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イスラエルエコシステム 世界が誇るイノベーション大国の魅力を探る

イスラエルエコシステム 世界が誇るイノベーション大国の魅力を探る

イントラリンクでは、現在までに欧州、中国、北米と各地域のイノベーションハブに特化したブログシリーズをお届けしてきました。 今回は2021年を締めくくる特別編として、世界的なイノベーション大国として知られるイスラエルを、駐日イスラエル大使館経済部経済公使兼経済貿易ミッション代表のダニエル・コルバー氏、及びイスラエル・イノベーション庁(Israel Innovation Authority=IIA)で、シニアディレクターを務めるカリーナ・ルービンスタイン氏へのインタビューを中心に特集します。

イスラエルは現在、グローバルイノベーションインデックスで世界15位、ブルームバーグイノベーションインデックスで7位、グローバルスタートアップエコシステムランキングで6位と、イノベーション・テクノロジーにおける世界的な地位を確立しつつあります。

イントラリンクも、近年の大手日本・アジア企業からのイスラエルへの関心の高まりを受け、今年6月にイスラエルに新拠点を設立し、最先端技術を有するイスラエルテック企業とアジア企業間の提携強化、ならびにローカルステークホルダーとのネットワーク拡大に努めてきました。

今回は、その活動の一環として上記2名に直接インタビューを実施し、イスラエルテックセクターに関する深い知識と経験を持つスペシャリストだからこそ知るその成長の具体的な背景や強み、また日本企業がどのようにそれらを活用していくべきか、詳しい洞察や見解を伺ってきました。 このブログを通して、日本企業の皆様には同国イノベーションエコシステムに関する理解を深めていただき、さらに将来的にはイスラエル企業とのコラボレーションや投資促進につながるよう、ぜひお役立てください。

イノベーションのグローバルリーダーとしての差別化要因

Q:1948年にユダヤ人の国民国家として建国されたイスラエルは現在、900万人以上の人口を抱え、近年はその人口増加とともに、経済力も飛躍してきました。2020年はパンデミックの影響を受けたものの、2021年は7%の経済成長及び6%のGDP成長が見込まれています。様々な、そして複雑な問題を抱える中東という地域において、イスラエルのテックセクターだけなぜこのような飛躍的な成長を遂げることができたのでしょうか?

ダニエル氏によると、この成長のきっかけの一つは、「必要は発明の母」という通り、そのやむにやまれぬ事情であった地政学的な背景を理由にイスラエルが生き残るために注力したものの結果であると言います。 「イスラエルは建国当初よりアラブ諸国に囲まれており、陸の孤島状態でした。近隣諸国と経済交流ができないため、食料生産などある程度独立した経済が必要でした。それに加え、人口が東京都23区程度と小さい国内マーケット、国土の半分を占める砂漠に起因する乏しい資源という難点を抱えています。そのため経済的に独り立ちするために、政府主導で積極的な人材教育・産業支援を行っていく必要がありました。」

Q:では、政府は具体的にどのような支援を実施したのでしょうか?

「そもそもユダヤ人というのは教育に非常に力を入れている民族です。初代首相ダヴィド・ベングリオンや初代大統領ハイム・ヴァイツマンなどは、科学技術をイスラエル国家の重要要素とし、科学研究機関やリサーチセンターの設立が国家的・経済的優先事項であると考えていました。そして、現在のイスラエルの業績の多くが当時設立された科学技術インフラから生み出されたものなのです。ヘブライ大学とイスラエルのMITと言われるテクニオン大学は、ノーベル賞受賞者などを数多く輩出しています。また、イスラエル人は愛国心が強く、米国の大学でポスドクを終えた後に帰国し、自国での教育に携わることが多いのです。このため、イスラエルの教授陣は世界的にみてもレベルが高いといえるでしょう。さらに、アカデミックな場で生まれた技術を民間に転換する仕組みが大学内にあり、教授を務めながら起業するということも盛んです。」

また日本を含め、多くの国に馴染みがない観点として、徴兵制度もユニークなエコシステム構築要因の一つとして挙げられています。

「イスラエルでは高校卒業後、男性は3年、女性は2年兵役があり、ある種の教育機関を兼ねています。例えば有名な諜報機関である8200部隊などからは、サイバーセキュリティなどの技術を備える人材を育成・輩出しています。さらに注目すべきは英才教育です。タルピオットと呼ばれるプログラムでは、選ばれた50人が技術エリートとして教育され、卒業後優秀な研究者や技術者として活躍します。また、兵役は人脈を形成する上で非常に重要な要素になります。軍との提携も盛んなイスラエルでは、各セクターがそれぞれ独立しているわけではなく、人材についても業界横断的にキャリアを重ねていくことが多いのです。例えばイスラエル国防軍のエリートが退役し、軍時代の知識と繋がりを活かしてベンチャーキャピタルの投資家に転身するということもよくあります。軍での経験や知識がイスラエル経済に生かされている面白い例ではないでしょうか。」

一方、カリーナ氏はイスラエル人のDNAに根付いた独自の文化を強調しています。

「イスラエル人には、型にはまった考え方をせず、迅速に行動し、機略縦横であるべきという基本的発想が定着しています。これは私たちのDNAの一部であり、比較的新しい国であることから、クリエイティブな思考や非正統的な方法をとることは、国内スタートアップの典型的な特徴であり、彼らの果てしない努力に変換されています。」 この考え方は、実際にIIAがとってきたエコシステム全体を強化するための包括的なアプローチにも反映されていると言います。

「私たちは継続的なイノベーションを実現するため、様々な業種をサポートし、そのボトムアップを行っています。このモデルでは、私的資金とともにプ各ロジェクトを支援し、商業化に成功した場合は、売上からロイヤリティの返済を求めます。しかし、たとえプロジェクトが失敗した場合でも、この支援金が補助金に変わるだけでなく、必要であれば、再度金銭支援を求めることができるシステムになっています。つまり、再試行のためなら失敗しても良いという考え方を推奨しているのです。」

これにはダニエル氏も同調し、「イスラエルでは失敗を悪いこととして捉えていないという発想が根付いているため、新しい会社を設立したり、新しい技術を開発したりすることに抵抗がないのです。」と述べています。

セキュリティやフィンテックだけではない、多様な新興セクター

Q:イスラエルエコシステムの概要を掴むため、全般的な現状や特徴を教えてください。またセキュリティやフィンテックなどが強いイメージがありますが、他に新興しているセクターはありますか?

カリーナ氏:「イスラエルでは現在、6000以上のスタートアップが活動するエコシステムが繁栄しています。これが最先端の革新的なソリューション、一流の研究機関、多数のグローバルプレーヤーの存在、積極的なコラボレーション、ダイナミックで機敏なビジネス環境を提供しています。また1800を超える企業が集まるAIや、世界第2位の規模とされる代用プロテインに関連したセクターが急成長しています。さらにバイオコンバージェンス(バイオロジーと工学の統合)やメドテックも注目分野です。」

続けて、ダニエル氏も農業関連分野の成長に触れています。

「近年では、フードテックやアグリテックといった分野も注目されています。もともとイスラエルは地政学的なリスクを考え、農業を重要視していました。そのため、現在でも食料自供率は90%以上です。農業分野では貴重な資源である水を有効利用するための点滴灌漑技術がよく知られていますが、近年ではIT技術を農業へ転用したテクノロジーも発展しています。例えば、ドローンによる自動収穫システムや植物の成長を可視化するような技術です。」

エコシステムを構築し、支えてきた政府の努力

Q:イスラエルは、2019年のGDPに占める民間研究開発の国家支出の割合で第1位(出典:IIA)と、民間部門へのR&D投資が非常に積極的です。これはエコシステムの成長において非常に重要な役割を果たしていると思いますが、どのようにしてこのような積極性が育まれてきたのでしょうか?

ダニエル氏によると、実はここまでに至るまでには政府の支援が大きな役割を果たしてきたと言います。

「1993年には国内のスタートアップを育てる嚆矢となったヨズマファンドが設立されました。ヨズマはヘブライ語でイニシアティブという意味です。これは政府が1億ドルを投資して10のベンチャーキャピタルを創出し、3対2の割合で民間とイスラエル政府が出資することで、海外の起業家の投資を広く呼びこみました。これが2000年代のイスラエルのITバブルを生み、サイバーセキュリティや医療機器、通信などの分野で多くの技術が生まれました。もちろん、IIAを中心に政府主導のスタートアップ支援は現在も続いています。また国内スタートアップの海外進出をサポートするために我々経済部との連携のもと、イスラエル輸出協会(JETROのような組織)も積極的に活動しています。」

具体的な日本企業との提携事例とシナジー

Q:昨年、日本企業によるイスラエルのハイテク企業への投資額は11億ドル(前年比20%増)に達しました。また商社、金融、保険業界を中心に、2015年以降にディール数や投資額が急上昇していることもあり、2020年は日本とイスラエルの経済関係にとっても記録的な年となりました。近年見受けられた日本企業とイスラエル企業の興味深いコラボレーション事例をいくつかご紹介いただけますか?

ダニエル氏:「最も記憶に新しい事例の一つは、TOKYO2020オリンピックでのサイバーセキュリティと放送技術のコラボレーションではないでしょうか。特に2021年度上半期のイスラエルのサイバーセキュリティへの投資額は、この分野の全投資総額の40%を占めています。全体的に見ても、コロナ禍においてDX化が進む中、イスラエルのテクノロジーへの期待は膨らんでいます。2020年には世界中からイスラエルへ100億ドルが注ぎ込まれましたが、この額は2021年上半期に既に更新されており、日本からの投資額も現時点で前年度の投資額に近い9.8億ドルに到達しています。他にも2021年には、NTTや三井住友海上がイスラエル現地法人を設立するなど、日本企業が積極的にイスラエルの最新技術を求めていることがわかります。」

カリーナ氏:「フードテックでは、日本での培養肉導入に向けた三菱商事とAleph Farmとの提携、またAjinomotoとHinomanの健康食品の共同開発などが発表されています。さらにSompoもイスラエル企業に2,000万ドルを投資し、Intuition Robotics、Nexar、Guardian、Sensifree、Binah.aiなどの企業とのコラボレーションを確立してきました。」

日本企業にとってのイスラエルエコシステムとは

Q:最後に、今までお伺いしたお話を踏まえた上で日本企業が考慮すべき事項、また今後どのようにイスラエルエコシステムを活用していくべきか、自由にコメントをお願いします。

ダニエル氏:「イスラエルとUAEをはじめとした湾岸諸国との国交正常化、アブラハム合意の与えるインパクトは大きいのではないでしょうか。UAEも石油に依存しない経済のあり方を考慮する中、ドバイ・テルアビブ間の直行便運航も開始され、UAEにオフィスを持つ日本企業がイスラエルに赴くようなケースも増えるでしょう。日本・イスラエル・UAE間でビジネスを発展させていくのもこれからの可能性の一つです。また、エルアル航空は日本への直行便を計画しています。パンデミックの影響で延期になっていますが、就航されればイスラエルへの距離がぐっと近くなるでしょう。そして現在、イスラエルでは大規模な国内インフラ開発予算が組まれています。ぜひ交通機関の開発に強い日本企業の皆様にイスラエルのインフラを開発していただきたいと思っております。イスラエルと日本とのシナジーはイスラエルスタートアップの技術を共に発展させていくだけではなく、日本からイスラエルへの開発が加われば、互いの得意分野を補った、真のコラボレーションにつながるのではないかと思います。」

カリーナ氏:「大手企業の方にとって、競争力を維持するためには戦略の一環として、イノベーションを模索する他に選択肢はありません。特にオープンイノベーションは、既存定義を超えた革新的なアイデアを探求する有意義な方法ですが、これには様々なイノベーションエコシステムと繋がり、潜在的な新規ビジネスの可能性が高いと特定された領域を拡大していくことが重要となります。イスラエル政府によるイノベーションへの取り組みは、日本企業によるオープンイノベーションへの投資を支援し、今後数年間で市場における競争優位性を確保できる革新的な技術を特定するため、多数のインセンティブツールを提供しています。またIIAはバイオコンバージェンスにおいて日本との提携を強化し、人類が直面する課題解決に向けたヘルステックソリューションを前進させる協力的な枠組みの構築に取り組んでいます。アグリフードやエネルギーなどサステイナビリティにも貢献できるバイオコンバージェンスは、不可欠であるとともに、緊急性の高い分野とも言えるでしょう。その点で、日本の政府機関、産業界、研究機関にもこの分野への注力を呼びかけています。」

最後に、、、

今回は特別編として、常にイスラエルのイノベーションに接しているダニエル氏とカリーナ氏に、それぞれの視点からその強みや特徴についてお話を伺いました。既に日本企業も進出し、複数のセクターで活躍しているイスラエルではありますが、バイオ・コンバージェンスやフード・アグリテックなどでの将来性が高く、まだまだ計り知れない可能性を秘めたエコシステムであると言えるでしょう。 またテクノロジー面だけでなく国家にまつわる背景や歴史、さらにイスラエル人に根付いた考え方を理解していただくことができたのではないでしょうか。今後、機会があればこれらを頭の片隅に置きながら、イスラエル企業との対話に臨んでいただければ幸いです。 イントラリンクはイスラエル拠点を通じて、文化、言語、ビジネス環境などの違いから生じるギャップをカバーしながら現地よりハンズオン型のサポートを提供することでイスラエル企業と日本大手企業の提携・コラボレーションの強化を図ります。 イスラエルエコシステムへのご関心をお持ちの方は、ぜひイントラリンクまでお声掛けください。

 

ダニエル・コルバー(Daniel Kolbar)氏について

 駐日イスラエル大使館経済公使兼経済貿易ミッション代表

2020年10月に現職に就任。それ以前は外国貿易管理局で二国間貿易協定の責任者を務める。その間、EU、ラテンアメリカ、ユーラシア、EFTAとイスラエルとの貿易関係を担当し、ユーラシア経済連合やグアテマラとの自由貿易交渉を牽引した。また2013年にはリオデジャネイロにイスラエル経済貿易ミッションを設立し、2017年12月まで在ブラジル経済総領事を務めた。スイスのエコール・オテリエール・ド・ローザンヌ(EHL)で国際ホスピタリティ・マネジメントの理学士号、テルアビブ大学で外交学の修士号、バル・イラン大学で法学の修士号(非陪審員向け)を取得済みで、6カ国語に精通している。

 

駐日イスラエル大使館経済部について

世界約45カ国にあるイスラエル経済・貿易ミッションのうちの一つとして、イスラエル経済産業省の出先機関として活動する。東京と大阪を拠点に、在京イスラエル大使館のオフィスとともに、関西エリアをカバーする西イスラエル貿易事務所を2016年に開設。主なミッションは、1)イスラエル企業の日本での事業展開の支援、2)イスラエルと日本の経済発展のための政府プラットフォームの構築、3)イスラエルに対するポジティブなイメージを作るためのブランディング活動である。 また、イスラエル企業を日本へ紹介する活動の一貫として、コロナ禍以後はFintech、Contech、Proptech、Digital Health、Mobilityなどをテーマに、ウェビナーイベントなどを開催。今後のイベント情報は、駐日イスラエル大使館経済部ホームページを参照。

 

カリーナ・ルービンスタイン(Karina Rubinstein)氏についてSr. Director of BD Start-Up Division, IIA

20年以上の実践的なグローバル市場を持つ経験豊富なビジネス開発者。スタートアップやより確立された企業など、あらゆるステージのイスラエル企業向けに国際的なプレゼンスと販売プラットフォームを構築し、医療機器やデジタルヘルス、クリーンテクノロジー、伝統産業などに及ぶ様々な分野で革新的な思考とリーダーシップを開発してきた。 イスラエル・イノベーション庁(Israel Innovation Authority)について: IIAは、研究開発プロジェクトへの投資を通じてイスラエル経済の革新を促進するイスラエル政府機関として活動。VCと共同出資するシードファンドや、提携する30のインキュベーターとイノベーションラボなどと提供する様々な資金調達ツールを介して、幅広い分野でスタートアップのボトムアップを図り、シードステージ企業の初期R&Dから市場展開までのスケールアップをサポートする。さらに、70以上の二国間協定、5つの二国間基金(韓国、シンガポール、インド、米国、カナダ)、及びEU Horizo​​nプログラムでのパートナーシップを通じて、イスラエル企業に国際市場へのアクセスを提供している。

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、プロジェクト実行チームの一員として、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業をリードしている。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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