『欧州委、水素プロジェクトに14億ユーロの補助金承認』、『CIRCTEC、欧州最大のタイヤ熱分解リサイクル施設へ1.5億ユーロ調達』、『バルト三国・ディープテック・レポート - 2024』、『Scale AIが10億ドル調達、評価額140億ドルに』、『AltruBio、免疫疾患向け新薬開発のため2.2億ドルを調達』、『米国のシリーズA資金調達、大半はヘルス・バイオ分野へ』、『シンガポールの倉庫オートメーション企業XSQUARE、780万ドル調達』、『インドネシアのCarbonEthics、シンガポールと東京での炭素取引を視野に』を取り上げた「イノベーションインサイト:第85回」をお届けします。
欧州委員会は、欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)のうち、水素関連で4つ目となるプロジェクト「Hy2Move」に対して最大14億ユーロの国家補助金を承認した。このプロジェクトの一環として、11社が、生産、貯蔵、燃料電池、モビリティ用途など、水素サプライチェーンのさまざまな分野で13の革新的プロジェクトを実施する。このプロジェクトには、Airbus、BMW、Michelinといった有名企業のほか、スロバキアの軽航空機メーカー Tomark、エストニアのエネルギー貯蔵企業Skeletonといった中小企業やスタートアップが参加している。公的資金のほか、さらに33億ユーロの民間投資が見込まれており、2040年までにモビリティー・流通産業からの排出量を90%削減するというEUの目標への貢献が期待される。なお、このプロジェクトは、Hy2Tech (2022)、Hy2Use (2022))、およびHy2Infra (2024)の3つのIPCEIプロジェクトを補完するものである。
英国を拠点とするリサイクルスタートアップCIRCTECは、オランダに欧州最大の使用済みタイヤ熱分解リサイクルセンター建設のため、1億5,000万ユーロを調達したと発表した。今回の資金調達には、7,500万ユーロの株式投資と、オランダ政府からの2,250万ユーロの補助金が含まれる。現在、廃棄されたタイヤは重大な環境・健康リスクを引き起こしており、既存のリサイクル技術による努力の範囲を超え、EVの普及に伴い一層深刻化している。こうした中、CIRCTECは、熱分解によって古いタイヤを分解し、再生化学物質と再生可能燃料を生産する技術を開発した。CIRCTECは欧州5カ国で活動しており、既に2つの製造工場を持ち、現在3つ目の工場を建設中である。オランダの新工場は、フル稼働時には、欧州で年間360万トン発生する廃タイヤのうち、約5%を処理することができる見込みである。
Dealroomのレポートによると、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)のスタートアップエコシステムは、2023年に7億600万ユーロ、2024年には累計3億1,000万ユーロを調達しており、2024年の資金調達の半分以上がディープテック系スタートアップに流れている。今年の具体例としては、ロボット配送スタートアップのStarshipが1月に7,700万ユーロ、グリーン水素スタートアップのElcogenが4月に3,100万ユーロ、さらにStargate Hydrogenが5月に4,200万ユーロのシード資金を調達している。全体として、バルト三国はディープテックとAIスタートアップの盛んなエコシステムとして際立つ。AIスタートアップは100社以上、ディープテックスタートアップは260社以上存在し、その総企業価値は約13.6億ユーロに達し、バルト三国エコシステム全体の68億ユーロの20%を占めている。これらの数字は、バルト三国のスタートアップ・エコシステムの魅力を如実に示しているといえよう。
サンフランシスコを拠点とするScale AIは、最新の資金調達ラウンドで10億ドルを調達した。今回の資金調達は、大手テック企業が最新のチップや機械学習技術へのアクセスを求めることによる最近のAIメガディールに続くもので、本ラウンドには、Nvidia、Meta、Amazonを含む大手企業からの投資も含まれている。Scale AIは2016年に設立され、生成AIツールのトレーニングに必要なデータ・ラベリング技術を提供している。現在の顧客には、Microsoft、OpenAI、Morgan Stanleyなどが含まれ、大規模で正確なデータセットの作成と改良に同社のサービスを利用している。今回Scale AIが達成した評価額140億ドルは、同社が2021年に3億2,500万ドルのシリーズEラウンドを実施した際の73億ドルの2倍に相当する。同社は今回の資金調達で、企業顧客とのデータ機能の構築や、米国防総省との協業を進める。
AltruBioは、資金調達ラウンドシリーズBで2億2,500万ドルを調達した。本ラウンドはBVF Partnersが主導し、RA Capital Management、Cormorant Asset Management、Soleus Capitalからの新たな投資と、前回のリード投資家であるaMoon Fundからのさらなる投資が行われた。サンフランシスコを拠点とするAltruBioは2020年に設立され、以前はがん治療に注力していたが、現在は免疫疾患に対する革新的な治療薬を開発している。今回の資金調達ラウンドは、主に潰瘍性大腸炎をターゲットとして現在開発中の新薬候補の中間段階プログラムの実行に使用される。同社によると、この新薬のメカニズムは他の疾患にも応用できる可能性があり、さらに幅広い研究開発プログラムを計画しているという。
Crunchbaseによると、2024年現在までの米国におけるシリーズA資金調達ラウンドのうち、調達額全体の半分強(53%)を占めるのはヘルス・バイオ分野のスタートアップ企業であった。同分野では今年これまでに110の資金調達ラウンドがあり、調達額は56億ドルに達した。全体に占める同分野の資金調達の割合がこれほど高いのは、ラウンドの規模によるところが大きい。AIを活用した創薬企業であるXaira Therapeuticsの10億ドル超の案件を含め、今年の大型シリーズAラウンド10件のうち、6件がバイオテクノロジー企業によるものであった。この傾向は後期ラウンドにも見られ、1億ドル以上のベンチャー案件115件のうち38件がバイオベンチャー企業であり、単一業界では最大のシェアを占めている。2024年現在までの資金調達総額は、全セクターでは2022年と2023年を下回っているが、バイオテクノロジーとヘルス分野での減少幅ははるかに小さく、この分野への投資家の強い関心を示している。
シンガポールを拠点とする倉庫オートメーション企業XSQUARE Technologiesは、シリーズA資金調達で1,050万SGD(約780万米ドル)を獲得した。このラウンドはWavemaker Partnersが主導し、SEEDS CapitalとGoldbell Corporationも参加した。調達した資金は、地域内での成長と製品開発に充てる予定である。XSQUAREは2019年に設立され、慢性化する労働力不足とブラウンフィールドおよびグリーンフィールド環境におけるオペレーションの自動化・最適化ニーズに対応するため、自動化ソリューションを提供している。同社の自律型フォークリフトとインテリジェント倉庫オーケストレーター・ソフトウェアは、大規模な再構成を必要とせずに倉庫オペレーションを簡素化し、時間とコストを節約する。XSQUAREは製薬から製造まで多岐にわたる業界向けにサービスを提供しており、最近では世界最大級の物流機器企業である三菱ロジスネクストと提携している。この提携により、無人搬送車(AGV)の新ラインの開発と、三菱ロジスネクストのグローバル流通網を活用した拡販において協業していく。
インドネシアのカーボンオフセットスタートアップ、CarbonEthicsは、独自の海洋・沿岸プロジェクトが世界中の企業からの関心を引くことを期待し、シンガポールや東京などの国際取引市場での製品取引を計画している。2019年に設立されたCarbonEthicsは、マングローブや海草のような沿岸および海洋植物が吸収する「ブルーカーボン」に焦点を当て、2023年時点で、インドネシア東部マルク州のマングローブ林やジャワ島の水田などのプロジェクトを通じて、12.5万トンの二酸化炭素を吸収することに成功している。同社は、2030年までにインドネシアカーボン市場の10%のシェアを獲得することを目指している。インドネシア政府は来年、鉱業業界を対象とする炭素税を導入する予定であり、同セクターからのカーボンオフセットの需要が増加する見込みである。さらに、物流、銀行、石油・ガスなどの他の業界からの既存の需要も増加するだろうと同社は予測している。今後を見据え、同社は1.5億万トン分のカーボンクレジットを生成することを目指している。そのために、2026年から東南アジア諸国でのオフセットプロジェクトを展開する計画である。
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