『中部電力の独地熱発電・地域熱供給プロジェクト、みずほなどから資金調達』、『欧州水素プロジェクトへの補助金、ほぼ全額がスペインとポルトガルへ投入』、『AIによる気候変動への影響軽減に取り組む欧州テック企業』、『AI創薬の新勢力Xaira、10億ドルの資金調達で台頭』、『GitHub Copilotと競うAugment、ローンチに向け約2.5億ドル調達』、『女性の健康に焦点を、PinkDxが4,000万ドル調達』、『シンガポールのThrixen、700万ドルを調達』、『消費者向けフィンテックのSalmon、IFCから資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第81回」をお届けします。
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中部電力は、昨年に北米を拠点にクローズドループ地熱利用技術を開発するEavor Technologiesと事業会社を設立し、ドイツ・バイエルン州で地熱発電・地域熱供給プロジェクトを進めてきた。このEavorの技術を活用した初の商業プロジェクトとなるゲーレッツリート地熱事業は、地下約5,000メートルの深さに4本のクローズドループを掘削、その内部で水を循環させることで、効率的に地下熱を取り出す。そして両社による事業会社が、その熱を利用し、電力や地域熱供給を行う。設置予定のループのうち、1本目のループは2024年内に完成、2026年第3四半期には完全に商業化される。同プロジェクトは今週、みずほ銀行や国際協力銀行などの金融機関から総額約1億3,000万ユーロの融資契約を締結したばかり。また、EUイノベーションファンドからも9,160万ユーロの助成金を受ける予定だという。中部電力は、本プロジェクトを通じた地熱発電分野における知見獲得、さらに同技術の日本市場での活用を目指している。
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欧州委員会は今週、欧州水素銀行構想の一環として、水素製造に向けた補助金(7億2,000万ユーロ相当)の提供先となるプロジェクトを発表した。欧州17ヶ国のプロジェクトから132件の入札があった今回、EUが選定した7件の落札プロジェクトのうち、大半はイベリア半島におけるプロジェクト(スペイン3件、ポルトガル2件)で、合計5億9,000万ユーロ以上を獲得した。その他2つのプロジェクト(1億2,600万ユーロ相当)は、ノルウェーとフィンランドで実施される。このイベリア半島と北欧の勝因は、再生エネルギーと水力発電の割合が高いことから、価格競争力のある水素を製造できる点に起因すると想定される。なお、EUが2030年に、域内にて年間1,000万トンのグリーン水素生産を目指す中、今回の7億2,000万ユーロの支援金により、合計158万トンの水素製造が見込まれるという。
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ジェネレーティブAIはこの1年で大きな注目を集めたが、「気候変動に対するAIの脅威」と題された報告書(2024年3月発表)では、このままでは、AIが世界のCO2排出量を80%増加させ、電力と水の供給を脅かす可能性があると推定されている。そんな中、多くのスタートアップが、AIの恩恵を享受しつつ、気候変動への影響を軽減する技術に取り組んでいる。例えば、再生可能エネルギーのみでデータセンターを構築するCloud Infrastructure-as-a-Serviceプロバイダーであるロンドン発NexGen Cloudや、フォトニクス技術(シリコンの代わりに光をコンピューティングに利用する技術)に基づくチップを開発するオックスフォード発Lumaiなどが挙げられる。一方で、ソフトウェアを専門とする企業も活躍しており、パリを拠点とするFlexAIは、エンジニアがNvidia以外のベンダーのチップ上でAIモデルを開発できるようにするソフトウェアを開発するため、シード資金として3,000万ドルを調達したばかりだ。
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サンフランシスコ発、AIを活用した創薬開発のXaira Therapeuticsは、Arch Venture PartnersとForesite Labsがインキュベートし、F-PrimeとLightspeed Venture Partnersを含む投資家が参加したラウンドで、10億ドルを調達した。ワシントン大学医学部の生化学教授兼タンパク質デザイン研究所所長のベイカー博士によって共同設立されたXairaは、機械学習研究、データ生成モデル、治療製品開発を駆使し、複数のモダリティにわたる創薬・薬剤開発のためのAI対応プラットフォームを構築する。Xairaは、従来薬剤化が困難であったターゲットに焦点を当てる。AIの基礎研究を進めると同時に、生物学におけるAI応用の進歩を画期的な新薬につなげるという強いスタンスから、生物学的ターゲットや人工分子を人間の病気に結びつける新しい方法を開発する予定だ。
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最近の世論調査で、ソフトウェア・エンジニアの44%が開発プロセスの一部にAIツールを現在使用中、26%が近々使用する予定だと回答した。ガートナーも、半数以上の組織が現在、AIを活用したコーディング・アシスタントを試験的に導入、もしくは既に導入済みであり、2028年までに開発者の75%が何らかの形でコーディング・アシスタントを利用すると予測している。そんな中、AIコーディング・アシスタントを提供するAugmentは、ユニコーン(9億7,700万ドル)に近い評価額で2億5,200万ドルの資金を調達した。Index Venturesを含むVCからの出資を受けた同社は、生成AIコーディング技術がまだ発展途上の市場に揺さぶりをかける勢いだ。バグフィックス、セキュリティパッチ、マイグレーション、アップグレードなどのための長いバックログに悩まされるチームが開発するソフトウェアは、脆弱かつ複雑で高コストなものになりがちである。Augmentはこのような課題に対応し、プログラマー組織強化を支え、高品質のソフトウェア開発を支援する構えだ。
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生涯を通した女性の健康に焦点を当てたPinkDxは、Catalio Capital ManagementとThe Production Boardが共同主導、Mayo Clinicを含む投資家が参加したシリーズAラウンドで4,000万ドルを調達した。PinkDxは、婦人科系がんの可能性がある漠然とした症状を持つ女性の診断結果を改善することに重点を置く。米国では毎年、推定150万人の女性が腹部膨満感、骨盤痛、異常出血などの症状を訴えているが、その原因は明らかになっておらず、毎年10万人以上の女性が最終的に婦人科系がんと診断されている。PinkDxは、侵襲的で痛みを伴う診断手順に代わるソリューションを開発し、女性や担当医師が答えを得るまでにしばしば直面する大幅な遅れを軽減する。女性特有のニーズを特定し、科学的なアプローチで、生活そのものにポジティブな影響を与える答えを提供するというビジョンを追求するため、調達資金が活用される予定だ。
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バイオテック企業のThrixenは今週、ポイント・オブ・ケア検査向けの革新的な診断技術プラットフォームの開発加速に向け、700万ドルの資金を調達した。シンガポールと米国の科学者によって2021年に設立された同社は、費用対効果の高さと迅速さを兼ね備えるだけでなく、幅広いバイオマーカーを検査するために自社開発したタンパク質結合体を利用したポイント・オブ・ケア複合型プラットフォームを開発している。このタンパク質結合体を独自のアッセイフォーマットと組み合わせて利用することで、必要不可欠な診断法をより身近に、手頃な価格で、大規模に提供することが可能となり、初期のユースケースには、ウイルス感染と細菌感染の識別、マラリア検出などが含まれる。なお、Thrixenのアッセイ技術は、これまでに実施された臨床試験で99.5%の感度が証明されているという。
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消費者向けフィンテックのSalmon、IFCから資金調達
フィリピンを拠点とするSalmonは、国際金融公社 (IFC) が主導し、シンガポール発PEファンドのノーススター・グループやその他の国内外の投資家が参加した最新のシリーズAエクステンションラウンドで、2,500万ドルを調達した。同社は、従来の銀行では十分なサービスを受けられない消費者に短期融資を提供するため、フィリピンで銀行を運営している。2022年設立のサーモンは、AI対応技術と独自のクレジット・エンジンを用いて複数の融資サービスを展開している。今回の調達資金により、同社は新たな融資商品とライフスタイル・バンキングを開発し、2024年後半に発売する予定だ。またIFCとの提携も強化していくという。
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