『英国政府、98件のAIプロジェクトに3,200万ポンド投資』、『蘭VSParticle、グリーン水素生産技術で650万ユーロ調達』、『イタリア、テクノロジー分野で順位を上昇』、『6億4,000万ドル調達のGroq、AI向けプロセッサーでNvidiaに挑む』、『アグリテックのAgrovision、1億ドルを調達』、『AI向けサイバーセキュリティのProtect AI、6,000万ドル調達』、『独Infineon、マレーシアに世界最大のSiCパワー半導体工場を開設』、『米Enovix、マレーシアに12億ドルの大規模バッテリー製造施設を新設』を取り上げた「イノベーションインサイト:第96回」をお届けします。
英国政府は、国内の98件のAIプロジェクトに対して総額3,200万ポンドの投資を行うと発表した。これにより、200以上の企業や研究機関が、建設現場の安全性向上、鉄道の修理時間短縮、サプライチェーン全体の排出削減など、AIを活用した様々な開発プロジェクトを進めるための資金を獲得することになる。参加する企業には、建設業界における技能訓練とリスク評価をサポートするV-Lab、医薬品の処方箋の配送改善に取り組むAnteam、また鉄道インフラを管理するシステム開発のHack Partners、そして倉庫や貯蔵施設の効率性向上を目指すRobok Limitedなどが含まれる。これらのプロジェクトは、英国の多様な高成長産業分野におけるAIの革新と経済成長を促進することが期待されている。
オランダのスタートアップのVSParticle(VSP)は、欧州および日本のVCであるNordicNinjaが主導したシリーズAの追加ラウンドで650万ユーロを調達した。2015年設立のVSPは、ナノ粒子の合成および堆積ツールを提供しており、従来よりもはるかに速いスピードでの新材料の実験や開発を可能とする。通常、ラボから量産までの材料発見には最大10年かかるが、VSPの技術を使用することでこの期間をわずか1年に短縮できるようになる。これにより、電解槽の製造に不可欠な触媒被覆多孔質輸送層(PTL)の量産が可能となり、グリーン水素の生産に役立つ。今回の資金調達を通じて、現行の100倍の出力を持つシステム構築を進め、同社の材料を使用して開発された最初の製品を2027年までに上市する計画だ。米国および欧州での事業拡大を目指すとともに、グリーン水素開発の需要を見据えて日本市場への進出も視野に入れている。
Groqは高性能なAIや機械学習向けのプロセッサー(LPU: Tensor Processing Unitの一種)を開発しており、Blackrock主導の資金調達ラウンドで6億4,000万ドルを調達した。これには、Cisco、KDDI、Samsung Catalyst Fundなどの投資家も参加した。同社のプロセッサーは、高速で効率的な計算能力を提供しており、既存の生成AIモデル(ChatGPTやGPT-4oと同様のアーキテクチャを持つもの)を10倍の速度で、かつ消費エネルギーを10分の1にして実行できるという。データセンターやクラウド環境向けも製品も提供しており、これによって顧客は、MetaのLlama 3.1やGoogleの Gemmaなどのようなモデルを、クラウド上で利用可能なAPIを通じて簡単に活用することができる。生成AIブームが続く中、他のAIチップスタートアップや、同市場の約70%〜95%を占めるNvidiaとの競争が激化している。
ロサンゼルス発のアグリテックであるAgrovisionは、Aliment Capital主導の資金調達ラウンドで1億ドルを調達した。同社は高級ベリーなどのスーパーフルーツを専門とし、最新の遺伝子技術やデータ分析を駆使して生産から販売までを行っている。米国ではWalmart、Whole Foods、Trader Joe'sなどの大手小売業者を通じて販売されており、さらに英国、アジア、中東市場にも展開している。同社は、AI技術と生産能力への投資を優先しており、特にパッケージングの自動化、最適な収穫時期の予測、鮮度を長持ちさせる技術の開発などに注力している。また、気候変動に強い栽培地とベリー品種の多様化により、商品の品質と供給安定性の向上を図る。Technavioのデータによると、世界のブルーベリー市場は2027年までに24億6,000万ドル規模になると予想されている。
Protect AIは、、Evolution Equity Partnersが主導し、SamsungやSalesforce Venturesなどが参加したシリーズB資金ラウンドで6,000万ドルを調達した。同社は、AIやML(機械学習)システムに特化したサイバーセキュリティプラットフォームを企業向けに提供している。同社のAIセキュリティポスチャーマネジメント(AI-SPM)プラットフォームは、伝統的なMLモデル、LLM、AIアプリケーションなどを包括的に管理できるソリューションであり、国家安全保障機関や数多くのFortune 500企業を顧客に持つ。
ドイツの大手半導体メーカーInfineon Technologies AGは先日、マレーシアのクリムに世界最大のシリコンカーバイド(SiC)パワー半導体工場を開設した。設立にあたっての投資額は合計88億3,000万ドルにも上り、脱炭素化とデジタル化推進のためにあらゆる先進的な技術を登用している。世界の半導体サプライチェーンにおける重要な拠点として注目を浴びており、半導体セクターを強化したいマレーシアにとっては、国家半導体戦略の実現に大きく貢献し、さらなる多額の投資の促進に繋がることが期待される。
リチウムイオン電池を開発・製造するEnovix Corporationは、マレーシアに初の大規模製造施設(Fab2)を開設し、今後15年間で12億ドルを投資する計画を発表した。同社は、マレーシアの技術的な人材と有利なビジネス環境を活用しつつ、IoT・モバイルデバイス・車両向けバッテリー技術の強化を行っていく。Fab2の開設は、マレーシア経済とイノベーションの促進を目指した「New Industrial Master Plan 2030」という国家戦略に沿ったものであり、同国にとって重要なマイルストーンとなる。この投資により、高付加価値の雇用創出を促し、マレーシアが最先端技術のグローバルハブとしての地位をさらに強化することが期待されている。
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