『VivaTech開催、マクロン仏大統領がAI推進の意向を表明』、『アイスランドのDTE、LP-LIBSで金属生産分野に「革命」を』、『日・ルーマニアイノベーションフォーラム開催』、『コネクテッドTV向け広告配信技術のMadhive、3億ドル調達』、『Tomorrow.io、世界初の商業用気象レーダー衛星で資金調達』、『Rose Rocket、シリーズB資金3,800万ドルを調達』、『Zero-Error Systems、放射線硬化型半導体集積回路で資金調達』、『Pilon、ファクタリングのデジタル化で資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第37回」をお届けします。

VivaTech開催、マクロン仏大統領がAI推進の意向を表明
先週パリで開催された欧州最大規模のテックカンファレンスVivaTechnologyにて、マクロン仏大統領は、フランスにおけるAI開発支援のため、大型資金を拠出する計画を明らかにした。これには、5~10のAIクラスター発足に向けた5億ユーロ、ジェネレーティブAIへの投資を誘致するための4,000万ユーロ、スーパーコンピューターの能力を加速させるための2つの国家補助金(5,000万ユーロと5億ユーロ)の支援が含まれる。この発表は、EUが世界初のAIに関する包括的な法律として、間もなく導入予定のAI規制法案の立法プロセスが最終段階を迎えたところで行われた形となった。さらにVivaTechの期間中、同大統領は「Tibi 2」も新たに発表した。このプログラムでは、仏国民の貯蓄5,000億ユーロを運用する機関投資家が、そのうち約70億ユーロを実体経済、特にハイテクとイノベーションに再投資することを約束し、その結果として、国内スタートアップやスケールアップへ投資を行うとしている。 
アイスランドのDTE、LP-LIBS技術で金属生産に「革命」を
アイスランドを拠点とするDTEは、金属生産・製造業界向けの意思決定支援プラットフォーム開発のため、シリーズA2ラウンドで1,000万ドルの資金を確保した。組成サンプリングは、金属製造、加工、鋳造において極めて重要なステップである。しかし、これまでは手作業で、ほとんど経験的なプロセスであり、溶融物から固体サンプルを鋳造し、それを実験室で分析する必要があった。そのため、プロセスを能動的かつ予測的に制御するために必要な重要なデータが遅れていた。その上で、DTEは効率性、安全性、持続可能性を最大限に高めるため、高温の液体金属から60秒以内に直接元素分析を行うことができる、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LP-LIBS)センサー技術を開発している。今回の資金調達ラウンドには、アルミニウム業界を代表するNovelisも参加しており、DTEのソリューションに対する産業界の関心の高さがうかがえる。また同社は、この資金で販売パイプラインを拡大し、技術と製品開発の加速を図る。 
日・ルーマニアイノベーションフォーラム開催
6月19日から20日にかけて、ルーマニアの都市クルージュ・ナポカで「日・ルーマニアイノベーションフォーラム」が開催され、両国の官民代表が一堂に会した。ITC、スマートシティ、ブロックチェーン、AR・VR、5Gなどのトピックに焦点を当てた同フォーラムは、科学技術分野での協力を深めるために今年3月に発表された日本とルーマニアの戦略的パートナーシップの一環として開催された。なお、ルーマニアにとって、アジア諸国との戦略的パートナーシップは、韓国とのパートナーシップに次いで2ヶ国目となる。また同フォーラムの主催者の一社であるNTTデータは、クルージュ・ナポカ市役所とともに、4月初めにクルージュIDプロジェクトを立ち上げた。この実証プロジェクトは、デジタル・アイデンティティ・エコシステムの構築、プライバシーを保護する生体認証技術を通じて、同市役所が提供する公共サービスの革新を目的としている。

コネクテッドTV向け広告配信技術のMadhive、3億ドル調達
ニューヨーク発アドテックのMadhiveがGoldman Sachsから3億ドルを調達し、評価額を10億ドル近くまで引き上げた。2022年だけで22%増加したと言われるコネクテッドTV(CTV)の広告費だが、MadhiveはCTV広告技術ソフトウェアをローカル及び全国区のテレビ局などのクライアント企業にライセンス供与し、リアルタイムのプログラマティック入札で広告枠を販売するプラットフォームを提供している。このプラットフォームには自動コンテンツ認識や郵便番号に基づくジオロケーションデータなどの視聴者情報が含まれる。広告主は、自社で入手した顧客データと、個人が利用する全てのデバイスを結びつける地図の役割を果たすMadhiveのデバイスグラフを照合して、ハイパーローカルオーディエンスを作成し、ターゲティングすることができる。Madhiveの年間売上は1億ドル以上で、リテール企業やdirect-to-consumer(DTC)ビジネスを今後のターゲットとしている。 
Tomorrow.io、世界初の商業用気象レーダー衛星で資金調達
ボストン発、SaaSプラットフォームでリアルタイムの天気予報を提供するTomorrow.ioが、Activate Capital主導のもと、RTX Ventures、Seraphim Space、Chemonicsに加え、既存投資家のJetBlue Venturesなども参加したシリーズEラウンドで、8,700万ドルを調達した。気象レーダー衛星は、NASA、日本の宇宙機関JAXA、欧州宇宙機関によって開発された、ほんの一握りのものしか飛行していないのが現状だが、初の商業向け衛星としてTomorrow.ioは、4月に最初のレーダー衛星R-1、今月SpaceX Transporter-8のライドシェア便で2番目の衛星R-2を打ち上げ、まもなくレーダーデータの共有を開始する。2024年には、赤外線より波長の長いマイクロ波帯域の電波を検知し、対象物から放射される電磁波を観測するマイクロ波サウンダを搭載した衛星も打ち上げられる予定で、気象データに加え、海面風や海面高度などの詳細情報も提供するという。 
Rose Rocket、シリーズB資金3,800万ドルを調達
トロントを拠点に、トラック運送会社や3PL(サードパーティロジスティクス)向けに輸送管理ソフトウェア(TMS)を提供するRose Rocketは、Scale Venture Partnersが主導し、Addition Capitalなどが参加したシリーズBラウンドで、3,800万ドルを調達した。運送業界は、ブローカー、第三者物流業者、長距離輸送業者、ラストマイル配送業者など、それぞれのサブセグメントに対応した、時代遅れのソフトウェアベンダーによるパッチワークによって支えられており、クラウドソフトウェアの最後のフロンティアの一つと言われている。Rose Rocketのネットワーク駆動型TMSは、業界初の試みとなる汎用的なロジスティクスシステムを構築。トラック運送会社がドライバー、顧客、パートナーのネットワークを活用し、注文入力の自動化、見積り送信、ドライバーの派遣と追跡、デジタル文書の即時共有することが可能だ。顧客数はここ数年で倍以上、貨物追跡のためのネットワークに接続する企業数は47倍の27,000社以上に増え、同社のTMSは運送業界の記録的なシステムとなると予想されている。

Zero-Error Systems、放射線硬化型半導体集積回路で資金調達
シンガポールを拠点とするZero-Error Systemsは、Airbus VenturesやDart Family Officeなどの投資家から750万ドルのシリーズA資金を確保し、これまでの調達総額を約1,000万ドルとした。現在、多くの企業が、低コスト要件を満たすために、商用オフザシェルフ(COTS)の半導体デバイスで衛星エレクトロニクス・システムを構築している。しかし、同社によると、COTSチップデバイスは放射線性能を満たすことができず、宇宙空間でのシステム障害やデータ破損を引き起こす可能性があるという。この問題に対処するため、Zero-Error Systemsは、宇宙及びエネルギー管理向けに、特許取得済みの放射線硬化型半導体集積回路技術を開発した。放射線硬化型エレクトロニクス市場は、2021年からの年平均成長率が7.5%を超え、2030年にはその市場規模が約45億ドルに達すると推定される中、今回の調達資金は、シンガポールにおける同社の研究開発に加え、グローバル顧客やチームの拡大に活用される予定だ。 
Pilon、ファクタリングのデジタル化で資金調達
クラウドベースのサプライチェーンファイナンスシステムを提供するシンガポール本社のフィンテック企業Pilonは、成長計画の加速とフィリピン市場での展開を強化すべく、フィリピンのKaya Foundersからトップアップラウンドの確保に成功した。2020年に設立されたPilonは、ファクタリングのデジタル化を希望する東南アジア地域の銀行や金融機関と連携している。同社のプラットフォームを通じ、サプライヤーは支払うべき代金に即座にアクセスできる一方、バイヤーは残高を返済するための猶予を確保できるようになる。また取引の自動化から請求書の追跡まで、Pilonはバイヤーとサプライヤー双方が戦略的なキャッシュフローを獲得し、テクノロジーを通じた業務の改善を実現する。今回の追加資金は、Pilonの成長目標のサポートと、フィリピンでの事業改善に活用される。これにより同社はソリューションを拡大し、地元企業によるキャッシュフロー改善を支援できるようになるという。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。