『独Cylib、バッテリーリサイクルで過去最大5,500万ユーロ調達』、『グラスゴー・エコシステムの最新動向』、『AIで風力タービンによる鳥の事故死を減らすSpoor』、『生成AIブームに乗り1億4,000万ドル調達のWeka、ユニコーンへ』、『フードサービス産業ソフトRestaurant365が1億7,500万ドルを調達』、『栄養療法で慢性疾患と闘うFay、2,500万ドルで立ち上げへ』、『Gobi Partners、循環型生活の実践を推進するHumble Sustainabilityを支援』、『シンガポールのフィンテックOSOME、1,700万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第84回」をお届けします。
ドイツのエンド・ツー・エンド・バッテリー・リサイクルスタートアップのCylibは、Porche VenturesとBosch Venturesが参加したシリーズA資金調達で5,500万ユーロを獲得した。2022年設立の同社は、当分野で著名なRWTH Aachen Universityにて、10年間に渡りバッテリーリサイクルについて研究を行ってきた。Cylib社の技術はリチウムイオン電池のすべてのコンポーネントのリサイクル可能にし、生産廃棄物、EVまたはマイクロモビリティバッテリーからほとんどの要素を回収する方法を提供する。リサイクル効率は90%以上に達し、リサイクルプロセスの環境フットプリントも競合他社に比べて30%削減できるという。同社は2023年9月にパイロットラインを導入し、その後、自動車OEMやTier1サプライヤーとのバッテリーリサイクルプロジェクトを完了した。今回調達した資金により、すでに確保されたドイツのブラウンフィールド産業施設で、産業規模へのさらなる拡大を進める計画だ。
Dealroomのレポートによれば、グラスゴー地域は現在、企業価値41億ポンドの最も急成長している欧州スタートアップエコシステム一つである。このエコシステムには920以上のスタートアップおよびスケールアップがあり、グラスゴーのスタートアップへの投資は2019年以降600%以上増加している。他の同様に急成長している英国のテックハブには、バーミンガム、リバプール、シェフィールドが含まれる。セクター別では、グラスゴーの投資総額の60%をヘルステックが占めており、特にバイオテクノロジーおよび製薬は潤沢に資金提供されているサブセクターである。地域のイノベーションエコシステムにおいて地元の大学が重要な役割を果たし、上記の企業価値の30%は、大学のスピンオフから来ている。呼吸器系薬物送達のための医療機器を開発するNebuFlowはその良い事例であり、グラスゴー大学のスピンオフだ。他にも、水素トラック製造のHVS、持続可能なマイコプロテイン製造のEnough、新薬開発自動化システム開発のChemifyなどがある。全体として、確立されたテックハブ外のの地域でも、イノベーションの進行はますます加速していることが資金調達の実績から示されている。
風力タービンは、地元の鳥の個体群に与えるダメージで長い間批判されてきた。この問題に取り組みスタートアップのひとつが、ノルウェーを拠点とするSpoorである。SpoorはAIと機械学習を利用して、ビデオから鳥の動きを検出・記録し、飛行パターンを予測するソフトウェアを開発した。既存の風力発電所は、Spoor社のソリューションを利用することで、鳥の活動が活発化した場合に風力タービンを減速させたり停止させたりなど対応することができる。また、企業はこの技術を使って新しい風力発電所の候補地を検討し、事前にリスクを評価することもできる。同社は先日、世界最大級の洋上風力発電会社のベンチャー部門であるØrsted Venturesなどの投資家から400万ドルのシード資金を調達した。このスタートアップはまず自国市場に注力するが、2030年までに30GWの洋上風力発電容量を達成するという目標を掲げ米国進出も目指している。そのためには、アメリカハクトウワシのような在来鳥類の保護を強化する必要がある。
生成AIに対応するため、企業の現場チームはデータのサイロ化やレガシーアーキテクチャに起因するギャップに苦戦している。典型的な生成AIのパイプラインは、データセットをコピーする複数のステップを中心とし、学習プロセスを遅らせ、エネルギーを消費するボトルネックを生む。データをオンデマンドで継続的に利用可能にすることで、この課題を簡素化する独自のAIネイティブサービスを提供するスタートアップWekaがこのほど、 Valor Equity Partners主導のシリーズEラウンドで1億4,000万ドル超を調達し、ユニコーンステータスを獲得した。2022年12月、生成AIの爆発的な普及で、Wekaのデータプラットフォームに対する世界的な関心が急増し、AI導入加速を狙う大企業や研究機関の需要が高まった。Wekaプラットフォームの中核はWekaFSと呼ばれるスケールアウト型の共有並列ファイルシステムで、さまざまなデータタイプやサイズに対応し、従来のネットワーク接続ストレージシステムの10倍、ローカルサーバー・ストレージの3倍のパフォーマンスを実現する。
米国の外食産業は、消費者に対する経済的圧力にもかかわらず、今年初めて売上高1兆ドルを突破すると予想されている。外食ビジネスの管理ソリューションを開発するRestaurant365はこの成長の波に乗り、ICONIQ Growth主導、KKR と L Cattertonも参加した資金ラウンドで1億7,500万ドルを調達した。同社ソフトウェアは約4万店舗で利用されており、2023年の売上は1億ドル(1店舗あたり月額469ドルから)であったと報告されている。カリフォルニアを拠点とするRestaurant365は、レストランに会計、在庫管理、給与計算、従業員スケジューリング管理のためのオールインワン・プラットフォームと、ビジネスの傾向を把握するための分析スイートなど重要な機能を統合したシステムを提供する。ポイントソリューションからオールインワンのアプローチまで、ソリューションがひしめき合う業界大手にはToast、Lightspeed、Crunchtimeなどがある。
米国の成人の半数以上が栄養関連の慢性疾患に悩まされている中、食事を通じてさまざまな健康問題の根本原因に挑むスタートアップFayが、2,500万ドルを調達しステルスステータスから脱却した。栄養士によるバーチャルおよび対面でのサポートに患者を結びつける同社は、UnitedHealthcareやBlue Cross Blue Shieldなどの大手保険に対応、GoogleやAccentureの雇用者向け医療プランとも連携している。Fayプラットフォームには、全米50州で1,000以上のプロバイダーが登録しており、摂食障害、糖尿病、腎臓病など30以上の専門分野の栄養士がいる。患者は管理栄養士と1対1で面談し、食事の原則、食事計画、食事日誌などの方法を含む、カスタマイズされた栄養計画を受け取る。Season HealthやNourishedRxのような競合他社も管理栄養士へのアクセスを提供しているが、Fayは 「管理栄養士が有資格者として独立できるようサポートする」ことで差別化を図っている。
フィリピンの気候テックスタートアップHumble Sustainabilityは、アジアに特化したベンチャーキャピタルファームGobi Partnersより、同社のGobi-Core Philippine Fundを通じて非公開の資金を獲得した。この資金は、Humbleの拡大計画を支援し、国内事業拡大のために重要な役割を果たす。フィリピンでは毎日6.1万トンもの固形廃棄物が発生している。Humble社は電子機器の再販を促進することで循環型経済を推進し、環境への影響を軽減、持続可能なビジネス慣行の普及に取り組む。現在、Canva、Manulife、およびSunlifeなどの大手企業を含む75社以上のクライアントにサービスを提供し、今後も循環型経済を軸に拡大していく計画である。今回の資金調達ラウンドでは、Double River Impact、Equitrust Holdings Inc.、Startup Venture Fundを通じて、National Development CompanyおよびXA Networkのような著名な個人投資家など、多様な投資家グループから追加資金を確保した。2022年後半にSeedstars International Venturesが主導したオーバーサブスクライブのシードラウンドに続き、Humbleの成長が加速し続けている。
シンガポールを拠点とする財務管理プラットフォームのOsomeは、金曜日にシリーズB資金調達ラウンドを終了し、新規および既存の投資家から、1,700万ドル以上の資本を株式と債務の混合で調達したと発表した。Osomeは、法人設立、会計およびコンプライアンスを中心に中小企業をターゲットとしてサービスを提供している。提携する会計士、税務専門家、会社秘書と連携し専門知識を組み合わせつつ、クライアントの事業の立ち上げから拡大に至るまで一貫した全面的なサポートを行う。Osomeは声明の中で、新たな資金調達と2024年の持続可能な成長と収益性に向けての戦略を発表し、現代企業が直面する財務上の課題に対処する革新的なソリューションを提供するという創業以来のミッションを果たしていくことを強調した。また、顧客基盤の拡大に伴い、効率的にサービスを提供するための自動化とAIコンポーネントの強化にも注力すると述べた。
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