『スタートアップとVCの2024年最新レポート「欧州における電化」』、『ミュンヘンReverion、再生可能エネルギー発電所の量産に向け5,600万ユーロ調達』、『スウェーデンのSweGreen 、スーパーマーケット内で野菜栽培』、『3D空間を意識したAI構築目指すWorld Labs、2億3,000万ドル調達』、『持続可能な航空スタートアップZeroAviaが1.5億ドル調達』、『保険認証の革新を目指すNirvana、2,420万ドル調達』、『シナルマスとLG CNS、インドネシアでデジタルソリューションを提供する合弁会社を設立』、『AT&Tら大手グローバル通信リーダー、ネットワークAPIの強化に向け提携』を取り上げた「イノベーションインサイト:第101回」をお届けします。
世界のエネルギー消費の大部分は依然として化石燃料が占めており、電力はわずか20%に過ぎない。しかし、電化は輸送、建築、産業などの分野に革新をもたらす可能性がある。DealroomとSAPが発表したヨーロッパのエネルギーと電化に関する新レポートによると、2020年以降、ヨーロッパのエネルギーおよび電化セクターはVCから400億ドルの資金を調達し、これは気候テックVC全体の62%を占めている。2023年から24年のVC資金調達のトップセグメントは、EVバッテリー(91億ドル)、太陽光エネルギー(82億ドル)、グリーン水素生産(56億ドル)である。ヨーロッパのスタートアップは、輸送(スウェーデンの電気トラックEinrideなど)、建築(ドイツのヒートハンガープロバイダーAira)、産業用加熱(ノルウェーの熱エネルギー貯蔵プロバイダーEnergyNest)といった複数の分野で電化を進めている。また、地域別の分析では、欧州はヒートポンプ、熱エネルギー貯蔵、スマートグリッド、EV充電の分野で最も多くのVC投資を集めている。一方、中国はEV製造および定置型エネルギー貯蔵でリードしており、米国では産業用電化、原子力、地熱分野でVC投資のシェアが最も高い。欧州の電化への取り組みは、今後もスタートアップとVCの支援を受けながら、さらなる成長が期待される。
ドイツのスタートアップReverionは、シリーズAラウンドでホンダ自動車を含む投資家から5,600万ユーロの資金調達を実施した。2022年にミュンヘン工科大学のスピンオフ企業として設立されたReverionは、バイオガスを利用した固体酸化物形燃料電池(SOFC)ベースの発電所を開発しており、従来のガスエンジンに代わる発電効率最大80%という高効率を実現している。また、発電時に発生するCO2を回収することで、バイオガスからの発電をより持続可能なものにしている。さらに、この発電所は余剰電力を再生可能な天然ガスやグリーン水素に変換することも可能である。主要顧客は農業従事者や産業プレイヤーであり、今回の資金調達は発電所の量産を開始し、すでに受注している1億ドル超のプレオーダーに対応するために使用される。日本や米国の新しい投資家の支援を受けて、グローバル展開も加速している。
スウェーデンのスタートアップ企業SweGreenは、スーパーマーケット内で持続可能に野菜や果物を栽培する垂直農場を構築している。2019年に設立されたSweGreenは、水耕栽培方式を採用し、土を使わずに水で植物を育てる。この方法により、最大3ヘクタールの農地に相当する食糧を栽培できる。現在、レタス、ディル、ミント、パセリなど100種類の作物を栽培可能で、将来的にはイチゴなど果物を追加する計画もある。スウェーデンのICAやドイツのパートナーと協力し、すでにこのソリューションが導入されている。また、顧客は店内で野菜が成長し、収穫される様子を目の前で見ることができるという新たな体験も提供している。さらに、スーパーマーケットだけでなく、ストックホルムにある写真現代美術館Fotografiska Stockholmでもこの技術が採用され、季節感のある持続可能なメニューを提供する高級レストランで使用されている。
スタートアップWorld Labsは、3D世界を「認識、生成、対話」する大規模ワールドモデル(LWM)を構築するために2億3000万ドルを調達した。この資金調達ラウンドはAndreessen Horowitz、NEA、Radical Venturesが主導した。同社は、AIモデルを2Dのピクセルから仮想および現実の3D世界へと進化させ、人間並みの空間知能を持たせることを目指している。World LabsはAIのパイオニアであるFei-Fei Liをはじめ、コンピュータビジョンやグラフィックスの専門家3人によって設立された。彼らが開発する基盤モデルは、3Dインタラクティブな世界を生成し、設計からゲーム、視覚効果、AR/VR、ロボティクスまで幅広い分野に応用が期待されている。
持続可能な航空技術を手がけるスタートアップZeroAviaは、AirbusやBarclays Sustainable Impact Capitalが主導するラウンドで1億5000万ドルを調達した。Scottish National Investment BankやAmerican Airlines、伊藤忠商事なども新たに投資を行っている。航空業界は化石燃料からの移行が特に難しい分野で、毎年排出される温室効果ガスの2.5%を占めている。ZeroAviaは、水素電気飛行機の技術を開発しており、航空機メーカーや航空会社から2000件を超えるエンジンや部品の注文を受けている。同社はカリフォルニアと英国に拠点を置き、ワシントン州に大規模な製造施設を有しており、英国でもさらなる製造能力の拡充を目指している。
ML/AIを活用して健康保険の検証と適用の可・不可に透明性をもたらすヘルステックNirvanaは、Northzone主導のシリーズA資金ラウンドで2,420万ドルを調達した。同社は、1970年代に請求業者と長時間に及ぶ電話のやり取りがベースとなって構築された「時代遅れ」の保険データ構造を、現代的な認証基準へと変革することを目指してる。同社の技術は、AIを駆使して即時の保険認証と正確なコスト見積もりを提供し、患者や医療提供者に大きなメリットをもたらす。APIやEHR/EMR統合、ウェブ/モバイルアプリ「OneVerify」を通じて利用可能なこのシステムは、データ入力や品質エラーがあっても正確な結果を引き出すことができる。
インドネシアのコングロマリットSinar Mas と、韓国のDXにおけるリーダーである LG CNS は、インドネシアのデジタル変革を加速するこにに、合弁会社「LG Sinar Mas」を設立した。最初の主要プロジェクトは、南ジャカルタの中央ビジネス地区に建設される最先端のデータセンターで、総額10.7兆ルピア(7億ドル)規模の投資が行われ、2027年までに完成予定である。このデータセンターはAI対応を前提に設計されており、韓国企業、特に銀行セクターやSinar Mas グループ内の企業をターゲットとしている。この取り組みは、LG CNSのデジタル技術の専門知識とSinar Masのインドネシア市場での強力な基盤を結びつけ、2027年にはインドネシアの市場規模が71億ドルに成長すると見込まれている。LG Sinar Masは、スマートシティ開発や金融サービス向けITサポート、クラウド移行にも拡大し、インドネシアの経済成長と技術進歩に貢献するITソリューションプロバイダーを目指す。
Singtel、AT&T、Verizon、Vodafoneなどの大手通信事業者と Ericssonが、デジタルサービス提供を促進するため、ネットワークAPIを統合するグローバルベンチャーを発表した。この新たなイニシアティブは、通信事業者のネットワークAPIが単一のプラットフォームで提供されることで、開発者がこれまでアクセスできなかった高度なネットワーク機能を利用できるようにすることを目的としている。これにより、開発者は、認証システムや動的なビデオ品質の調整といった新たなアプリケーションをより簡単に開発できるようになる。また、VonageやGoogle Cloudとの提携を通じて、これらのプラットフォーム経由で開発者は多様なネットワークAPIにもアクセスできるようになる。この新しく設立されるベンチャーは2025年初頭に稼働開始予定であり、GSMA Open Gatewayの原則に基づき、開発者に対して公平場アクセスを提供し、通信事業者にとって新たな収益源を創出する。
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