『PQShield、ポスト量子暗号技術で3,700万ドル調達』、『Synhelion 、世界初の太陽電池燃料製造工場を開設』、『トッパンと東洋製罐、車載用リチウムイオン電池の包装材で欧州に合弁会社設立』、『Princeton NuEnergy、リチウム電池のリサイクルプロセスで3,000万ドルを獲得』、『eコマース帳簿管理のFinaloop、3500万ドル調達』、『宇宙通信技術のCesiumAstro、6,500万ドル調達』、『日系コンサルAyudante、星デジタルマーケティング会社Sparklineを買収』、『Charge+、Porsche Vietnamと提携、ベトナムで1,700kmのEV充電ネットワーク設立へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第89回」をお届けします。
英国のサイバーセキュリティ・スタートアップPQShieldは、ポスト量子暗号(PQC)技術のシリーズB資金調達ラウンドで3,700万ドルを調達したと発表した。 オックスフォード大学からスピンオフとして2018年に設立された同社は、量子コンピューターで解読不可能な暗号化技術を開発し、半導体、防衛、自動車、IoTなどの分野でそのハードウェアとソフトウェアのソリューションを提供している。同社は業界のリーダー的存在となっており、米国政府の国立標準技術研究所(NIST)と共同で、サイバーセキュリティの新たなグローバルサイバーセキュリティ規準となる予定のPQC standardsを策定している。PQShieldの顧客には、住友電気工業、 NTTデータ、Mirise Technologies(トヨタ自動車株式会社と株式会社デンソーの合弁会社)、 AMD、Collins AerospaceおよびLattice Semiconductorなどが含まれる。 今回獲得した資金は、世界的な需要増加に対応するために商業活動の拡大に充てられる。
スイスのスタートアップSynhelion社は、太陽熱を利用した合成燃料を生産する、世界初の工業規模のデモンストレーションプラントを開設した。ドイツに設立されたこのプラントは2024年に生産を開始して以降、年間「数千リットル」の持続可能な燃料を生産し、輸送セクターの脱炭素化に貢献している。同社は2016年にETH Zurichからのスピンオフして2016年に設立され、太陽熱とCO2を利用して持続可能な燃料を生産する技術を開発した。同社の「ソーラー燃料」はカーボンニュートラルであり、製造過程で使用されたCO2と同量のCO2しか排出しない。ドイツの施設では、シンヘリオンが合成原油を生産し、それを従来の石油精製工場に運び、航空用のケロシン(灯油)や道路輸送・船舶用ガソリンやディーゼルに加工できる。さらに、同社は2025年にスペインで初の商業プラントの建設を開始する予定である。会社全体として、10年以内に年間約100万トンのソーラー燃料の生産を目指している。
TOPPANホールディングス株式会社と東洋製罐株式会社は、自動車用リチウムイオン電池の包装材を製造・販売する欧州の合弁会社の設立に関する基本合意書(LOI)を締結した。合弁会社はスウェーデンを拠点とし2025年1月に設立予定、2026年度以降に製造開始予定である。総投資額は約110億円を見込む。トッパンと東洋製罐は、2011年にも合弁会社T&T Enertechnoを設立し、日本でスマートフォンやEV用リチウムイオン電池の外装材を製造していた。しかし、EUが2035年からガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止することを受け、両社は欧州のEV市場に新たなチャンスを見出した。欧州の自動車メーカーは、製造現場の近くてのリチウムイオン電池の生産とパッケージングを必要とする。こうしたサプライチェーン上の効率性確保の観点から、両社はスウェーデンを拠点として選んだ。
ニュージャージー拠点にてリチウムイオン電池リサイクル技術を持つPrinceton NuEnergy (PNE)は、Samsung Venture Investment とHelium-3 Venturesからの戦略的投資を受け、既存の投資家である本田技研を含む3,000万ドルのシリーズA資金調達ラウンドを完了した。同社のリチウムイオン電池のリサイクルプロセスは環境廃棄物と炭素排出の削減率の高さを強みとし、特許取得済みの低温プラズマ支援分離プロセス(LPAS)がこれに貢献しており、リチウムイオン電池の材料を最大95%回収し、エネルギー消費を70%削減可能である。LPASプロセスは、セル製造に直接再導入するのに適したバッテリーグレードの正極および負極材料を生産できるという。PNEへの関心は、米国におけるリチウム電池製造の循環型経済を支援する重要性を物語っており、同社は高品質なクリーンエネルギー領域での雇用を創出しつつ、米国が高性能な電池に対し高まる期待と需要へ応えていく意向だ。
eコマースの「小規模」ビジネス向けに会計ソフトを提供するFinaloopは、強力な成長を背景にシリーズAラウンドで3,500万ドルを調達した。 eコマースはここ数年で急成長を遂げ、今年は全世界で売上高6兆ドルを突破すると予測されている。これは消費者の購買習慣の進化とスマートフォンやその他スクリーンの普及に後押しされた結果であるものの、その裏側では、小売業者にとって運営業務の効率化の課題は大きい。同社CEOが当商品を開発したきっかけは、時間のかかる多くの業務が、そもそも各創業者にとってEコマース事業周りのスキルセットや関心領域とはかけ離れたものであることに気づいたことであった。 Finaloopのソリューションは、3つの異なる機能を1つに統合し、すべての取引を記録するビジネス台帳、これらの取引を項目別に整理する簿記作業、そして将来必要となるものを予測する在庫スプレッドシートをバックグラウンドで自動化するプラットフォーム である。
オースティン発、フェーズドアレイ通信を使ったペイロード(通信データ本体の伝送)を専門とするCesiumAstroは、Trousdale Venturesが主導し、日本政策投資銀行やQuanta Computerなどの投資家も参加したシリーズB+ラウンドで6,500万ドルを調達した。CesiumAstroは、商業および政府顧客向けに宇宙通信技術を構築している。特に軍事分野では、ドローン、航空機、衛星など、中央司令部から戦闘員へ転送しなければならないデータ量の増加により、需要が増加している。さらにAIの普及により莫大な量のデータ通信の需要も高まっている。例えば自律走行は、カメラやセンサーから1日あたり1テラバイトのデータを生成することが多く、通信技術の革新が求められている。衛星用フェーズドアレイアンテナの供給で知られている同社は、インフライトにおけるコネクション市場も昨年に参入したばかりだ。この市場向けアンテナ商品は、2023年12月にバージニア州拠点の防衛請負会社CACIインターナショナルに向け、光通信およびナビゲーションペイロードの一部として飛行した。
デジタルマーケティングのコンサルティングサービスを提供するアユダンテ株式会社(千代田区麹町)は、シンガポールのデジタルマーケティング会社であるSparklineを買収し、完全子会社化した。これは東南アジアのテックエコシステムに対する多国籍企業の関心の高まりを示している。Sparklineはフィリピンの企業がGoogleマーケティングプラットフォーム(GMP)の認定サービスにアクセスできるように計画中であり、これはフィリピン政府のデジタル変革と先進技術の導入推進に伴う需要増加に応えるものだ。GMP事業のほか、両社は多言語による検索エンジン最適化(SEO)とデジタルマーケティング分野のデータ開発を強化する予定である。この買収は日本企業による地域買収の成功例を示し、地域企業が国際的な買い手にエグジットする能力への信頼を高めるものである。
シンガポールを拠点とする電気自動車(EV)充電ソリューションプロバイダーのCharge+は、独ポルシェと提携し、ベトナムの2大都市ハノイとホーチミンを結ぶ全長1,700kmのEV充電ネットワークを展開する。この取組みでは、今後3年間でベトナム全土に17カ所の直流(DC)超高速充電サイトを設置する予定だ。最初の9カ所は、ハノイ、ホーチミン市、ハイフォン、ダナンなどの主要都市に設置され、最大180キロワット(kW)の充電速度を提供し、2025年上半期までに稼働を開始する予定である。残りの8カ所は、2027年上半期までに完成する予定である。現在、東南アジア全体で2,000以上のEV充電ポイントを持つCharge+は、シンガポール最大のEV充電事業者であり、同地域における重要なプレーヤーである。同社は、2030年までに30,000カ所の充電ポイントを運営することを目指す。シンガポールを足がかりに、Charge+はマレーシア、タイ、ベトナム、インドネシアおよびカンボジアでも事業を展開している。
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