Skip to content

イノベーションインサイト:第122回

イノベーションインサイト:第122回

『持続可能なパッケージングのPulpex、7,400万ユーロを調達』、『CorPower Ocean、潮力をクリーンエネルギーに変換』、『精密発酵の蘭Vivici、3,250万ユーロを調達』、『AIヘルスケアOpenEvidence、10億ドルの評価額で資金調達』、『アクセント修正ソフト開発のSanas、6,500万ドルを調達』、『企業財務向けエージェント型AIのAuditoria、3,800万ドルを調達』、『東南アジア、デジタル技術を背景にスタートアップハブとして台頭』、『AIヘルスケア情報システムNexmedisが資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第122回」をお届けします。

 

持続可能なパッケージングのPulpex、7,400万ユーロを調達

ケンブリッジを拠点に持続可能なパッケージングを開発するPulpexは、最新のシリーズDラウンドで7,400万ユーロを調達した。2020年に設立された同社は、持続可能な方法で調達された木材パルプを原料に、隠れたプラスチックを一切含まない繊維ベースのボトルを開発している。このボトルは、家庭用リサイクルで紙や段ボールと同じように再利用できるように設計されている上、従来のガラス製やプラスチック製のパッケージと比べ、環境への影響が少ないという。またボトルの内側には、中身が油性か水性かに応じて、独自の食品用コーティング剤が吹き付けられている。Pulpexは現在、 Diageo、Unilever、Kraft Heinzなど、世界最大級のFMCGブランドと提携している。現在、ケンブリッジの本社にある既存の研究開発施設とパイロット生産施設で事業を展開する同社は、この新しい資金を活用し、グラスゴー近郊に初の商業規模の製造施設を建設する。この新工場は年間5,000万本の生産能力を備える予定だという。

 

 

CorPower Ocean、潮力をクリーンエネルギーに変換

潮力エネルギーは、世界全体で800~1,200TWhの潜在力があると推定されている。特にスペイン、アイルランド、ノルウェーのような大西洋に面した欧州諸国は、大西洋の強い波を利用してクリーンエネルギーを作り出すことができる。この機会を捉えるべく、スウェーデン発CorPower Oceanは、波の動きをクリーンで安定した電力に変換する巨大なブイを開発している。心臓が圧力を利用して血液を一方向に送り出すのと同様に、ブイがそれ自体に張力をかけてブイを引き下げ、波がそれを押し上げることで機能し、波の動きを回転させることで発電機が電力を作り出す仕組みだ。同社は、すでに2023年にポルトガルで最初の商用ソリューションの展開を開始している。昨今、クリーンで予測可能なエネルギーを供給し、風力や太陽光などの断続的な技術を補完する方法として、潮力エネルギーへの関心が高まっている。

 

 

精密発酵の蘭Vivici、3,250万ユーロを調達

オランダ発Viviciは、精密発酵ソリューションの規模拡大を目的に3,250万ユーロのシリーズA資金を確保した。2023年設立の同社は、精密発酵を利用して、牛の代わりに微生物で乳タンパク質を製造することで、持続可能かつ口当たりと食感が改善されたヴィーガン代替食品の製造を可能にする原料の開発に取り組んでいる。同社は、化学のグローバル企業であるdsm-firmenichや酪農大手のFonterraといった業界大手の支援を受けている。Viviciの初期製品は、分離乳清タンパク質(βラクトグロブリン)のBLGで、その生産方法は、従来の方法と比較して、水の消費量が86%、二酸化炭素排出量が68%少ないという。BLG製品の展開により、2023年に世界で284億ドルと評価されたアクティブニュートリション市場(プロテインドリンク、ビーガンフレンドリーバーなど)をターゲットとする同社は、今回の資金調達により、新たな国際市場への参入拡大と、2つ目の乳タンパク質成分(ラクトフェリン)の発売を開始し、長期的な製造能力の確立を目指す。

 

 

AIヘルスケアOpenEvidence、10億ドルの評価額で資金調達

ヘルスケアAIのOpenEvidenceは、Sequoiaから7,500万ドルを調達し、企業価値も10億ドルと評価された。Kensho Technologiesを7億ドルで売却した経験を持つ創設者によって設立されたOpenEvidenceは、医療現場で医師を支援するAI搭載のチャットボットを提供している。すでに米国で医師の4分の1が利用するこのチャットボットは、信頼性の高い医学的洞察が強みだ。今回の資金調達により、業務拡大、戦略的コンテンツパートナーシップ、製品拡張がサポートされることになる。現在、New England Journal of Medicineがコンテンツパートナーとして参加することで、OpenEvidenceのAIは信頼性の高い情報源に基づいて訓練されている。一般的なAIモデルとは異なり、同社は医学文献のみに依存することに起因する誤情報の発生を回避している。ヘルスケアにおけるAI活用にはリスクが伴うものの、医師不足や燃え尽き症候群の緩和をもたらすとの期待が大きく、現に医師の口コミによる同社の成長ぶりは、今後OpenEvidenceが医療にもたらす変革の可能性を示唆している。 

 

アクセント修正ソフト開発のSanas、6,500万ドルを調達

Sanas.AIは、Quadrille Capital主導のシリーズBラウンドで6,500万ドルを調達し、総資金調達額は1億ドルを超えた。 同社はニカラグアのコールセンターで米国顧客対応の仕事をしていた友人の、英語が堪能であるにもかかわらず、アクセントが理解できない米国顧客からひどい罵倒を受けたとの経験談がインスピレーションとなり、移民第一世代の数名が立ち上げたスタートアップだ。Sanasは特にコールセンターにおいて、非ネイティブスピーカーのコミュニケーションをより明確にすることを目指す。同社のAI搭載ソフトウェアは、話し手の音声を維持したまま、アクセントをリアルタイムで修正するもので、フランス語、中国語、日本語など、複数の言語に対応する。 従来の翻訳ツールとは異なり、レイテンシーなく発音を向上させる。世界39ヶ国のカスタマーサービス担当者が利用するSanasは、クラウドではなくローカルで音声処理を行うことで、ユーザーのプライバシーを最優先している。世界的な需要の高まりを受け、ノイズキャンセリングなど技術の拡充を図り、コールセンター以外の新たな市場への参入も計画中だ。

 

 

企業財務向けエージェント型AIのAuditoria、3,800万ドルを調達

Auditoria.AIは、目的を認識し、自律的に行動する機能を備えたエージェント型AIソリューションの拡大を目指し、シリーズBラウンドで3,800万ドルを調達した。企業財務における売掛金回収チーム向けにSmartCustomer、買掛金支払いチーム向けにSmartVendorを展開する。これらのツールは、反復的な財務業務を自動化し、リアルタイム洞察を提供する。300以上の言語と通貨に対応する同社のソリューションは、ヘルスケア、金融サービス、小売、テクノロジーなどの業界に導入され、世界のGDPの80%を占める市場に展開中だ。業務の効率性を高め、リスクを低減し、意思決定を改善するAI搭載ツールを財務チームに提供することをミッションとし、今後は特に導入に消極的だった分野にも変革をもたらすことが期待されている。財務分野における生成型AIの導入はトレンドともなっており、CFOがデータ可視化やレポート作成にAIを活用するケースがさらに加速する中、現にIntuitのような大手企業も2025年内にグループ会社でAI利用を促進、財務の自動化をさらに推進する計画を発表している。

 

 

東南アジア、デジタル技術を背景にスタートアップハブとして台頭

2012年以降、マレーシア、インドネシア、シンガポールのスタートアップ・エコシステムは急成長を遂げ、ベンチャー投資額は累計800億ドルを超えた。わずか12年間で、新興市場から世界的な競争力を持つハブへと変貌を遂げている。シンガポールはアジアトップのスタートアップ・エコシステムを誇り、世界ランキングでは7位に位置する。国内には3万6,000社以上のスタートアップ、32社のユニコーン、200以上のインキュベーター、500以上の投資機関が存在する。インドネシアは東南アジアで2番目に大きなスタートアップ市場を形成し、世界ランキングでも36位にランクイン。2,400社を超えるテクノロジー企業と14社のユニコーン企業を抱える。マレーシアは1,000社以上のテック企業と2社のユニコーンを有する。この急成長の要因は、スマートフォンを中心とするテクノロジーの進化によるものだ。金融、交通、通信の分野で革新的なソリューションが登場し、GrabGoJekといった企業が、モバイルテクノロジーを活用してサービス提供と金融包摂のあり方を一変させた。スタートアップの台頭は人材市場にも大きな影響を及ぼしている。ソフトウェアエンジニアの需要は急増し、主要都市にとどまらず、新たなテクノロジー拠点が各地で誕生している。2025年以降も、スタートアップの成功には効果的なコミュニケーション戦略が不可欠であり、新興市場においてユーザーリーチと成長を促進するには、多様なチャネルとテクノロジーの活用が求められる。 

 

AIヘルスケア情報システムNexmedisが資金調達

インドネシアのAIヘルスケア企業Nexmedisは、East VenturesとForge Venturesの共同主導による資金調達を実施した。同社は2023年に設立され、AIの統合を通じて医療分野の非効率性解消に取り組んでいる。Nexmedisの主力サービスは、患者と医療提供者の業務を効率化するAI搭載のヘルスケア情報システムである。その臨床意思決定支援ソリューションは、ICD-10コードを活用した診断支援を提供し、治療計画の提案や保険請求の効率化を実現する。また患者と医師の会話をデジタル化し、構造化された記録に変換するAI転写ツールも開発している。2023年8月以降、同ソリューションは400以上の医療機関で導入されており、インドネシア保健省の後援も獲得。さらに、通信情報技術省およびガジャマダ大学とのパートナーシップも確立した。今回の資金調達により、Nexmedisはインドネシア全土における医療業務の効率化と患者の治療成果向上を加速させる予定。

 

 

 

 

イントラリンクについて

イントラリンクは、日本大手企業のグローバル事業開発、成長企業の国際事業展開、政府機関の貿易振興と投資誘致を専門とした事業開発コンサルティング会社です。1990年に設立され、英国オックスフォード本社や東京オフィスをはじめ、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ヘルシンキ、ポズナン、テルアビブ、上海、ソウル、台北、シンガポール、シリコンバレー、LA、ボストン、ワシントンD.C.、トロントを含む世界20ヶ所以上に拠点を構えています。

We use cookies to give you the best experience of using this website. By continuing to use this site, you accept our use of cookies. Please read our Cookie Policy for more information.