『三菱電機、ヒートポンプのデマンドレスポンス実証実験を開始』、『欧州委、ディープテック企業向けに新たな取り組み』、『独NexWafe、グリーンソーラーウエハー工場建設へ』、『アンモニアでゼロエミッション、Amogyが資金調達』、『光プロセッサのLightmatter、約1.5億ドル調達』、『プレミアムバッテリーの需要拡大に挑む、Forge Nano』、『シンガポール発腸内フローラのAMILI、新たな資金調達』、『マレーシアのBayo Pay、220万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第35回」をお届けします。

三菱電機、ヒートポンプのデマンドレスポンス実証実験を開始
三菱電機の欧州現地法人であるMitsubishi Electric R&D Centre Europeが、離島のエネルギー自立化を目指す欧州REACTプロジェクトの一環として、電力系統のデマンドレスポンスにおけるヒートポンプ制御の有効性を評価する実証実験を5月末に開始した。三菱電機などの企業や学術機関など、EU11ヶ国から22のパートナーが参加し、EU Horizon 2020プログラムからも共同出資を受ける本プロジェクトは、化石燃料や本土からのエネルギー供給に大きく依存するアイルランドのアラン諸島と、イタリアのサン・ピエトロ島で展開されるヒートポンプシステムを利用している。特に離島では、再エネを活用したエネルギー自立化向上が期待される中、このプロジェクトも、10%の省エネ、60%の温室効果ガス削減、50%の再エネ利用率向上を目指すという。 
欧州委、ディープテック企業向けに新たな取り組み
欧州委員会は、域内の有望なディープテック・スケールアップ100社が、ユニコーンになるまでの成長支援を目的とした新たなイニシアティブ「EIC Scale Up 100」を発表した。この取り組みでは、サステナビリティ(気候・エネルギー)、デジタルイノベーション、ヘルスケアなど、欧州のグリーン及びデジタル移行に貢献する様々な分野から選定された企業が、各100人の投資家、イノベーションユニットを備えた大企業、「代理店、クラスター、メディア」、独立したメンターから構成されるEIC Scaling Clubと呼ばれるグループからサポートを受けることになる。2年間の支援活動により、参加企業の評価額、新規投資、パートナーシップ、雇用が毎年40%ずつ増加することが期待される。なお、このイニシアティブは、新欧州イノベーションアジェンダの目標である、スケールアップの資金調達へのアクセス向上と、欧州内におけるディープテック人材の誘致と維持を支援するために実施されている。 
独NexWafe、グリーンソーラーウエハー工場建設へ
ドイツを拠点とするNexWafeが、同社発となる商業規模のグリーンソーラーウエハー工場建設を加速させるため、3,000万ユーロを調達した。2015年にFraunhofer Institute for Solar Energy Systems ISEからスピンアウトした同社は、ソーラーウエハーの製造工程を簡略化し、エネルギー使用量と製造時間を削減する特許取得済みの方法を開発している。同社によると、このプロセスでは廃棄物も最小限に抑えられるため、従来のウエハーよりも30%安価な製品を実現することができる。また同社はこれと並行して、Aramco Ventures(既存投資家)と共にサウジアラビアにて、次世代のグリーンソーラーウエハー製造施設に取り組むことにも合意している。この協業契約には、アラムコが運営する15億ドルのサステナビリティファンドからの参加も含まれる予定だ。また、NexWafeはこの2つの取り組みとは別に、今年後半に追加資金調達を行うものと見られる。

アンモニアでゼロエミッション、Amogyが資金調達
Amogy Inc.は、3月にSK Innovationが主導した1億3900万ドルのシリーズB-1ラウンドに続き、総額1,100万ドルのシリーズB-2ラウンドを完了した。今回の資金調達は、気候テックスタートアップへの成長投資を行うため、三菱商事、三菱UFJ銀行、Pavilion Private Equityが5月に組成したMarunouchi Climate Tech Growth Fund、三菱重工業アメリカ、Synergy Marineからの出資で実現した。Amogyは、分解モジュールから供給される液体アンモニアをハイブリッド燃料電池システムに導入し、電気モーターを駆動することで、海運などでゼロカーボン輸送を促進する。同社は2023年後半、ニューヨーク州北部でゼロエミッションのタグボートを発表する準備を進めており、これは今年初めにフィールドテストされたトレーラーヘッドの3倍の規模となる。このタグボートの航海が成功すれば、2024年の商用化実現に大きなコマを進めることになる。 
光プロセッサのLightmatter、約1.5億ドル調達
ボストン発、電気の代わりに光を使うフォトニックコンピューティングのLightmatterが、Google Ventures、HPE Pathfinderを含む投資家から、シリーズCラウンドにて1億5,400万ドルを調達した。世界の大企業がエネルギー電力の壁にぶつかり、AIのスケーラビリティで課題を抱える中、従来のチップは冷却可能なものの限界を押し広げ、データセンターはますます大きなエネルギーフットプリントを生み出しているのが現状だ。データセンター向けの新しいソリューション無しではAIの進歩が著しく遅れることも懸念される中、Lightmatterは、現在存在するどの従来型プロセッサよりも高速、高効率、低温の光プロセッサを開発し、計算速度の向上、低エネルギー密度、チップ発熱の低減という要求に応えている。コンピューティングハードウェアのEnvise、機械学習開発者向けソフトウェアIdiomを含むフルスタックでパイロットを実施中の同社、2024年には量産の予定だ。 
プレミアムバッテリーの需要拡大に挑む、Forge Nano
コロラド発Forge Nano, Inc.は、韓国ハンファのコーポレート・ベンチャー・キャピタルがリードし、OIC、Catalus Capital、Ascent Fundsなどが参加したシリーズCラウンドで、5,000万ドル超えの資金調達を完了した。2011年に蓄電池材料の長寿命化を目的としたコーティング分野のスペシャリストによって、コロラド大学の研究所で設立された同社、前処理工程にナノコーティング装置を組み込んだリチウムイオン電池の生産設備の開発に主眼を置いて技術開発に挑んでいる。Atomic Armorと呼ばれる独自技術は、メーカーが拡張性とコスト削減を実現するため、原子レベルに至るまでの材料をエンジニアリングすることを可能にする。今回の資金調達により、既存の材料技術の開発に投資を行い、今年中に航空、防衛、自動車など、様々な分野でエネルギー貯蔵システム(ESS)に適用される技術を活用する1GWh規模のパイロット工場建設を開始する予定だ。

シンガポール発腸内フローラのAMILI、新たな資金調達
東南アジア初、また唯一と言われる腸内フローラ専門スタートアップであるAMILIは、East Venturesから新たな資金を獲得したことを発表した。今回の資金は、インドネシアでの事業拡大に充てられ、同国の状況に合わせた科学的アプローチを用いて、腸の健康問題に取り組むという。AMILIは現在、先進的な腸内細菌研究をもとに、医療専門家が患者のケアを強化するための腸内フローラ配列決定サービスや、アジア消費者向けに特別に設計されたプロバイオティクス製剤などを提供する上、東南アジアで唯一のマイクロバイオーム移植バンクを所有している。また、アジアの多民族マイクロバイオームデータベース、メタゲノムおよびメタボローム解析用のサンプルを保管するマイクロバイオームバンク、独自の解析ツールや情報科学パイプライン、探索エンジンを組み合わせたAMILI PRIMEという3つの中核資産を有しており、これらの資産を活用することで、腸内環境研究の進展を促進し、この分野における革新的なソリューションの提供を目指す。 
マレーシアのBayo Pay、220万ドル調達
マレーシアのフィンテック企業Bayo Payは、VentureTECH SBI主導のラウンドで220万ドルを調達した。これは、VentureTECHが創業以来初めて行うフィンテック市場への出資となる。既にハイテク産業において、パイオニアとなる25社への投資を行ってきた同社だが、投資先の純資産の合計は約440億米ドルを突破しているという。 Bayo Pay社は、中小企業や大手企業向けに、エンド・ツー・エンドの統合的なデジタル決済ソリューションを提供している。Bayo PayのB2B2Xビジネスモデルでは、顧客が独自の技術にアクセスし、ホワイトラベルまたは組み込み型の決済モジュールからアクセスできる、拡張性の高いプライベートブランド決済ソリューションが開発できるようになる。今回の調達資金は、設備投資や顧客基盤の拡大、協業による収入の増加、またニッチな分野での重点的な取り組み強化に充てるという。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。