COVID-19によるパンデミックで、以前にも述べたように世界中のビジネス環境におけるデジタル技術の活用が必須となっています。日本でも徐々にその『新しい通常 (the new normal)』に適応しつつありますが、テレワークにおいてはハンコ文化やセキュリティの問題が障壁になるなど、世界各国と比べて日本の対応は遅れを取っています。そんな中、世界ではどのようにデジタル技術の活用が進んでいるのか、いくつかの例を国ごとに見ていきたいと思います。 まず、パンデミックの影響を最も大きく受けた中国です。同国の迅速な回復には幅広い業界におけるデジタルトランスフォーメーションや、遠隔及び自律技術の急速な採用が大きな役割を果たしてきました。このブログでは、弊社上海オフィスのEmma Hsuが各産業における取り組み事例を挙げながら、中国がどのようにテクノロジーを活用し、この厳しい状況に適応してきたのか、またそこから日本企業は何を学べるのか分析します。
中国のスピーディーな回復
上海では、政府発表のもと5月9日付で「突発的な公衆衛生事件に対する応急対応」が最低レベルの3級に引き下げられたと同時に、1月末から閉園状態であった上海ディズニーランドも、11日からの再開に向けて販売を開始したチケットが一瞬で売り切れるという事態になりました。首都の北京や最も感染が深刻だった武漢など、その他の都市も上海より先に警戒レベルを引き下げており、5月1日の労働節から始まった大型連休には、約9000万人が国内を移動したと言われています。この連休明けで状況がどのように変わるか息を飲んで見守る人もまだ多い中、収容制限や健康状態を確認するQRコードなどのデジタルツールのサポートにより、中国はいま多くのセクターが変革を遂げ、回復の途を辿っています。
加速したデジタルトランスフォーメーション
QRコードを活用した健康アプリなどのテクノロジーは、決して新しいものではありません。今回はアリババグループが運営するQR決済アプリのAlipayと、IT大手のTencentが提供するメッセンジャーアプリWeChatの2つのアプリを活用し、中国政府主導で感染者追跡用QRコードの使用が開始されました。最大限の政府支援がなければ、このような包括的な展開は難しかったでしょう。また物流やリテール、ヘルスケアなどの業界でもCOVID-19に立ち向かうため、中国政府と各ビジネスが既存技術に対する規制緩和、さらにその使用の推奨を迅速に決定しました。 例えばドローンや自動運転車は、人間同士のコンタクトを最小限に抑えるという点で双方が同意したため、過去の企業と規制当局間の争いにも関わらず、いち早く配置されました。また中国物流最大手のSF Expressは、2017年に業界で初めてドローンテスト実施のための許可を中国民用航空局から得たものの、25キロ以上の大規模商業用ドローンの使用には通常の輸送機としての承認を得る必要があり、それには5年の歳月がかかるとされていました。集中的な調査の実施を求める同社に対して中国政府の対応は遅れていましたが、このパンデミックにより、SF Expressは武漢市内で医療物資を運送するためにこのドローンを使用する許可を得ました。別の物流企業であるJD.Com も、医療用品供給のため、ドローンだけでなく、自律走行車まで取り入れました。 遠隔医療などヘルスケアにおけるデジタル化も、このタイミングでの自然な加速が見受けられました。自己隔離と医療への需要が重なり、遠隔医療プラットフォームの使用も増加し、中国最大手のPing’an Good Doctorは、1月から2月中旬にかけて新規登録者が10倍に増えたと言います。COVID-19が生じた状況により、1000社以上の関連企業が増え続ける国内の医療システムの負担を軽減に取り組む中、実際に多くの患者が遠隔医療など新しい習慣の採用を強いられました。 ロボット業界でも、病院やショッピングモールが率先して、消毒や体温をモニターするためのセキュリティロボットの導入に走りました。これらのロボット技術も以前から存在はしていましたが、予算や教育、政策面での懸念から、小規模なパイロットスケールで使用されるのみに限られていましたが、このパンデミックにより状況は急速に変化しました。 伝統的な食品・飲料業界でさえ、ロボットシェフやウェイターの導入など自動化が進んでいます。Panasonicは、火鍋チェーン最大手のHaidilaoと合弁会社を設立し、人件費の削減と効率性向上のためにロボットを活用するスマート火鍋店を2018年にオープンし、今後全世界で5000店に拡大していく予定です。このスマートロボットを使用したレストランは、人同士のコンタクトが減ることで衛生状態が改善するため、Haidilaoは3月頃から営業を再開することができました。
日本よりも先をいく現状
COVID-19の影響から、日本でもデジタルトランスフォーメーションへの適応と新技術の採用が目立つようになっていますが、中国におけるテクノロジーに対する利用者側の受け入れ度合いも日本より高く、その結果、新たなデジタル技術やビジネスモデルがより熟慮され、テストされています。日本では、4月から1万以上の医療機関でオンライン診療ができるようになりましたが、支払い方法や医療記録管理などインフラ面へのサポートが十分でなく、実施をためらう日本人医師が多くいるのも事実です。一方中国では、COVID-19の感染拡大以前に既に3億人の利用者がいたPing’an Good Doctorが、パンデミック中には3月末までに1億以上の診断回数を記録しました。
フレキシビリティとアジリティ
中国において、パンデミックによってテクノロジーを取り巻く状況が急速な成長を見せることができたのは、政府や各ビジネスがフレキシビリティ(柔軟性)とアジリティ(機敏性)を最大限に活用し、刻一刻と変わる状況に応じて的確に素早く行動することができたからではないでしょうか。 冒頭でも述べたように、日本でもその必要性は理解されており、実際にデジタル技術の活用に動き出しているのは事実です。しかし、中国と比べて政府や企業の柔軟性と機敏性がまだ決して十分とは言えません。日本企業は今後の更なるデジタル技術活用に向け、このパンデミックを通じた経験から、中国の取り組みを興味深いテストベッド、さらに近い将来を展望するための水晶玉として活用することで、多くを学ぶことができるのではないでしょうか。 日本企業がどのように中国におけるテクノロジーの進化・成長に関するインサイトを得ることができるか、またデジタルトランスフォーメーションを推進するために中国テック企業とのコラボレーションにご興味がある方は、ぜひイントラリンクinfo@intralink.co.jpまでお声掛けください。 著者について Emma Hsuは、台湾出身、カナダ育ちの中英バイリンガルで、10年間カナダで就労していた経験がある。現在はイントラリンク上海オフィスで、オープンイノベーショングループのプログラムマネージャーとして活躍している。