『三菱商事、欧州グリーン水素事業拡大に向け新会社設立』、『急成長中のヴィリニュス、欧州最大級のテックキャンパス設立へ』、『クライメートテックの1KOMMA5°、設立から2年弱でユニコーンに』、『KoBold Metals、AIによる金属採掘技術でユニコーン入り』、『プライマリケアネットワークのAledade、2.6億ドル調達』、『アルツハイマー治療に前進もたらすか、AltPepが5,290万ドル調達』、『バイオエネルギーのApeiron Bioenergy、3,700万ドル調達』、『ショッピング体験向上に向け、Utuが資金調達及び企業買収』を取り上げた「イノベーションインサイト:第38回」をお届けします。

三菱商事、欧州グリーン水素事業拡大に向け新会社設立
三菱商事は、同社が2020年に買収した蘭総合エネルギー事業会社のEnecoとともに、欧州におけるグリーン水素と再生可能エネルギーの開発に特化した新会社「Eneco Diamond Hydrogen」を設立した。三菱商事は、中期経営戦略2024においてエネルギートランスフォーメーションに焦点を置き、持続可能な燃料として、さらに電力系統への供給調整手段として、グリーン水素の重要性を認識している。またこの新規事業は、2030年までにEUで再生可能水素を1,000万トン生産し、1,000万トン輸入するというEUの戦略にも合致している。現在水素への関心は欧州域外でも高まっていることから、三菱商事はEneco Diamond Hydrogenを通じて得たノウハウを、他地域での水素事業の展開に活用する予定だ。 
急成長中のヴィリニュス、欧州最大級のテックキャンパス設立へ
2017年から2022年の間、リトアニアのデジタル経済は毎年16.8倍に成長し、エコシステムの評価額も現在95億ユーロを超えている。また首都ヴィリニュスを拠点とするスタートアップの総数は740社にのぼり、同都市エコシステムに従事する人材も約1万7,000人に達している。なお、この数値は今後3年間で倍増する見込みだ。そんな中、Tech Zityが、ヴィリニュス中心部に欧州最大のテックキャンパスを建設するという1億ユーロの新プロジェクトを発表した。2024年後半の完成時には、プライベートスペース、コワーキングスペース、共同生活スペース、イベント会場、会議室、多数のレストラン、カフェ、バーを備えたキャンパスに、5,000人のデジタル・エコシステムに従事する人材を収容する予定だ。年中無休で運営されるこのキャンパスは、カスタムメイドのワークプレイス・キャンパスとしてだけでなく、夜間のハブとして、また文化的・教育的な場として活用される想定だ。 
クライメートテックの1KOMMA5°、設立から2年弱でユニコーンに
ハンブルクを拠点とするクライメートテックの1KOMMA5°が、欧州エコシステムにおける最新のユニコーン入りを果たした。同社は、最新のシリーズBラウンドで4億3,000万ユーロを調達したばかりで、2021年の設立からわずか23ヶ月で10億ユーロの評価額に達したことになる。1KOMMA5°が開発する独自のIoTシステム「Heartbeat」は、太陽光発電システムを蓄電池やヒートポンプと接続することで、消費電力をスマートに最適化し、消費者の省エネと電気料金削減を実現する。同社はこれにより、欧州における太陽光、蓄電、充電インフラに関する販売、設置、サービスのワンストップショップとして機能することを目指す。今回の調達資金により、今後は住宅所有者のエネルギー需要の最適化を支援するエネルギー管理技術の垂直統合をさらに促進しながら、今年末までにスペイン、イタリア、オーストリア、スイスなど国外市場への拡大を図るという。

KoBold Metals、AIによる金属採掘技術でユニコーン入り
昨年2月、Apollo Projects、カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)などからシリーズB資金1億9,250万ドルの投資を受けたバークレー拠点の採掘会社KoBold Metals が、新たにAndreessen Horowitz、ビル・ゲイツとジェフ・ベゾス支援のBreakthrough Energy Ventures、三菱商事を含む多くの投資家から1億9,500万ドルの出資を受け、評価額11億5,000万ドルでユニコーンステータスを獲得した。KoBoldはAIを活用し、電気自動車を含む様々な分野のバッテリー製造に使われるコバルト、銅、ニッケル、リチウムなどの貴重な金属を採掘する。地球の地層に関するデータベースを構築し、アルゴリズムを使って世界中の鉱脈のありかを予測。現在、北米、アフリカ、オーストラリアで60の探査プロジェクトが進行中だという。なお、同社はザンビアでの銅埋蔵量の開発に新たな資金を充てる予定だ。新たな鉱床を発見できる成功率が低下している中、KoBoldのような技術的ブレークスルーが鉱物の発見と採掘に大きく貢献することを期待したい。 
プライマリケアネットワークのAledade、2.6億ドル調達
プライマリケア診療所の全国ネットワークであるAledadeは、Lightspeed Venture Partners主導、Fidelity Management and Research Companyなどが参加した最新ラウンドで、2億6,000万ドルを調達した。メリーランド拠点の同社は、独立したクリニックや医療センターが、医療従事者目線での評価でなく、患者にとっての価値基準を重視するという考え方であるバリューベース・ヘルスケアに取り組むことを支援する公益法人。米国内1,500の診療所と提携し、200万人以上の患者をカバーする150以上のバリューベース契約を結んでいる。また、高齢者向けの公的ヘルスケアサービス制度に基づいたプログラムや契約を通じて、100万人以上の患者を支援している。今回の資金調達により、Aledadeはプライマリケアネットワークを一層拡大し、国や地域の医療保険制度との戦略的提携を強化する計画だ。 
アルツハイマー治療に前進もたらすか、AltPepが5,290万ドル調達
シアトル拠点、アルツハイマー病とパーキンソン病の検査と治療法を開発するAltPepが、シリーズBラウンドで5,290万ドルを調達した。Senator Investment Groupが主導したこのラウンドには、既存投資家の Alexandria Venture Investments などを含め、 Section 32、 Partners Investment、イーライリリーなどが新たに参加した。同社は、症状が現れる何年も前にアルツハイマー病患者の脳に蓄積する分子トリガーである「有毒」可溶性オリゴマー、アミロイドβに加え、パーキンソン病関連タンパク質もターゲットとしている。AltPepは、アルツハイマー病に対して開発している同社の化合物が、マウスによる前臨床試験において、毒性オリゴマー関連認知障害に改善をもたらしたため、2024年には臨床試験に入ると想定している。今回の最新調達資金は、実験的治療法を臨床試験へと推進し、アルツハイマー病を初期段階で検出する血液検査の薬事申請に活用される予定だ。

バイオエネルギーのApeiron Bioenergy、約3,700万ドル調達
シンガポールを拠点とするApeiron Bioenergyが、アジア開発銀行の信託基金であるCredit Guarantee and Investment Facilityが保証する5年物の無担保シニア・グリーンボンドにより、約3,700万ドルを調達した。2007年設立のApeironは、原料から最終製品、副産物まで、総合的なバイオエネルギー製品を扱うグローバル企業。同社は既に、10ヶ国で精製所と集積所を運営している。今回調達した資金は、フィリピン、タイ、ベトナムにおける使用済み食用油(UCO)などの廃棄物系原料の回収拠点、前処理施設の設備投資や資産改善に充てられる。Apeironの主要製品の1つであるUCOは、バイオ燃料生産用の最もクリーンな廃棄物系原料の1つとして知られ、温室効果ガス排出を最も節約できる。また、UCOは、持続可能な航空燃料(SaF)のような再生可能バイオディーゼル製品の主要原料でもある。SaF市場は今後10年間において、年平均成長率42%の成長が予想されているが、原料の確保が大きな課題となっている。 
ショッピング体験向上に向け、Utuが資金調達及び企業買収
シンガポールを拠点とするトラベルテック企業のUtuは、SC Ventures主導のシリーズBラウンドで3,300万ドルの調達に成功した。今回の調達はUtuの成長と拡大計画を後押しするもので、ローカルなキャンペーン情報を専門とするシンガポール発のフィンテック企業CardsPalの買収も含む。Utuは、観光客向けに付加価値税(VAT)の還付を簡易化し、ショッピング体験を向上することで、免税ショッピング業界の革新を目指している。同社のTax-Free Cardで免税ショッピングを楽しんだ後、ユーザーは従来のVAT還付に代わり、マイレージやホテルポイント、または海外で支払ったVAT・GSTの120%に相当する店舗クーポンの受取りから好きなものを選べるという。CardsPalの買収により、Utuはデジタルマーケットプレイス、プロモーションエンジン、またセルフサービスの加盟店登録ポータルへのアクセスも獲得したことになる。今回の動きは、Utuのフランスやイタリア市場への拡大を加速させ、VATやGSTの払い戻しを提供する約50ヶ国への扉を開くものとなる。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。