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イノベーションインサイト:第83回

イノベーションインサイト:第83回

『原子力ユニコーンNewcleoが8,700万ユーロを調達』、『スイス発AC Immune、アルツハイマー免疫療法開発のため武田薬品と提携』、『ノルディック地域の急成長するスタートアップトップ10』、『カカオ不使用チョコレート製造、Voyage Foodsが5,200万ドル調達』、『学習データ効率向上AIシステムのDatologyAI、4,600万ドル調達』、『次世代電池リサイクル技術開発のLi Industries、3,600万ドルを調達』、『Rize、稲作脱炭素化プラットフォームで1,400万ドル調達』、『インドネシア発炭素管理プラットフォームのJejakin資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第83回」をお届けします。

原子力ユニコーンNewcleoが8,700万ユーロを調達

英国拠点の原子力エネルギースタートアップ Newcleoは、資金調達活動の一環として、最初のクローズで8,700万ユーロを調達したことを発表し、同社の総資金調達額は4億8,700万ユーロに達した。2021年に設立されたNewcleoは、Dealroomの推定評価額が13億から20億ドルの間で、欧州で最も多くの資金を調達した原子力スタートアップである。同社は2030年代に導入予定の鉛冷却型小型モジュール炉(SMR)を開発中である。Newcleoはフランスで強力なプレゼンスを築いており、2030年までに現地工場の生産能力を拡大させ、さらにはデモンストレーター炉の設置を計画している。今回の資金は、これらの開発支援、そしてイタリアで計画中の新しい研究施設設立のために使用される予定である。しかし、同社はさらに多額の資金が必要であるとして、今回の資金調達期間中に10億ユーロの獲得を目指すことを明らかにした。最終クローズの日付は未定である。

 

 

 

スイス発AC Immune、アルツハイマー免疫療法開発のため武田薬品と提携

スイス、ローザンヌのEPFLイノベーションパークに拠点を置くバイオ医薬品企業のAC Immuneは、武田薬品とアルツハイマー病治療のための能動免疫療法に関する独占的オプションとライセンス契約を締結した。この契約に基づき、AC Immuneは武田薬品から1億ドルの前払い金を受け取り、最終的には20億ドル以上の取引総額に達する見通しである。この治療法は、アルツハイマー病の進行を遅らせるため、病気の根本原因へ強力な抗体反応を誘導することを目的とする。なお、現在は被験役の安全性、忍容性などを評価する臨床第1b/2相試験(ABATE研究)実施中である。武田薬品とのパートナーシップにより、第3相臨床試験の加速が促進され、日本の企業がさらなる臨床開発、グローバルな規制承認、商業化を監督することになる。

 

 

 

ノルディック地域の急成長するスタートアップトップ10

2024年第1四半期に、ノルディック地域は欧州の主要なテックハブとしての地位をさらに確立させ、NorthvoltH2 Green Steelなどの主要企業による数十億ユーロの調達を含む9つのメガラウンドが見られた。この期間の投資で最も注目された分野はSaaSやヘルステックであったが、最大の取引は気候テックに集中し、277件の取引のうち85件を占めた。このセクターで最も急成長中のノルディックスタートアップの例としては、EV充電ソリューションを提供するMontaWattif、ヒートポンプおよびエネルギーテックサプライヤーのAiraが挙げられる。ノルディック地域は2023年に見られたVC投資の全体的な減少の影響をさほど受けず、同地域内からの投資は38%へ増加し過去最高水準へ達しており、自給自足での資金調達という傾向を示している。

 

 

 

カカオ不使用チョコレート製造、Voyage Foodsが5,200万ドル調達

Voyage Foods は、Level One FundHorizons Venturesの共同主導、Collaborative Fundなどが参加したシリーズA+資金調達ラウンドで5,200万ドルを獲得した。2021年設立の同社は「良い食品は美味しく、持続可能で、誰もがアクセスできるものであるべき」という理念のもと、ナッツフリーのピーナッツスプレッド、豆不使用のコーヒーやカカオ不使用のチョコレートを、小売およびB2Bチャネル向けに提供している。設立1年で小売、外食産業、B2Bの各チャネルで商業化に成功し、以来独自の食品技術の開発を続けてきた。先月、食品大手Cargillは、 Voyage Foods のカカオフリーチョコレートの独占B2B販売代理店となり、ベーカリー、アイスクリーム、製菓用途に理想的な商品を提供していく。 同社はWalmartや全米約2,000店舗でナッツ、ヘーゼルナッツ不使用スプレッドの小売流通も展開している。今後はピーナッツ不使用の施設を求めるクイックサービス・レストラン(QSR)にも注力する。

 

 

 

学習データ効率向上AIシステムのDatologyAI、4,600万ドル調達

DatologyAIは、Felicis VenturesのViv FagaとAstasia Myers主導、Amazon Alexa Fundを含む既存および新規の投資家が参加するシリーズAラウンドで4,600万ドルを調達した。同社は、OpenAIのGPT-4のような大規模言語モデル(LLM)を支える大規模なデータセットのキュレーションに特化しており、生成AI開発の主要な課題を解決する。生成AI用のデータセットを作成する際、開発者は言語モデルが有害なコンテンツを生成したり、訓練されたコンテンツによる偏見を示さないよう注意が必要だ。というのも、人間には見分けにくい偏見パターンがデータ内に存在するためである。DatologyAIのツールは、開発者がデータセット内の最も有用な情報を特定し、これらのデータセット作成に関わる作業の自動化をサポートする。有用でない情報は除外され、より質の高いサンプルを含むより効率的なファイルがトレーニングに向けに作成される。

 

 

 

次世代電池リサイクル技術開発のLi Industries、3,600万ドルを調達

ノースカロライナ発Li Industriesは、次世代リチウムイオン電池リサイクル技術を拡大するため、Bosch Ventures、Khosla Ventures、LG Tech Venturesが共同主導したシリーズB資金ラウンドで3,600万ドルを調達した。ノーベル賞受賞者M.スタンリー・ウィッティンガム博士の指導の下、同社はリチウムイオン電池材料に対して最も循環的コスト効果が高く持続可能なソリューションを提供することを目指す。電池メーカー、正極メーカー、リサイクル業者、電池回収業者などと協力し、サプライチェーン内の効率化を支援する先進技術を構築している。また、リン酸鉄リチウム(LFP)などの低コバルト・無コバルト電池を低コストかつ持続可能な方法でリサイクルできる独自技術を持つ、米国で唯一の企業でもある。今回調達した資金は、独自の技術を採用した1万トン規模のリサイクル施設の建設に充てられる予定だ。

 

 

 

Rize、稲作脱炭素化プラットフォームで1,400万ドル調達

Temasek、Wavemaker Impact、Breakthrough Energy Ventures、およびGenZero合弁設立でアジアの稲作を脱炭素化を目指すアグリテックスタートアップのRizeは、1,400万ドルのシリーズA資金調達ラウンドの完了を発表した。Rizeは、稲作における温室効果ガス排出量を削減するための最も効果的な戦略を特定し実行するプラットフォームを構築しており、持続可能な栽培技術の採用を促進するための経済的インセンティブをバリューチェーン全体にわたって提供する。同社の技術スタックは、持続可能な農法を実施するために不可欠な農業データの取得、稲作農家の気候変動対策、収穫量向上、コスト削減、さらに効果的な資金調達へのアクセスを提供するものである。この投資により、測定・報告・検証(MRV)技術などのRizeの技術スタックが強化され、インドネシア、ベトナム、また南・東南アジアへのさらなる拡大が支援される。技術スタックの開発に加え、この資金は、Rizeがインドネシアとベトナムでの事業をさらに強化し、2024年末までに農学者のチームを100人以上へ拡大、2万人以上の農家にリーチすることが可能になる。また、2025年には他の南アジアや東南アジアへの稲作生産国への進出も計画している。

 

 

 

インドネシア発炭素管理プラットフォームのJejakin資金調達

インドネシアを拠点とし、炭素管理プラットフォームを提供するJejakinは、新たに270万ドルの資金を確保した。今回のラウンドにはPT ITM Bhinneka Power、東南アジアの主要ベンチャーキャピタルであるIndogen Capital、SMDV、またEast Venturesなどの企業が参加した。この資金は、研究開発、技術改善、市場成長などの目的に配分される。2018年に設立されたJejakinは、企業や個人が環境に良い影響を与える支援をすることをビジョンに掲げている。同社は主にCarbonIQ、CarbonAtlas、CarbonSpaceの三つの製品を提供している。炭素会計プラットフォームのCarbonIQは、企業が全ての事業範囲(Scope1、Scope2、Scope3)の運用排出量フットプリントの算出を行うことを支援する。CarbonAtlasは、衛星、IoTセンサー、モバイルアプリのリモートセンシング技術スタックを活用して、企業が関与する気候プログラムの信頼性を現場チェックを通じて検証するモニタリング機能をもつ。CarbonAtlasプラットフォームは、Jejakinのクライアントやパートナーと共にインドネシア全土で植樹された100万本以上の木をモニターし、プロジェクトが各地域にもたらす炭素貯留、土壌や空気の質、生物多様性指数などのポジティブな影響をユーザが可視化できるようにする。最後に、CarbonSpaceは、CarbonIQとCarbonAtlasに接続された統合アプリであり、企業やその関係者が気候変動対策に直接貢献することを可能にしている。

 

 

 

イントラリンクについて

イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、プロジェクト実行チームの一員として、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業をリードしている。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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