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欧州イノベーションハブをめぐる:第4回世界と欧州を繋ぐゲートウェイ アムステルダム

第4回目となる今回取り上げるアムステルダムでは、エコシステムを支える政府組織であるAmsterdam inbusiness及びStartupAmsterdamと、また新たに弊社のイノベーションネットワークに加わったACE Incubator、Rockstarと対談してきました。

かつての黄金時代に特徴づけられた港町

世界遺産にも認定され、放射状に街中を駆け巡る運河を中心に発展するオランダの首都アムステルダムは、17〜18世紀の黄金時代を経て築き上げた優れた交易体制により、欧州大陸への表玄関、また世界屈指の商業ハブとして発展してきました。現在同都市は、約85万人の人口とほぼ同数の自転車を抱え、世界有数のサイクリストに優しい街として知られています。

戦略的立地を活用した高度なインフラと法的整備

2018年に発表されたDHL国際連結性指標(Global Connectedness Index)において、1位に選ばれたオランダの立地を活用したアムステルダムは、欧州最大港の同国ロッテルダム港や、英仏独伊の各国主要商業都市に24時間以内にアクセス可能な上、日本からの直行便もあるスキポール空港から、中央駅まで電車で15分、市内ビジネスが集中するワールドトレードセンターまではたった7分と、アクセスの良さは群を抜いています。さらに、光ケーブルや衛星の整った通信整備や世界屈指のインターネット・エクスチェンジ・ポイントであるAMS-IXにより、デジタルハブとしても進化しています。 政府主導のR&D推奨制度では、各企業が特許を持つ無形資産の利益に7%の軽減法人税率が適用されるイノベーションボックスや、R&Dを行う企業の賃金税を控除するWBSOなどの優遇政策提供だけでなく、海外からの優れた人材には優先してスタートアップビザを発行したり、多国籍企業の駐在員に対して最大30%の個人諸国控除が認められる「30%ルーリング」制度など、海外からのタレントの集約にも注力しています。

海外直接投資をリードする小規模都市

ベンチャーキャピタルが2019年にアムステルダムに投入した資金総額は、世界第10位の約6.7億ユーロでしたが、fDi Intelligenceが昨年発表した「Tech Start-up FDI Attraction Index」(2016年から2018年の間に、人口比で最もテックスタートアップに対するFDIを受けた都市を示す指標)では、第3位につけ、比較的小さな都市にも関わらず大規模な投資を受けている点を強調しています。 またアムステルダム市のビジネス協力団体Amsterdam inbusinessによると、在蘭日本企業の約半数が同市内に拠点を構える一方、米国、中国企業の販売・マーケティング拠点も多く設置され、近年は同国からの買収案件が増えていると言います。またデジタルハブという点に目をつけたCiscoUberがEMEA全体の統括拠点、TeslaNetflixが800人以上の従業員を抱える欧州本社をアムステルダムに置いています。

都市の特徴を生かした技術分野

アムステルダムは人口の約90%が駐車場を所有していないなど、人口及び車両密度が非常に高いこともあり、デジタルハブとしての強みを生かし、スマートモビリティやスマートシティに注力してきました。電子スクーターのシェアや、駐車スペースや電気自動車の充電スポットを探すためのアプリだけでなく、水路で活躍するボート類の電動化も進んでいます。 またthe Netherlands Cancer Institute、2大大学病院の集合体であるAmsterdam UMCAmsterdam Life Sciences DistrictなどがオープンイノベーションやR&Dを率先するライフサイエンスや、欧州連合(EU)内最高額となる企業価値83億ドルが見込まれ、大企業が多く採用する決済プラットフォームAdyenを輩出したフィンテックもアムステルダムを代表するセクターです。

デジタルハブとして成長するエコシステム

2500社程のスタートアップが拠点を置くアムステルダムのエコシステムは、先に述べたAdyenや、同業欧州最大手の英Just Eatを買収したばかりのテイクアウト注文サイトTakeaway.com、世界最大のオンライン宿泊予約サイトに成り遂げたBooking.comなど、2000年以降計7社のユニコーン を輩出してきました。 スタートアップを支える組織も豊富です。アムステルダム市が支援するエコシステムビルダーのStartupAmsterdamは、2015年の設立から数多くのプロジェクトサポートや、定期的なスタートアップと大企業のミートアップを初めとした様々なリソースを提供してきました。彼らによると、初期段階で成功を収めたスタートアップも多く、今後事業を拡大していくスケールアップの成長に注目が集まると言います。 国内随一のACE Incubatorは、市内各大学及びメディカルセンターと提携し、修士号以上の学位を取得し、熟慮された独自のアイデアを持つ生徒の起業を支援しています。年2回のプログラムを通じて、ICTやソフトウェア関連を中心に約140社を輩出してきました。 自らVCアクセラレーターと名乗るRockstartは、モバイル、エネルギー、ヘルスケア、アグリフードの4つの領域で、200社以上のスタートアップ に3.6億ユーロの投資を行ってきました。またVCとして、CVCやパートナー企業と共に設立した8000万ユーロのファンドを同社のプログラムを完了した企業に投資し、更なる成長を促進しています。 エコシステムの底上げをサポートする高等教育機関では、国内最大のアムステルダム大学が、研究、教育、起業家育成の中心地として、サイエンス、ICT、インフラなどの分野で約120社のスタートアップを抱えるAmsterdam Science Parkと共に、新しいアイデアを持つ生徒のビジネス展開をサポートしています。この施設内には昨年、Innovation Center for Artificial Intelligenceも設立され、政府や各産業と共同で、人工知能の分野で優秀な人材と最新技術開発に焦点を当てた全国的な取り組みも実施されています。

新たな『E U』の中心地

世界を揺るがしたブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)は、アムステルダムにとって更なる飛躍の機会となるかもしれません。オランダ経済・気候政策省企業誘致局によると、ブレグジット決定後、既に100社以上が同国に拠点を設立、また300社以上が関心を持っていると発表しています。実際、欧州医薬品庁がロンドンから同市に移転したことで、今後ライフサイエンスに携わる企業やバイオテックスタートアップも増加すると見られ、同業界の成長だけでなく、それに伴う経済の発展も期待されています。 日本企業の移転も大きなニュースとして取り上げられました。金融分野ではMUFGの証券部門や農林中央金庫の新オフィスがアムステルダムに設置され、さらに製造業でもソニーやパナソニックがロンドンから欧州本社移転を決定し、今後益々日本との関係が深まっていくかもしれません。実は、アムステルダムには日本人学校、日本人医師や歯科医など生活しやすい環境が整っており、デュッセルドルフに並ぶ欧州最大級の日本人コミュニティが存在しています。

最後に、、、

欧州一恵まれた立地で歴史的な商業ハブとして活躍してきたアムステルダムは、好都合な優遇政策もあり大企業には元々注目されてきましたが、近年はデジタルハブという強みと地域の特徴を生かし、スマートシティなどを中心にスタートアップエコシステムを発展させてきました。またそれに次ぐライフサイエンスやフィンテックの分野への投資や発展も、ブレグジットの影響により、さらに加速すると考えられます。その結果、このポジティブな流れに乗ってアムステルダムで起業するスタートアップ やスケールアップの増加、また相乗効果によるエコシステム全体の更なる成長が期待され、特に上記分野での最新技術を発掘するには今後注目必須の都市といえるでしょう。 アムステルダムのエコシステムにご興味がある方は、ぜひ info@intralink.co.jp よりイントラリンクにご相談ください。また無料配信している週刊ニュースレター「欧州イノベーションインサイト」や弊社のフェイスブックページでも、欧州の最新技術・エコシステムに関連する最新情報を定期的に発信しておりますので、ぜひご覧ください。 著者 植木このみ

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