『旭化成、伊Aquafilと3Dプリンター向け素材開発で提携』、『持続可能なデータセンター実現に向け、Submerが資金調達』、『物流向けロボットの英Dexory、8,000万ドルを調達』、『CPGサプライチェーンデータ分析のCrisp、7,200万ドル調達』、『手持ち型医療ロボットのMendaera、7,300万ドル調達』、『緊急電話「911」の革命を目指すPrepared、2,700万ドル調達』、『シンガポール発フィンテックのSurfin、1,250万ドルを調達』、『Meta、アジア太平洋地域向けAIアクセラレータープログラムを開始』を取り上げた「イノベーションインサイト:第104回」をお届けします。
旭化成とイタリア発ケミカルリサイクルポリアミド6(PA6)メーカーのAquafilが覚書を締結し、3Dプリンター用の新素材開発に向け提携することで合意した。また2021年にAquafilと戦略的パートナーシップを締結している伊藤忠も、このイニシアティブをサポートする。旭化成は、ガラス繊維に比べて素材のリサイクル性に優れ、天然繊維を原料とするセルロースナノファイバー(CNF)を独自開発する一方、Aquafilは、使用済みの漁網やカーペット、産業廃棄物などの消費者廃棄物をケミカルリサイクルした持続可能なPA6ポリマーを「ECONYL」というブランド名で提供している。両社の技術を活用したこの新しいCNF/ECONYLコンパウンドは、特に航空宇宙や自動車などの分野での用途に適しているとされ、旭化成によると、2025年第3四半期にEU、米国、日本で新コンパウンド素材のフィラメントの試験販売を開始する予定だという。
生成AIの台頭により、データセンターは膨大なエネルギーと水の消費を余儀なくされ、従来の空調や水冷技術では対応が不十分になってきている。こうした中、バルセロナを拠点とするSubmerが、データセンター冷却技術で新たに5,500万ドルの資金を確保した。2015年設立の同社は、サーバーラック全体を独自の生分解性非伝導性冷却剤で満たされた容器に沈め、その中で稼働させる液浸冷却技術を提供している。さらに、データセンターの廃熱をビルの暖房などに再利用する熱交換器を備えたモデルも開発しており、より持続可能で水を必要としないデータセンターの構築をサポートする。Submerの顧客には、Telefonicaのような通信会社、ExxonMobilをはじめとする大手企業、欧州委員会などの政府機関が含まれる。なお、今回の資金調達は、米国やアジア太平洋地域などの主要市場を中心に、同社の世界的な事業拡大に充てられる。
物流業界向けに倉庫運用ロボットを開発する英Dexoryが、最新のシリーズBラウンドで8,000万ドルの資金を確保し、調達総額も1億2,000万ドルに達した。2015年に設立された同社は、倉庫やフルフィルメントセンターのデジタルツインを分析・作成できる完全自律型ロボットを開発し、業務上の洞察提供を支援している。同社のプラットフォームは、GXO、Unipart、郵船ロジスティクスなどの物流企業や、GE Appliances、デンソーなどの製造企業ですでに採用されている。活用事例として、DBシェンカーは在庫精度の6%を改善、ID Logistics は手作業による在庫調査をわずか2ヶ月で41%削減したという。Dexoryは今後、既に7つの州に顧客を持つ米国市場、ならびにグローバル展開を推進するという。
消費者向けパッケージ商品(CPG)業界向けデータ分析と接続プラットフォームを提供するCrispは、TOSHIBA、DNXなど新規戦略的投資家からの追加資金を含むシリーズBラウンドで7,200万ドルを調達した。同社はCPGブランド、流通業者、小売業者間を繋ぎ、販売時点における売上データ(POS)と在庫データへのリアルタイムアクセスを提供することで、CPG企業の無駄の削減と収益性向上をサポートする。また小売業者および流通業者から6億2,700万以上の流通ポイントデータを標準化し、サプライチェーン全体にわたる可視性を向上、さらにメーカーや小売業者は店舗レベルまで物流、流通、販売促進を最適化できる。加えてマーケティング戦略の強化、価格体系の最適化、在庫管理の合理化、そして廃棄物の削減にも貢献するため、サステナビリティニーズにも対応する。2月の資金調達ラウンド以来、Crispの顧客数は600社から6,000社以上に急増したという。
医療用ロボットを開発するMendaeraは、最新のシリーズBラウンドで7,300万ドルを調達した。コスト上昇と医療従事者不足により、同業界では医療の質を維持することが困難な昨今、生検、臓器および血管へのアクセス、疼痛管理介入など、一般的でありながら重要な処置においてはとりわけ深刻な状況が続いている。需要は高いものの、スキル習得が困難なため、結果としてコストが高くなり、ケアに支障をきたすという状況だ。他の業界では、品質と生産性を向上させるために自動化を導入することで、スキル不足などの課題に対処しているが、医療分野におけるロボットは、主にハイエンドで単一目的の手術に限定されてきたため、日常の処置に利用できるMendaeraのようなスタートアップに対する期待が大きい。同社はロボット工学とAIの拡大を推進する計画のもと、手持ち型ロボットによるケアを適切に分配、年間数億件の患者対応を改善し、システム全体の効率化推進を目指す。
米国では、日本の110番に当たる911緊急センターの多くが固定電話に限定されており、通報者の位置特定が難しく、SMSや画像の処理もできない。インターネットベースのサービスNext Generation 911も20年以上前から存在するが、国内56%程度にしか普及していないのが現状だ。緊急通報を「革命的に」変えることを目指すPreparedが、Andreessen Horowitz主導のシリーズBラウンドで2,700万ドルを調達した。同社は、スマホなどから入る通報に対し、911指令担当者が通報者のリアルタイムのGPS位置情報を取得できるようにする。また、Prepared を通じて、通信指令担当者はテキストや画像も受信可能な上、Apple の Emergency SOS Live Video 機能を備えた iPhone からの通報であれば、ビデオ通話にも対応する。緊急通報対応を迅速化し、数秒でも短縮できるよう、人命を救うための技術向上にも邁進する計画だ。
シンガポールを拠点にフィンテックプラットフォームを開発するSurfinが、Insignia Ventures Partnersから1,250万ドルの資金調達を実施した。2017年に設立され、主に十分な金融サービスを受けていない中流階級をターゲットとするSurfinは、消費者向け融資を軸にスタートし、決済・送金、クレジットカード発行、資産管理など、さまざまな金融サービスへと事業を拡大してきた。同社は、AIとデータ分析を活用し、銀行口座を持たない中間層のニーズに応える透明性の高い革新的な金融サービスを提供することを目指し、現在インドネシア、ベトナム、メキシコ、フィリピン、ナイジェリア、ケニア、インド、ウガンダ、オーストラリアと数多くの国と地域で事業を展開、多様なライセンスを取得してきた。特に、同社の主要市場であるインドネシアでは、P2P、投資信託販売、送金および決済ゲートウェイに関するライセンスも保有している。
Metaはシンガポールにある地域本部において、アジア太平洋(APAC)地域のスタートアップを対象としたAIアクセラレータープログラムの開始を発表した。これは、 Meta APAC AI Accelerator Finalsと同時に発表されたもので、この新たな長期プログラムは、スタートアップや開発者がMetaのオープンソースAIモデル「Llama」を活用し、自社製品に統合できるよう支援するものである。Metaは、最先端のオープンソースAIモデルや関連リソースへのアクセスを提供することで、これらの企業が次世代のイノベーションを牽引するソリューションを開発できるよう後押しすることを目指している。この取り組みは、シンガポールの国家AI戦略2.0(NAIS 2.0)に沿い、企業やスタートアップによるAI開発と導入を推進する。なお、Digital Industry Singaporeはこの戦略に基づき、シンガポールが引き続き地域のAI開発の主要拠点としての地位を維持するために支援している。Metaによると、シンガポールを含むアジア各国から720以上の企業や開発者が、教育、公共サービス、経済発展に関連する課題に対応するためのLlamaの活用事例を提案したという。選ばれた13地域のファイナリストたちはシンガポールのMeta本社にてソリューションを発表、さらなる事業展開のための助成金を獲得した。
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