果的なチップレット統合能力を提供するため、24時間365日の操業に向けて雇用を拡大し、生産を急速に拡大する予定だ。

植木 このみ
Corporate Development Services, Intralink Limited
イントラリンクについて
イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。