『EU、ディープテックの研究開発と企業支援のため予算増強』、『Shellが語る、海運業界脱炭素化に向けたコラボレーションの重要性』、『グラスゴー、老朽化した住宅向けに電気壁紙を試験導入』、『ロボットによる発送業務拡大を目指すNimble、約1億ドル調達』、『Redaptive、脱炭素化の加速に向けて1億ドルを調達』、『Tennr、ヘルスケア文書処理の自動化で資金調達』、『Supermom、家族向け消費者データプラットフォームで資金調達』、『ベトナム、東南アジア初の3Dプリントチタン製胸部再建手術に成功』を取り上げた「イノベーションインサイト:第107回」をお届けします。
EUは、ディープテック関連の研究を強化し、AI、低炭素技術、アグテック、バイオテックなどの戦略的分野においてスケールアップを支援するため、14億ユーロを支出する計画を発表した。2億ユーロ近い予算増額を受けた2025年版のEIC Work Programmeは、様々な事業段階にあるテック企業へ投資するための複数の資金調達スキームを実施し、研究から商業化までスタートアップビジネスを包括的にサポートする。これにはデジタル化の推進、さらに域内の自律性向上とネット・ゼロ移行を推進するために、欧州が今年2月に財政支援案「欧州戦略技術プラットフォーム(STEP)」を採択したことを受けたスケールアップの資金へのアクセス改善も含まれる。また同プログラムの一環として運営されるEIC Challengesも一部見直され、自律型ロボット、気候変動に影響されない農作物、廃棄物のリサイクル、医療診断などの分野に約1億2,000万ユーロが、また、ジェネレーティブAI、スペーステック、アグテック、モビリティ・ソリューションをはじめとする特定のターゲット技術に取り組むアーリーステージ企業に2億5,000万ユーロが割り当てられる予定だという。
世界の温室効果ガス排出量の約3%を占め、脱炭素化が難しいことで知られる海運業界。EU域内だけを見ると、この数値は倍増すると言われている。では、海運業界において、大手企業は脱炭化水素の取り組みを加速させるためにどのように貢献できるのだろうか。エネルギー分野において最も早く設立されたCVCの1社であるShell Venturesは、船舶の排気ガスから硫黄とCO₂を濾過するとともに、洗浄水から残留油分と粒子状物質を除去するValue Maritimeと、EV・ハイブリッド船にエネルギー貯蔵ソリューションを提供するCorvus Energyへの投資およびパートナーシップを通じて、スタートアップと大手企業が協力することが脱炭素化実現に向けて極めて重要であることを再確認したという。なぜなら、革新的なソリューションと俊敏性を持つスタートアップが画期的な技術をもたらす一方で、既存の大手エネルギー企業は、これらのソリューションを世界レベルで展開するために必要な規模、リソース、インフラを提供することができ、その上で政府機関や組織との緊密な連携を図ることで、世界的な持続可能性目標を達成するために必要な規制、技術、運用の進歩を大幅に加速させることができるからだ。Shellが共有したこれらの学びは、あらゆる産業における脱炭素化という共通の目標を大きく前進させようとする企業にとって、有益なヒントになるだろう。
電気壁紙がガスボイラーに取って代わる日が来るかもしれない。グラスゴー大学、ストラスクライド大学、また地方自治体の共同プロジェクトとして、現在電子壁紙がグラスゴー市内の12の物件で試験的に導入され、クリーンな熱源としての有効性を評価されている。その他欧州地域と比較しても、スコットランドには非常に古く、極めて断熱性が低い住宅が立ち並んでおり、 暖房システムに大量のエネルギーを必要とする。そんな中、環境に優しいだけでなく、簡単に設置可能な電気壁紙は、銅帯とグラフェンやカーボンを組み合わせ、電気を通す薄い表面を作り出すことで目に見えない赤外線を放出、ガスを使わない熱源を提供するほか、物件の空気環境を改善し、湿気やカビの発生を抑えることができると考えられている。この技術は、IoTとAIを活用したデータ分析により、保温性やエネルギー消費量などの効率に関する情報を収集し、その有効性を確かめることができるという。なお、このプロジェクトは、建築や輸送、さらにエネルギー、金融、食品、自然システムに至るまで、あらゆる分野におけるスコットランドのネットゼロへの移行加速を目的とした、8つの新しい共同研究のひとつとして実施されている。
Nimbleは最新のシリーズCラウンドで1億600万ドルを調達し、その企業価値も10億ドルに達した。FedExとCedar Pine LLCが共同主導した資金調達には、eコマースの事業拡大を狙うFedExとの業務提携も含まれる。Nimbleは、汎用ロボットを活用したターンキー方式の自律型発送業務センターを提供することで、現在の倉庫自動化の複雑な課題解決を目指す。さまざまな管理システムを統合し、サプライチェーン全体にわたってリアルタイムの可視性を提供するクラウドベースのロジスティクスプラットフォームとして、業務全般、メンテナンス、拡張性を合理化し、コストを最大70%削減できる点が強みだ。2017年設立のNimbleは、アパレル、電子機器、製薬など、Fortune 500に名を連ねる40社以上にサービスを提供している。複数のタスクを処理できるロボットが、90%以上が未だ手作業で運営されている、倉庫発送業務に効率化をもたらすと期待されている。
エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS)プロバイダーのRedaptiveは、カナダ年金運用委員会(CPP Investments)から1億ドルを調達した。この資金により、同社は脱炭素化の需要の高まりに対応し、顧客のネットゼロ目標達成を支援する事業拡大を後押しする計画だ。昨年、化石燃料による世界全体のCO2排出量は過去最高を記録、これはパンデミック以前の水準から1.5%の増加、建物及び建設セクターだけで総排出量の37%を占めるという。 Redaptiveは大手企業と提携し、全額出資による省エネおよび再生可能エネルギーへのアップグレードを実施しており、Fortune 500企業のMcKessonやSaint-Gobainなどがこのサービスを既に採用している。同社の包括的なソリューションは、通常5年から15年間にわたる長期のエネルギー効率化プログラムをカバーし、初期費用なしで提供される。そしてRedaptive独自の計測技術がリアルタイムでのアセットレベルデータ提供を可能にし、各社におけるエネルギー利用の効果的な管理をサポートする。
医療分野に特化した文書インテリジェンスのスタートアップTennrは、Lightspeed Venturesが主導し、a16zとFoundation Capitalが参加したシリーズBラウンドで3,700万ドルを調達した。TennrのAI駆動型ソフトウェアは、医療現場において紹介状や患者記録などの紙文書管理を自動化することで、医療機関が患者ケアにより集中し、治療結果を改善することを可能にする。 同社のAIモデルは、手書きのメモやチェックボックスを含む複雑な医療文書も効果的に解析し、処理時間とエラーを削減するという。業務効率を高めるTennrのプラットフォームにより、医療提供者はより少ない事務スタッフで手作業を担当できるというメリットももたらす。Tennrは今回の資金調達により、エンジニアリング及び研究開発チームの拡大を計画しており、来年までに全米患者の最大10%を対象に文書管理の合理化を目指す。医療分野におけるTennrの画期的な技術に、投資家は大きな市場潜在性を見出している。
シンガポールに本社を置き、子持ち女性のネットワークを活用しながら、様々な製品やサービスについて学びや情報を提供するAI駆動型の消費者データプラットフォームを開発する Supermomが、 Qualgroが主導するシリーズAラウンドで約600万ドルを調達した。ブランドと消費者を結びつけるオンラインプラットフォームとして、主に母親、家族、地域社会などがこれを通じてユーザー生成コンテンツやコメントを共有でき、共通の関心を持つ親同士でつながる場が形成されている。さらに、投稿により収入を得る機会も提供されており、つながりがさらに促進される仕組みとなっている。
ベトナムのVinmec Times City International Hospitalが、3Dプリントのチタンインプラントを使用した東南アジア初となる胸郭再建手術を実施した。この手術は、医療分野における3Dプリントの可能性を強調するだけでなく、ベトナムを先進的な外科手術技術における地域リーダーとして位置づけるものとなった。ベトナムにおける胸郭再建術では通常、筋肉や皮膚の移植が用いられるが、傷跡が残るリスクや構造的な保護機能が限定的になる可能性がある。一方で今回のケースでは、Vinmecの医療チームがVinUniversityの3Dテクノロジー医学センターのエンジニアと協力し、従来の方法に比べ耐久性、機能性および保護機能に優れたカスタムフィットのチタンインプラントを設計した。胸部再建に3Dプリントを使用する技術は、欧米やアジアの一部で注目を集めつつあるものの、まだ稀なケースである。過去10年にわたる症例は、主に高度な医療インフラを備える先進国に限られ、チタン製の3Dプリント胸部インプラントを使用した手術は世界で約50例にとどまっている。今回のVinmecの成功により、ベトナムはアジアで4番目に3Dプリントによる完全な骨インプラントを使用した心肺保護手術を実現した国となった。
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