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欧州イノベーションハブをめぐる:第8回 世界をリードする電子国家のデジタルハブ、タリン

欧州イノベーションハブをめぐる:第8回 世界をリードする電子国家のデジタルハブ、タリン

シリーズ8回目は、デジタルインフラが整備された電子国家として知られるエストニアの首都、タリンを特集します。公共部門のイノベーションをベースに、企業に好ましいビジネス環境が整っている上、小規模都市だからこその緊密なコミュニティにより、タリンのエコシステムは急成長を続け、日本企業の進出も目立つようになってきました。 今回は、弊社のイノベーションネットワークパートナーであるTera Ventures 、Cleantech ForEst、Karma Venturesなどを取り上げるとともに、政府の支援を受けるStartup Estoniaにその強みと魅力について伺いました。

デジタルアプローチとともに進化するタリン

タリンは、バルト海東部のフィンランド湾に面した湾岸都市として、長い間栄えてきました。1991年の旧ソビエト連邦からの独立以降は、エストニアが国家として経済近代化のために一連の改革に着手し、当時からデジタルアプローチを採用してきた結果、今ではデジタル技術を活用した電子国家の世界的リーダーとなり、タリンもその強みを最大限に活かしながら、国家GDPの半分以上を占める急成長中のテックハブとなっています。

優れた国内外人材の活用と活発な公共部門のイノベーション

そのデジタルアプローチの推進により、エストニアには企業にとって好ましいビジネス環境が整っています。完全にデジタル化されたビジネスインフラにより、会社の設立、税務申告、銀行取引など公共サービスの99%がオンラインで、いつでもどこでも利用できるようになっています。これには、公共部門のイノベーション追求が重要な役割を果たしており、2002年に導入された電子身分証明書をはじめ、国家規模のAPIで公的機関間、および民間部門との安全で追跡可能なデータ共有とビジネスプロセスの最適化を図るX-Roadなどが活用されています。 また世界的に有名な初の電子国民制度(e-Residency)は、デジタルIDと電子サービスへのアクセスを付与することで、エストニアに身を置くことなく国際的なEUベースの企業を簡単に設立・運営する自由を提供しており、既に世界167ヵ国から5万人以上がこの制度を利用しています。一方、2017年に開始したスタートアップビザプログラムにより、現在までに2500人以上がエストニアへ移住するなど、現地でのEU圏外の優れた人材の採用、また彼らによる国内起業も促進してきました。 さらにエストニアは国際的な教育ベンチマークでも上位にランクインしています。OECD(経済協力開発機構)が義務教育終了段階の15歳の生徒を対象に実施した「生徒の学習到達度調査2018(PISA)」では、主要3カテゴリーのうち、読解力と科学的リテラシーの2分野でOECD加盟国中トップとなり(数学的リテラシーでも3位)、デジタル社会に適したハイレベルな教育と人材育成により、質の高いローカル人材へのアクセスを実現しています。

ローカルスペシャリストが語る魅力と強み

Startup Estoniaは、国内エコシステムを強化し、現地スタートアップの成功の後押しを目的とした政府主導のイニシアチブであり、企業、インキュベーター、アクセラレーター、民間および公共部門などと提携し、その実現に取り組んでいます。国内スタートアップに関するデータベースも発表しているStartup Estoniaは、ローカルスペシャリストとして、タリンを中心とするエストニアエコシステムの強みについて以下のように述べています。

「エストニアのスタートアップセクターは、多くの雇用と投資を呼び込みながらグローバルで革新的な企業を輩出し続けており、近年は前年比30%増という勢いで毎年成長しています。イノベーションは、B2Bソフトウェアからサイバーテクノロジーまで幅広いセクターにわたり、その勢いはCOVID-19の影響でも劣ることはなく、多くの企業が新しいビジネスモデルとともに世界的な状況に適応しています。 昨年、エストニア企業は4.4億ユーロの資金調達額、76件の投資取引、7件の買収など記録的な数字を達成し、世界的な関心の高さが明確になりました。またSkype、Transferwise、Bolt、Playtech、2020年に新たに加わったPipedriveの5社がエストニア発のユニコーンとなっています。」(Playtechを除く4社はタリン発)

実際、2018年にスタートアップに最もフレンドリーな国に選ばれたこともあるエストニアは、100万人当たりのスタートアップ数が欧州平均の4.6倍となる欧州一(865社)で、2013年以降のVC投資総額もCEE地域でトップとなる13億ドルに上ります。タリンへの昨年のVC投資は2.4億ドルですが、海外からの出資を多く受けており、配達ロボットのStarship Technologiesなどがネクストユニコーンの座を求めて拡大を続けています。 またStartup Estoniaは日本企業への魅力についても、以下の点を強調しています。

「このレベルの成長とイノベーションは、日本企業にも有益な潜在的コラボレーションをもたらすことができるでしょう。さらに特にニッチな領域で事業を行う企業にとっては国内市場が小さすぎるため、エストニアのスタートアップは初めからグローバルに目を向け、世界的な問題を解決できる製品やサービスを提供しています。つまり、国内市場が小さいと言うデメリットを利点に変えた結果、海外企業との提携にも非常に積極的になっています。」

日本企業・投資家によるタリン企業への出資事例

日系企業によるエストニア企業への投資案件は、2020年までに16件にのぼり、2015年の楽天による言語学習プラットフォームのLingvistへの投資などを皮切りに、タリン企業への出資もよく見かけるようになりました。近年の代表的な事例としては、三井物産とTransferwise (2017年)、TDK VenturesとStarship Technologies(2019年)、伊藤忠とTera Ventures(2020年)などに加え、弊社がアジア市場進出を支援した経緯もあるウルトラキャパシタのSkeleton technologiesと感情認識AIのRealeyesも、それぞれ丸紅とNTT Docomo  Venturesから2021年と2019年に投資を受けています。さらに、複数の日本企業が既に出資する日本発のVCファンドで、北欧・バルト地域におけるAI、ブロックチェーン、ビッグデータ解析などの先端技術を活用したモビリティ・ヘルスケア企業などに投資するNordic Ninjaも、オンラインID認証プラットフォームのVeriffや、eスクーターも含んだ配車サービスのBoltに出資しています。

タリンで活躍する投資組織と教育機関

タリンのベンチャーキャピタルには、SaaS、リテールテック、デジタルマーケティング、フィンテックなどの領域で、北欧・バルト3国の地場に根差したアーリーステージ企業へ出資するTera Venturesや欧州のディープテック企業に焦点を置くKarma Ventures、さらにUnited AngelsやTrind VCなどが名を連ねています。 アクセラレーターでは、クリエイティブ産業向けの技術とハードウェア(VR、AR、3D)開発企業を支援するStorytekやバルト3国全体で活動するStartup Wise Guysに加え、クリーンテックを中心としたグリーンイノベーションを追求するCleantech ForEstが、EUの支援を受けるEIT Climate-KICの主要パートナーとしてプログラムを運営し、50社以上を支援してきました。一方、200社以上を抱えるバルト地域最大のサイエンスパークTallinn Science Park Tehnopol内でスマートシティ、グリーンテック、ヘルステックを中心とした250社以上にプログラム支援を行ってきたTehnopol Startup Incubatorや、2年間のテーラーメイドプログラムを提供するTallinn Creative Incubatorなどのインキュベーション組織も活躍しています。 タリン内の高等教育機関としては、2005年に複数の大学と研究機関の統合により設立され、現在は国内トップ3に入るTallinn Universityや、国内唯一の工科大学であるTallinn University of Technology(TalTech)があります。特にTalTechは、インキュベーション施設のMektoryや学内でのデジタル化を促進する取り組みであるTalTechDigital initiativeだけでなく、スマートなキャンパスを作り出すためのSmart City Centre of Excellenceの運営を行うことで、持続可能なデジタル社会の構築を目指しています。

最後に、、、

今回、弊社は複数の現地エコシステムプレーヤーとの対談を行い、その『コミュニティの繋がり』にも魅力を感じました。規模が小さなテックハブだからこそ、誰もがお互いを知っているというエコシステム内の広く、そして深いネットワークにより、相乗効果が生まれやすい上、日本企業のような国外からの新規参入者にとっても非常にビジネスをしやすい環境が存在するということではないでしょうか。またその繋がりは国内にとどまらず、北欧・バルト3国にも共通した意識を持っており、タリン・エストニアから周辺地域へのコネクションを広げていくことも比較的容易であると言えます。 さらにタリンへのVC投資額は現在欧州19位となっており、その優れたエコシステムと域内企業の活動密度を考慮するとその投資規模はまだ小さく、海外企業にとっても参入しやすい、新たなビジネスチャンス創出しやすい場所かもしれません。 これらの理由に加え、ビジネスインフラが整い、海外企業との提携に積極的な企業が集まるタリンは、ロンドン、パリ、ベルリンなどの大都市に目を向けがちな日本企業にとっても興味深いエコシステムではないでしょうか。 タリンのエコシステムにご興味がある方は、 info@intralink.co.jp よりイントラリンクにご相談ください。また無料配信している週刊ニュースレター「欧州イノベーションインサイト」やFacebookLinkedInの公式ページでも、欧州の最新技術・エコシステムに関連する最新情報を定期的に発信しておりますので、ぜひご覧ください。 

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、プロジェクト実行チームの一員として、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業をリードしている。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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