『英Riverlane、量子エラー訂正技術で7,500万ドルのシリーズC資金調達』、『EUのAI法、施行へ』、『双日、次世代船舶解撤技術を開発するスタートアップに出資』、『スペースシステムMuon Space、5,670万ドル調達』、『農業廃棄物をバイオ炭に変えるApplied Carbon、2,150万ドルを調達』、『サプライチェーン攻撃から組織を守るLineaje、2,000万ドルを調達』、『インドネシアEコマース大手ブカラパック、第2四半期の売上高6%増』、『AirAsia X、Capital Aの航空事業買収を年内に完了へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第95回」をお届けします。
英国拠点の量子スタートアップ、RiverlaneがシリーズCラウンドで7,500万ドルの資金を調達し、総資金調達額が1億2,200万ドルを超えたことを発表した。このラウンドには、英国のNational Security Strategic Investment Fund (NSSIF)をはじめとする多くの投資家が参加した。2016年設立の同社は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた量子エラー訂正ソリューションを開発しており、ハードとソフトが一体となることで毎秒数十億の量子エラーを訂正する能力を持つ。現存する最高クラスの量子コンピュータは、故障するまでに数百回の量子演算しか行えないが、Riverlaneのソリューションは数百万回、潜在的には数兆回のエラーフリーな量子演算を行うことが期待される。これにより、製薬、化学、材料科学、輸送などの多岐にわたる分野で量子技術の応用が現実のものとなるだろう。今回の資金調達を受け、Riverlaneは2026年までに100万回のエラーフリーな量子演算を達成するというロードマップ達成を目指している。
EUのAI法、人工知能の応用に関するリスクベースの規制が施行された。さまざまな種類のAI応用には異なるコンプライアンス要件と段階的な期限があり、大部分の規定は2026年半ばまでに完全に施行される予定だ。一般的に、AIのほとんどの用途は低リスクまたはノーリスクとみなされるため、規制の対象外となる。しかし、バイオメトリクスや顔認識、AIベースの医療ソフトウェア、教育や雇用の分野で使用されるAIなど、一部のAIは「高リスク」と分類される。また、チャットボットや、ディープフェイクの作成に使用される可能性のあるAIツールは、「限定的リスク」層に分類され、ユーザーが騙されないようにいくつかの透明性要件が課される。さらに、人間の基本的権利を脅かすと考えられる用途へのAIの利用は禁止される。違反に対する罰則は、年間世界売上高の7%、その他の義務違反には3%、規制当局への虚偽の情報提供には1.5%とされている。
双日株式会社は、オランダのCircular Maritime Technologies(以下CMT)および金属リサイクル企業のJansen Recycling Groupと共に、船舶解体技術の共同開発に関する戦略的パートナーシップ契約を締結したことを発表した。2022年設立のCMTは、廃船を巨大な切断ワイヤーでスライスやブロックに分割し、これらを鋼や非鉄金属などのコア原材料に解体する高度に自動化された環境に優しいプロセスを開発している。2000年代初頭の経済ブーム時に建造された大型貨物船の多くが近い将来に耐用寿命を迎えるが、EUの厳しい労働・環境要件を満たす国際的な造船所は不足している。さらに、世界の鉄鋼業界は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としており、より多くのスクラップ鋼が必要となる。こうした市場ニーズに対応するため、双日、CMT、Jansen Recycling Groupの3社は、造船業界で循環型経済を実現するソリューションを共同で開発していく計画である。
Muon Spaceは、Activate Capital主導のシリーズB資金調達ラウンドで5,670万ドルを調達した。同社はリモートセンシング衛星の設計、製造、運用を行うエンドツーエンドのスペースシステムプロバイダーとして、宇宙の力を利用した地球上の重要な洞察とデータを提供することを目指す。2024年にはHalo低軌道衛星のために1億ドル以上の顧客契約を獲得しており、これにはSierra Nevada Corporationとの新しい契約も含まれている。この契約では、2025年に打ち上げ予定のRFデータ収集のための3つの衛星を開発する。また、Earth Fire Allianceと協力して偽の火災を識別するFireSatコンステレーションにも取り組んでいる。NGO、慈善事業、衛星技術を結集した山火事対応対策においても、同社は今後重要な役割を果たすことが期待されている。
ヒューストン拠点のApplied Carbonは、シリーズAラウンドで2,150万ドルを調達し、農業廃棄物を安定した炭素に変換する自動技術の開発を推進していく。今回の資金調達により、同社はオクラホマ、アーカンソー、ルイジアナなどにバイオ炭製造装置を配備する予定である。農作物の廃棄物がそのまま畑に放置され分解されると、温室効果ガスが発生するが、植物をバイオ炭に変えることで、植物が成長する過程で吸収した炭素がそのまま固定されるという仕組みである。バイオ炭を畑に加えることで、土壌の健康状態も改善し、作物の収穫量を増やすことができる。複数の研究によれば、農作廃棄物をバイオ炭に変換することで、ギガトンレベルのCO2を除去できる一方、農家には数兆ドルの価値を生み出すことができるという。同社のCEOによると、現在、これらの廃棄物を低コストで変換する技術で商業的に利用可能なレベルのものはまだ存在しない。一方、同社の 「パイロライザー 」は、閉鎖された低酸素環境でバイオマスを加熱乾燥し、バイオ炭とガスを生成する装置で、変換プロセスは約2分で完了する。
Ponemon Institute発行の2024年のレポートによると、調査対象の半数以上の組織がソフトウェア・サプライチェーン攻撃を経験しており、そのうち54%は過去1年以内に攻撃を受けている。Lineajeはソフトウェアサプライチェーン攻撃を軽減するプラットフォームを開発するスタートアップであり、Prosperity7 Ventures、Neotribe、日立が共同主導したシリーズAラウンドで2,000万ドルを調達した。サプライチェーン攻撃は多くの場合、サードパーティ・ベンダーのサービスやオープンソースソフトウェアを標的とし、企業に大きな経済的損失を与える。2026年までにサプライチェーンのサイバー攻撃による損害は世界経済に810億ドルの損失をもたらすと予測されている。Lineajeは、組織のサプライチェーン内で改ざんされたソフトウェアや古くなった脆弱なオープンソースソフトウェアを検出し、適切な修正を推奨するツールを開発している。
インドネシアのEコマース大手Bukalapakは、堅調なEコマース市場の成長に後押しされ、2024年第2四半期の売上高が前四半期比6%増の7,645万ドルに達したと発表した。2010年設立の同社は、包括的なEコマース・プラットフォームを運営し、インドネシア全土で数百万名のユーザーベースを持つ。同社の第2四半期の調整後EBITDA(利息・税金・減価償却前利益)は-41億ルピアで、前年同期からは大幅に改善された。マーケットプレイス部門は26%の成長を記録し、オンライン・ツー・オフライン(O2O)部門も前年同期比17%の成長をみせた。これは商品ポートフォリオの拡大とサービスの強化が要因であり、上半期のグループ収益の50%を占めた。同社は、この収益で事業規模を拡大し、消費者向けの価値提案を強化し、コスト効率と持続的成長を促進するための技術投資を継続する計画である。ラマダンの季節的な影響により第2四半期は厳しい結果となったが、同社は収益性と長期的な価値創造に引き続き注力していく計画だ。
マレーシアを拠点とする格安航空会社AirAsiaXは、年内にCapital A Berhadの航空事業を68億MYR(約14億9,000万ドル)で買収する予定であることを発表した。この買収には、Capital Aが保有する AirAsia Aviation Group Limitedおよび AirAsia Berhadの全株式が含まれる。これにより、AirAsiaブランドの下で統合された航空グループが形成され、ASEAN地域最大の格安航空会社としての地位が強化される。AirAsia X の株主は、30億MYR(6億5,600万ドル)の新株発行を通じて、成熟した航空事業の所有権を得ることになる。この統合により、運営およびコスト効率が向上し、地域の旅行需要の増加に伴い、シームレスな旅行体験が提供される見込みだ。今回の買収は、世界の航空業界の主要プレイヤーになるという同社のビジョンに沿ったものであり、収益源の多様化とコスト削減による財務業績の改善が期待される。
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