『ソフトバンク、TravelPerkの大型資金調達を主導』、『三菱HCキャピタル、European Energyに7億ユーロ出資』、『EITとDemeter、5億ユーロのバッテリー原料ファンド設立』、『AIボイスのElevenLabs、創業2年でユニコーンステータス達成へ』、『電動RV製造のLightship、3,400万ドル調達』、『デジタル資産へのアクセス管理Oleria、3,300万ドル調達』、『650万ドル調達のbluesheets、AIでプロセスオートメーション推進』、『Web3広告プラットフォームのLinkko、資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第67回」をお届けします。

今週、バルセロナを拠点とするビジネス・トラベル・プラットフォームのTravelPerkが、ソフトバンクのVision Fund 2が主導するシリーズD-1エクステンションラウンドで1億400万ドルを調達した。これにより、TravelPerkの調達資金総額は5億2,000万ドルを超え、その評価額も14億ドルに達した。同社は、主にバックエンドでAI技術を活用し、最安値の航空券や宿泊施設とユーザーを結びつけるなど、法人出張に関わる手作業の自動化に貢献しており、今回の調達資金もその自動化とAI機能の強化に充てる予定だ。なお、TravelPerkの年間売上高は2023年には1億ドル、利益率も60%にのぼるとされ、1桁台の低い利益率で運営されている従来の旅行代理店に比べてはるかに高い数値を残しているという。

三菱HCキャピタルは、再生可能エネルギー(太陽光発電、洋上・陸上風力発電)、およびグリーンエネルギーからeメタノールとグリーン水素を製造するPower-to-Xプロジェクトに注力するEuropean Energyに約7億ユーロを投資すると発表した。これにより、三菱HCキャピタルは、European Energyの株式20%を保有する第2位の株主となる。デンマークで2004年に設立されたEuropean Energyは、主に欧州内で3GWの再エネを供給してきた上、60GWに達する開発・建設パイプラインを有している。一方、三菱HCキャピタルも日本の再エネ業界におけるリーディング・プレイヤーの一社であり、2017年からは欧州と北米で再エネへの投資を積極的に行ってきた。今回の出資を通じて、三菱HCキャピタルは脱炭素化の先駆的な取り組みとグリーンエネルギー需要の高まりで知られる欧州での事業を強化・拡大するという。

欧州イノベーション・技術機構(EIT)InnoEnergyと、パリを本拠とするベンチャーキャピタルのDemeterが、欧州のバッテリー原料サプライチェーンの強化に取り組むため、新たに「EBA Strategic Battery Materials Fund」を立ち上げると発表した。目標5億ユーロ規模のEBAファンドは、2017年からEIT InnoEnergyで開始・運営されている産業開発プログラムであるEuropean Battery Alliance(EBA250)を基盤に、初期段階の採掘、加工、精製、リサイクルといった上流工程(したがってリスクの高い)プロジェクトに焦点を当てている。この発表は、2023年3月に公表されたEUの重要原材料法案(CRMA)に沿ったもので、域外供給への過度の依存を削減し、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、黒鉛をはじめとする戦略的なバッテリー材料の域内生産能力を高め、EUの既存バッテリー材料サプライチェーンのギャップを埋めることを目的としている。


ElevenLabsは、既存投資家のa16z、元GitHub CEO、元AppleのAIリーダーによる共同主導のシリーズBラウンドで8,000万ドルを調達し、評価額を10倍の11億ドルに引き上げた。異なる言語での音声クローニングと合成に機械学習を応用する技術を使う同社は、元グーグルの機械学習エンジニアと元Palantirのデプロイメント戦略担当だった2人が、吹き替えが不十分な映画を見た際に、コンテンツのローカライゼーションにおける問題を目の当たりにしたことがきっかけとなり立ち上げられ、AIの力であらゆるコンテンツを様々な言語と音声で普遍的に利用できるようにすることを使命としている。ベータ版ツールを発表してから数ヶ月で100万人以上のユーザーを獲得し、大きな支持を得てきたElevenLabsは、AIダビングという音声合成ツールを発表することでAI音声研究を発展させ、オリジナル話者の声や感情を保持したまま、ユーザーが音声やビデオを29の異なる言語に翻訳できるようにしている。

電動トレーラーやキャンピングカー製造に特化したRVスタートアップのLightshipは、トレーラー/RV分野の最大手、Airstreamの親会社であるThor Industriesを含む投資家が参加したシリーズBラウンドで、3,400万ドルを調達した。同社のL1キャンピング・トレーラーは、ピックアップトラックやSUVの牽引を軽くする技術を採用している。独自の電気モーターを内蔵し、転がり抵抗を減らして牽引車の負担を軽減する上、ポルシェと共同で製作されたエアストリームのコンセプト・トレーラーと同様、走行中に折りたためるファブリックの壁とスクリーン窓を備えた寝床を持つ「ポップトップ」が特徴だ。これは壁の上半分が格納され、ルーフが下がって運搬されるため、前面面積が小さくなり、空気抵抗が削減されるというもの。Lightshipは、L1は従来のトラベルトレーラーの3倍の空気力学的性能を持つと主張している。またL1には40kWhと80kWhのバッテリーパック構成があり、最大300マイルの走行で牽引車をサポートするのに十分なパワーを発揮する。

主に企業顧客向けにアクセス管理ツールを提供するOleriaは、Evolution Equity Partnersが主導し、Salesforce Venturesを含む投資家が参加するシリーズAラウンドで3,300万ドルを調達した。ビジネスパートナーの仕事を妨げないようにしながら、サイバーセキュリティを確保するという課題に長い間悩まされていたというMicrosoftとSalesforce出身の2人が2022年に共同設立したOleriaは、ユーザーがアクセスできるデジタル資産、例えば組織内で使用できるアプリを制限するプラットフォームを提供する。そして誤って付与された権限や意図しないアクセスを特定し、アクセスリスクを改善のために提案する。アプリやデータへのアクセスは、複雑なガバナンスによる安全性の欠如を招き、従業員に不必要な障害を与えるため、セキュリティとビジネスの俊敏性の両立を困難にする中、Oleriaは、企業がアクセスに対する自律的なアプローチ導入に必要な、真のソリューションとなるべく準備を進めている。


シンガポールを拠点とするAI自動化ソフトウェア企業のbluesheetsが、最新のシリーズAラウンドで650万ドルを調達した。Illuminate Financialが主導するこの投資は、独自AI機能を発展させ、より多くのクライアントがAI時代に競争力を維持できるよう、プロセスのデジタル化と自動化を支援する。同社は、数百万件の金融データを利用して、各業界のプロセス自動化のためのAIモデルをトレーニングしている。今回の調達資金により、同社はAIの能力をさらに強化し、APACや米国などの主要市場での成長を加速させる。また金融サービス、保険、サプライチェーン・調達、製造業など、ターゲット業界へのさらなる浸透を図るとともに、会計、金融、ホスピタリティなどの既存業界へのサービス提供を強化する。加えて、新たな資本の注入は、経営陣レベルの戦略的雇用も支援、既存のハイテク企業から人材を招き入れることで、ターゲットとする業界や地域の企業クライアントへの事業拡大を推進する計画だ。

シンガポールを拠点とするWeb3広告の先駆的プラットフォームであるLinkkoは、Web3 Media Ventures (W3M Ventures) が主導する戦略的資金調達ラウンドにて資金を確保した。Linkkoは、公平で透明性の高いエコシステムを構築することに特化したプラットフォームであり、ユーザーはターゲット広告を見ることで報酬を得ることができる。また広告主には、オンチェーン分析を活用して超精密なターゲティングを提供する。さらにLinkkoは、ユーザー中心のデザインとデータ・プライバシーにおける新たな基準を設定し、シームレスで信頼できる環境を確保すると同時に、広告主とユーザーの関係を強化、整合させることを目指している。データ・プライバシー・ポリシーの強化、クッキーのないブラウザの時代、iOSとAndroidによるアプリ内トラッキング・ポリシーのシフトなど、現在の広告業界がさまざまな課題に直面する中、Linkkoは、ユーザーの機密データを尊重しつつ、比類のない精度を提供することで、ユーザーと広告の関係性をシフトしていく計画だ。

植木 このみ
Corporate Development Services, Intralink Limited
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