『2023年、日本企業の対欧州投資が記録的な年に』、『ヒューマノイドロボット開発の1X、1億ユーロ近くを調達』、 『小型神経刺激装置開発のNalu Medical、6,500万ドル調達』、『自律型農業ロボットのBurro、2,400万ドル調達』、『歯科手術ロボットで革命起こすか、Neocisが2,000万ドルを追加調達』、『インドネシア農家を支援するDayaTani、シード資金を調達』、『Rently、シンガポールで不動産管理プラットフォームを発表』を取り上げた「イノベーションインサイト:第66回」をお届けします。

2023年は日本の対欧州投資にとって記録的な年となった。ソフトバンクからの投資を除くと、2023年に日本の資本が関与した欧州の資金調達ラウンドは過去最高の97件に上り、5年前の55件から大幅に増加した。これらのほとんどが日本大手企業、またはそのベンチャー部門によって行われたもので、大型投資案件では、SBIホールディングスのVC部門であるSBI Investmentが昨年11月に、Oxford Quantum Circuitsによる1億ドルのラウンドをリードした件などが知られている。一方、日本では現在、欧州が強みを持つ技術、特にグリーンテックやディープテックに対する需要が高まっている。これは日本企業の投資案件にも反映されており、三菱商事によるHystar(水素)、丸紅によるD-Orbit(スペーステック)、尾道造船によるCore Power(原子力)などへの出資がその例として挙げられる。また、東京ガスがOctopus Energyの洋上風力発電ファンドに出資するなど、欧州ファンドへの投資も積極的に行われている。なお、2022年に発表されたJETROの報告書でも、欧州にイノベーション・オフィスを構える日本企業の数も10年前の2倍となる50社を超えており、欧州エコシステムへの注力度の高まりが見受けられる。

オスロに拠点を置くAI・ロボット企業の1X Technologies(旧Halodi Robotics)は、OpenAIが投資家として参加した2023年3月のシリーズA(2,350万ドル)に続く最新のシリーズBラウンドで、1億ドルを確保した。2014年に設立された1Xは、人間と協働するアンドロイドの設計に10年近く取り組んできた。同社初となるロボットEVEは、物流、小売、警備用の車輪付きアンドロイドとして開発されている。また1Xは今後も企業顧客をサポートする一方で、人間のような動きや行動が可能な二足歩行ヒューマノイドロボットNEOの開発にも引き続き注力する予定で、今回の資金は、ホームアシスタンスや家事の手伝い、そして移動困難者へのサポート向けに活用可能なNEOの開発・ローンチに充てられるという。

英国エコシステムは、VC投資で欧州1位、世界でも3位にランクされている。歴史的に、この大半はロンドンを拠点とするスタートアップに注がれてきたが、最近はグラスゴー、ベルファスト、バーミンガムをはじめとする新興ハブへの投資の分散化が進んでいる。Dealroomによると、VC投資におけるロンドンのシェアは2019年の75%から2023年には65.5%に低下した一方で、上記都市が位置するウェスト・ミッドランズ(イングランド中西部)、グラスゴー、北アイルランドが急成長しているという。特にバーミンガムでは、ロボティックスのConigitalによる5億ポンドのシリーズA+のような資金調達もあり、2019年から2023年にかけてVC投資が1183%増加した。同様に、グラスゴーでは2019年から2023年にかけてその投資額が526%増加し、そのほとんどがChemifyのようなヘルステックやライフサイエンスのスタートアップへの投資であった。また昨年は、EV充電ネットワークWeevのようなベルファストを拠点とする企業へのVC投資が過去2番目に多い年でもあった。この最新の数字により、ロンドンのような確立されたハイテク産業の中心地以外でも、イノベーションがますます進んでいるということが示されていると言える。


カリフォルニア発Nalu Medicalは、慢性疼痛治療を目的とした小型神経刺激インプラントの普及を促進するため、Novo Holdingsが主導するシリーズEラウンドで6,500万ドルを調達した。米国食品医薬品局(FDA)が承認したこの神経治療アプローチは、15mmの切開で皮下に設置される電池不要のパルスジェネレーターを、細い電気リードで脊髄または末梢神経に接続するものだ。電力は外部の充電式ディスクからワイヤレスで供給され、治療はスマートフォンのアプリで制御される。Naluによると、インプラントは18年間使用でき、外付けディスクは交換可能、時間の経過とともにアップグレードできる。長期的なデバイスに切り替える前に、最大30日間使用することができる一時的試用バージョンもあり、ユーザーが神経刺激にどのように反応するかを測定可能だそうだ。また同社が昨年11月に行った観察研究では、86%のユーザーが3ヶ月の治療で少なくとも腰痛と下肢痛の半減を証言したと発表されている。

フィラデルフィアを拠点とするBurroは、Catalyst InvestorsとTranslink Capitalが主導し、Toyota Venturesなどが参加したシリーズBラウンドで2,400万ドルを調達した。44人の従業員を抱える同社のロボットは苗床、ブドウ畑、農場などで農産物や植物の移動をサポートする。市場投入されたばかりの自律走行車Burro Grandeは、約680kgを運搬し、約2.2トンを牽引できる。同社によると、人間と共に屋外で安全かつ確実に働き、効率と生産性を飛躍的に向上させることで、労働力を代替するのではなく、補強するというチームのビジョンが、農業ロボット分野で同社が際立つ理由としている。BurroのアプローチとROIは農場や苗床で実証されており、さまざまな産業や用途で重要な位置付けとなりそうだ。Burroは現在、約300台のロボットを稼動中で、年末までに約800台、さらには販売店を通じたチャネル、グローバルセールスを加速させる予定だ。

マイアミ拠点、歯科インプラント手術支援ロボットを開発するNeocisは、NVIDIAのVC部門NVenturesと、成長段階のヘルスケアおよびテクノロジービジネスに投資するMirae Asset Venture Investmentから2,000万ドルの追加融資を受け、現在までの調達額が約1億8,000万ドルとなった。Neocisは、歯科系では初となるFDA認可ロボット手術システム、Yomiを開発・販売している。Yomiプラットフォームは、歯科医がインプラント手術を正確に事前計画することを可能とし、その計画に従って手術中に手を誘導する。Yomiが提供する精度の向上とデジタルプランニングにより、歯科医はより小さな切開で手術を行うことができるため、患者にとっては、痛みが軽減され、回復が早まるというメリットがある。Neocisによると、米国ではおよそ6分に1本の割合でYomiによるインプラント埋入が行われており、現在までにYomiは、40,000本のインプラントをサポートしてきたという。


シンガポールを拠点とするDayaTaniは、Ascent Venture Groupが主導、KBI Investmentなども参加したシードラウンドで230万ドルを調達した。2023年設立のDayaTaniは、インドネシア農家の収量向上に取り組むため、ジャワ島全域で園芸と穀物作物を中心とした研究開発拠点を運営し、状況に基づいて、どのような肥料を使用すべきかなど、より正確な推奨を行うためのデータサイエンスモデルを含むハードウェアおよびソフトウェアを開発している。そして、これらの製品を農家に利益分配モデルで提供する。また、Microsoft Singaporeと提携しながら農作物問題に特化したチャットボットを開発する一方で、今後1年以内にジャワ島全域に100台以上のIoTデバイスを配備し、気象観測所ネットワークを構築、場所に応じた気象情報を提供する計画だという。

安全で信頼できる不動産取引で、不動産業界の再定義を使命とするRentlyが、シンガポールでのローンチを正式に発表した。Rentlyは、独自のRently Careサブスクリプションを通じて保証金不要の賃貸ソリューションを、そしてRentlyアプリのインベントリ機能を通じて不動産管理サービスを提供する。この保証金不要賃貸の利便性により、ユーザーは初期費用ゼロで家を借りることができ、保証金の金銭的負担を取り除くことができる。また賃貸詐欺の件数が年々増加するシンガポールでは、安全な賃貸プロセスが求められており、同国の公式デジタルIDであるSingPassとのシームレスな統合により、Rentlyはセキュリティを強化、プラットフォーム上におけるユーザーの信頼性向上にも努めている。

植木 このみ
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