『Toyota Open Labs、新たなイノベーションプログラムの選抜スタートアップ6社を発表』、『エネルギーグリッドスタートアップFlower、2,500万ユーロ調達』、『住友商事、「モノパイル」製造最大手EEW社に出資』、『Halda、固形がん治療薬の臨床導入に向け1億2,600万ドルを調達』、『シリーズA で1億ドル調達のDevRev、企業価値は11億ドルに』、『AI向けデータ開発ツール提供のEncord、3,000万ドルを調達』、『Crypto.comとUEFAチャンピオンズリーグ、パートナーシップを発表』、『Grab、第2四半期の売上高が前年同期比17%増』を取り上げた「イノベーションインサイト:第97回」をお届けします。
ベルギーを拠点とするToyota Open Labsは、新たなオープンイノベーションプログラムの第1期コホートに選出したスタートアップ6社を発表した。選ばれたのは、Andyamo(歩行者および障がい者向けの旅行計画ソフト)、Okeenea(障がい者のための移動支援)、Genny Mobility(電動二輪車)、hlpy(デジタルなロードサイドアシスタンスソリューション)、Hive Power(V2G技術を使用したグリッドバランシング)およびShippeo(サプライチェーンの可視化)であった。これらのスタートアップは、9月にパリで開催されるToyota Open Labsのデモ・デーで、自社の取り組みを発表する予定であり、トヨタの各事業部門と共同開発したプロジェクトを披露する。23年に設立されたToyota Open Labsは、エネルギー、循環型経済、カーボンニュートラル、スマートコミュニティ、Mobility for all(移動が困難な人々向けのモビリティーソリューション)といった5つの主要分野を中心に展開されており、トヨタグループの事業部門とスタートアップ企業を結びつけ、イノベーションを促進することを目的としている。パートナーには、同グループ傘下の総合商社Toyota Tsusho Europe、モビリティブランドのKINTO Europe、グロースステージのスタートアップ投資に特化したVCのWoven Capital、非営利財団のToyota Mobility Foundationが名を連ねており、幅広い支援体制を整えている。
スウェーデンのエネルギー関連スタートアップFlowerは、エネルギー取引と最適化ソリューション事業拡大のため、シリーズA資金調達ラウンドで2億9,000万スウェーデン・クローナ(約2,500万ユーロ)を調達した。2020年に設立された同社は、バッテリーなどのエネルギー資産を管理するソフトウェアを提供しており、電力網の安定性と適応性の確保、エネルギー資産の収益化・取引などをサポートする。同社は4月に、スウェーデン最大のバッテリーパーク(容量42.5 MW/42.5 MWh)を買収し、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)分野へも進出した。Flowerのソリューションに対する需要は増加しており、2024年の売上は2023年の5倍にあたる5億スウェーデンクローナ(約68億円)に達する見込みだ。再生可能エネルギーの割合が増える中、このニュースはスマートグリッドを実現する最適化ソフトの重要性が一層高まっていることを示している。
住友商事は、ドイツに拠点を置くEEW Offshore Wind EU Holding(以下「EEW社」)への出資を発表した。EEW社は1936年に設立され、モノパイル(着床式洋上風力発電の基礎構造物)の世界的なメーカーとして知られている。欧州の洋上風力発電市場は、2030年に164GW、2050年には549GWに達すると予測されており、それに伴ってモノパイルの需要も増加し、2023年の年間65万トンから2026年には100万トンを超えると見込まれている。住友商事は2000年代からEEW社と協力関係を築いており、今回の出資により、欧州の洋上風力発電市場でのプレゼンスを一層強化し、増加するモノパイル需要を取り込むことが可能になる。一方、EEW社にとっては、国際鉄鋼市場に精通した強力な戦略的パートナーを得ることとなり、さらなる成長が期待される。
Halda Therapeuticsは、Taiho VenturesとConnecticut Innovationsを含む新規および既存の投資家の参加を得て、最新の資金ラウンドで1億2,600万ドルを調達した。同社は現在までに2億200万ドルを調達したことになる。固形がん治療薬でターゲット細胞を狙って死滅させる”hold & kill”がコンセプトの、RIPTAC (Regulated Induced Proximity Targeting Chimeras) 療法の臨床導入に注力していく意向だ。これは、がん特異的タンパク質と必須機能を持つタンパク質の2種類を標的とする機能性分子が三元複合体を形成し、必須機能を止めることで最終的にがん細胞を死滅させる療法で、非がん組織を温存しながらがん細胞を「選択的に」消滅させることが期待されている。また、経口投与が可能であり、進行がん患者のみならず、早期のがん患者も治療できる可能性が大きく期待されている。転移性前立腺がんを対象とした第1相臨床試験を来年開始する予定だ。
AIネイティブプラットフォームを提供するDevRevは、シリーズA資金ラウンドで1億800万ドルを調達、評価額は11億5,000万ドルに達した。 DevRevは、企業が生成AIを効果的に運用するためには、顧客、プロダクト、スタッフ、セッションなどの情報を相互にリンクした「ナレッジグラフ」が強固であることが重要だとしている。このナレッジグラフは、レガシーシステムからリアルタイムでデータが継続的に供給される仕組みになっており、AgentOSプラットフォームとその上で動作するデータレイヤーで構成されている。顧客との会話やセッション分析といった構造化・非構造化データを分析することで、カスタマーサービススタッフ、サポートエンジニア、プロダクトマネージャ、ソフトウェア開発者の業務を改善する役割を果たす。市場投入から1年強で、すでに1,000社以上の企業が利用している。
Encord は、Next47主導のシリーズBラウンドで3,000万ドルを調達した。同社が提供するラベリングとアノテーション・プラットフォームは、生成AIモデルほど注目を集める領域ではないものの、AIモデルの学習に不可欠な存在だ。多くのAIモデルは、正確にラベリングされたデータで学習する必要があり、そのために数千から数百万ものアノテーションが求められる。 Encordは、創業者のソフトウェア開発と定量的研究の知識を活かし、データ開発を自動化することで、企業がAIモデル用のデータを効率的に管理・準備できるよう支援している。彼らのツールは、AIモデルにとってデータがどれだけ効果的に機能しているかを評価することも可能である。現在、Philips、AIのSynthesia、ヘルスケアのCedars-SinaiやNorthwell Healthといった大手企業や政府機関を含む120の顧客を抱えている。
シンガポールを拠点とする暗号通貨取引所Crypto.comは、欧州サッカー連盟(UEFA)と複数年契約を締結し、UEFAチャンピオンズリーグの初の独占的なグローバル暗号通貨プラットフォームパートナーとなることを発表した。この提携により、Crypto.comは公式グローバルスポンサーとしての位置付けを強化し、2024年8月14日に開催されるUEFAスーパーカップで最初のプロモーションイベントが披露される予定だ。このパートナーシップは、スタジアム内でのプロモーション活動や革新的な広告キャンペーンを通じて、サッカーと暗号通貨体験を統合し、ファンのエンゲージメントを高めることを目的としている。2016年に創業したCrypto.comは、すでに1億名以上のユーザーを抱えており、F1やFIFAワールドカップなどの注目度の高いパートナーシップを通じて、スポーツおよびエンターテインメント分野でのプレゼンスを拡大している。一方、サッカーへの再投資に尽力するUEFAは、このコラボレーションを通じて、新しいテクノロジーをファンやコミュニティのエンゲージメントに取り入れる絶好の機会と考えている。
シンガポールに本社を置くスーパーアプリ(複数の機能やサービスを統合したアプリ)のGrabは、2024年第2四半期の売上高が前年同期比17%増の6億6,400万ドルに達したと報告した。すべての事業セグメントで大きな成長を記録し、営業損失は5,600万ドルに縮小、グループ調整後EBITDAは前年同期のマイナス1,700万ドルから6,400万ドルに改善された。特に、フードデリバリー事業と広告事業の需要に支えられた配達収入は11%増の3億5,600万ドルとなり、モビリティ事業の収入も取引件数とユーザー数の増加により19%増の15億8,000万ドルを記録した。同社は今年度の見通しに関して、売上高は27.5億ドルに上ると予測しており、2024年度通期での調整後フリーキャッシュフローの黒字化を見込んでいる。CEOのAnthony Tan氏は、記録的な月間取引ユーザー数4,100万人を達成し、収益成性の改善と継続的な成長を続けていることを強調した。
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