『三大陸が交わる新興エコシステム、キプロス』『Neoplants、空気清浄機代わりとなる観葉植物を発表』、『スイス連邦工科大学、変性眼疾患の早期発見デバイスを開発』、『医療機器をサイバー攻撃から守るMedCrypt、2,500万ドル調達』、『Synthesis AI、メタバースに応用可能なAIモデルを開発』『非中毒性鎮痛剤に希望の光』、『東南アジアのグリーンテックスタートアップ12選』、『Googleら、東南アジアデジタル経済レポート発表』を取り上げた「イノベーションインサイト:第5回」をお届けします。
三大陸が交わる新興エコシステム、キプロス
地中海に浮かぶ3番目に大きい島で、欧州の東端に位置するキプロスは、欧州、アフリカ、中東を結ぶ拠点として地政学や貿易関係において重要な役割を果たし、戦略的なビジネスセンターとなってきた。現在、キプロスでは446 社のスタートアップ及びスケールアップが活動しており、その企業価値総額は37億ユーロにのぼる。同国テック企業の調達資金は、年々着実に増加しており、2021 年には過去最高となる 8,550 万ユーロに達した。特に急成長するゲーム業界では、既に
Nexters と
Outfit7がユニコーン入りを果たしている。しかし、最も収益性の高いセクターは、現在までに3300万ユーロを調達した
LearnWorldsなどが活躍するエドテックであり、2018年から2022年までの4年間で6000万ユーロの資金が投入されている。まだまだ伸び代が大きい数値ではあるが、このユニークなロケーションを生かした今後の成長が期待される。
Neoplants、空気清浄機代わりとなる観葉植物を発表
フランス発
Neoplantsは、大気汚染物質を吸収する遺伝子組み換え観葉植物を設計している。同社は、従来の空気清浄機では効率的に捕捉できないホルムアルデヒドや、BTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)などの揮発性有機化合物(VOC)に焦点を置く。これらの物質は屋外における汚染だけでなく、塗料、コーティング、化学薬品など建設に使用される材料からも発生する。Neoplantsが初めて設計したNeo P1は、DNA レベルで改変されているため、ホルムアルデヒドをフルクトースに、またBTEX化合物をアミノ酸に変えるなど、植物が後にタンパク質を生産するために代謝する新しい酵素を生成することができる。同社によると、このような技術を観葉植物に適用するのは新しい発想で、Neo P1は通常の観葉植物 30 本分の空気浄化効果があると言われている。なお、 Neoplants は、2023 年第 1 四半期に予約注文の受付を開始する。
スイス連邦工科大学、変性眼疾患の早期発見デバイスを開発
EUがサポートする EIT Health の
ASSESS projectの一環として、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の
Laboratory of Applied Photonics Devices (LAPD)の研究者が、初期症状が現れるずっと前に変性眼疾患を診断することができる眼科用デバイスを開発した。加齢による網膜色素上皮の劣化に起因するこれらの疾患の中でも、加齢黄斑変性は欧米における最大の失明原因となっているが、いずれも初期症状の出現以前に確実に診断できるデバイスは現時点で存在していない。今回LAPDが開発した臨床プロトタイプは、白目の部分を通過する赤外光ビームを使用して網膜層を照らし、わずか 5 秒で高解像度の画像を生成する。これにより、臨床医は症状の発症前に網膜色素上皮の変化を観察し、細胞を区別できる画像を確認することで、疾患の早期発見が可能になるという。なお、ASSESSプロジェクトは、このデバイスを標準治療の一環として使用できる環境を確立するため、眼科研究センター、病院、診療所を対象に臨床用デバイスを開発・販売するスタートアップを設立する予定だ。
医療機器をサイバー攻撃から守るMedCrypt、2,500万ドル調達
サンディエゴ発、医療機器向けサイバーセキュリティソフトウェアの
MedCryptが、新たに2500万ドルを調達した。この
Intuitive Venturesと
Johnson & Johnson Innovationが主導したシリーズBラウンドにより、総資金調達額は3400万ドルに達した。ヘルスケア分野におけるIoTが活況を呈する昨今、一般的な病院では、インプラント、ウェアラブル、モニター、画像処理、患者データシステムなど数百もの接続デバイスが使用されている。医療従事者のワークフローを自動化し、ミスのリスク軽減に役立つ反面、これらの機器に見られる一般的なセキュリティ脆弱性が患者を危険にさらしているのも事実だ。FBIは9月、病院内の接続された医療機器の半数以上に既知の重大なセキュリティ脆弱性があり、これらの欠陥が医療業界への攻撃の急増につながっていると警告したばかりだ。MedCryptは心拍計からAIベースの放射線治療ツールや自律型ロボットまで、FDAがサイバーセキュリティを懸念する医療機器全てにソフトウェアを提供している。同社は今回の資金調達で、医療に特化したサイバーセキュリティとして上場できる機会を探る意向だ。
Synthesis AI、メタバースに応用可能なAIモデルを開発
サンフランシスコ発、合成データ技術のスタートアップSynthesis AIは、膨大な量の完璧にラベル付けされた人間の画像データを倍速で作成、実装する、Synthesis Humansなどのプラットフォームを発表した。合成データとは、実際のデータと同様の方法で文脈化されたデータを意味し、新製品やツールのテストデータセット、AIトレーニングの代用としてよく利用されている。最近では、ジェネレーティブAIを搭載した合成データが、コンピュータビジョンAIを構築するための、より効率的なパラダイムとして認識されるようになった。Synthesis AIは、アルゴリズムを用いて人工的に生成された情報を作成するためのプラットフォームを提供しており、今回発表されたデータセットは、メタバースやバーチャルワールドのアバター開発にも利用できる。リアルなアバターの作成には、ラベル付けされた膨大な量の多様なデータが必要だが、Synthesis AIのプラットフォームを利用すれば、迅速に生成することが可能だ。さらに、このデータセットは、AIフィットネスアプリケーション、乗客やドライバーを監視するコンピュータビジョンシステム、電話会議アプリ、視覚効果などの動力源として使用できるという。
非中毒性鎮痛剤に希望の光
痛みを和らげるという点で、オピオイドに勝るものはない。オピオイドにはモルヒネ、オキシコンチン、パーコセット、バイコディンなどの処方箋鎮痛剤、違法なヘロイン、医療現場や違法な場で見かけるフェンタニルなどが含まれ、使用者が簡単に中毒に陥る危険性がある上、米国ではオピオイドが過剰摂取による死亡要因の3/4を占めている。そんな中、ボストンを拠点とする
Vertex Pharmaceuticalsによる実験的候補薬が、希望の光を与えている。VertexはNav1.8と呼ばれる体内のナトリウムチャネルをブロックし、脳に異常を伝える重要な役割を果たす鎮痛剤VX-548を後期試験に移行した。ナトリウムチャネルは、中毒の引き金となる脳の近くには存在しないため、それを標的とする薬剤はオピオイドの代替品として有力である。もしVertexがこの薬の安全性と有効性を証明できれば、220億ドル以上と推定される世界のオピオイド市場に大きな影響を与えることになる。既存鎮痛剤市場は非常に大きく、たとえ手術後の使用にのみ承認されたとしても、VX-548はブロックバスターになると予想されている。
東南アジアのグリーンテックスタートアップ12選
United Overseas Bank (UOB)のイノベーション部門である
FinLabは先日、
GreenTech Accelerator Programの第1期生となる12社のスタートアップを発表した。本プログラムは、エネルギー効率向上、サプライチェーンにおける廃棄物ゼロ、カーボンマネジメント・レポーティングの分野におけるグリーンテックイノベーションを対象とした3ヶ月間のメンタープログラムだ。選出企業には、大手企業に最先端ソリューションを展開できるよう、最大で総額10万ドル以上の資金が提供される。今回選出されたスタートアップのうち、特に興味深い企業を紹介する。
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Resync(シンガポール):自社開発の機械学習モデルを用いて、スマートビルやオフィス向けのスマートエナジーソリューションを提供。プラグアンドプレイ機能、リアルタイムコントロール、省エネ、またカーボンフットプリント削減を可能にする。
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Pantas(マレーシア):企業のデータ収集・分析、目標設定、また国際基準に基づくGHG排出量の開示を支援するAI搭載ソフトウェア。
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HydroNeo(タイ):エビ養殖場向けのスマート養殖場管理システム。水中IoT技術を活用し、エビ養殖場を監視・制御することで生産性を向上する。
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Jejak.In(インドネシア):カーボンフットプリントの計算、樹木のモニタリング、またマーケットプレイスを通じたカーボンオフセットの取引などを可能にする。
Googleら、東南アジアデジタル経済レポート発表
「e-Conomy SEA」は、Googleと
Temasekが2016年に開始した研究プログラムで、2019年にはBain & Companyが主席研究パートナーとして参加している。本レポートでは、独自調査、Temasekのインサイト、Bain の分析、Google Trends、また専門家へのインタビューや業界発の情報源を活用して、東南アジアのデジタル経済について明らかにしている。主な調査結果は以下の通り。
・東南アジアは世界経済動向の影響を比較的受けにくく、デジタル経済の成長は今後も続く模様。デジタル経済の流通取引総額は2,000億ドルに迫り、ポストCOVIDの経済加速が目立つ。
・スタートアップ投資、中でもアーリーステージへの投資が堅調に推移しているが、投資家の警戒感から22年下期には減速が予想される。
・長期的に多くの投資家を惹きつける可能性が最も高いのはベトナム、インドネシア、フィリピンである。
・VCの半数が「ESGへの配慮は重要」と回答。
・2030年までに流通取引総額が6,000億ドルから1兆ドルに達する見込み。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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