『DeepDrive、EVモーター向けに3,000万ユーロを調達』、『Stegra、グリーンスチール工場建設に1億ユーロの助成金確保』、『エコシステム強化に向け120億ユーロ規模のイニシアティブ発表』、『CO2からサステナブル航空燃料製造、Twelveが約6.4億ドル調達』、『自律型電動航空機の規模拡大を目指すPyka、4,000万ドル調達』、『Dandelion Energy、地熱事業拡大に向け4,000万ドルを調達』、『AirAsia、エアバスと提携し航空業界の持続可能性を加速』、『Mobee、中古車市場活性化に向けシード資金確保』を取り上げた「イノベーションインサイト:第102回」をお届けします。
電気自動車用モーターを開発するドイツのDeepDriveは、BMW i VenturesやContinentalの企業ベンチャー部門であるco-paceなどの投資家から、シリーズBラウンドで3,000万ユーロの資金を調達した。2021年設立の同社は、特許取得済みのデュアルローターモーター技術により、従来のソリューションと比べて20%の効率向上を見込んでおり、自動車メーカーが航続距離800km以上のEVの大量生産に加え、広範導入により、10億ユーロ以上のコスト削減を実現できるという。これにより、消費者にとっては内燃機関車(ICE)とEVの価格差が半減する見込みとなる。同社は現在、世界トップ10に入る自動車メーカー8社と共同で技術開発を進めており、今回の調達資金はその開発および生産の拡大に充てられる。なお、DeepDriveは、2028年までの量産化を目指している。
ストックホルム発Stegra(旧称H2 Green Steel)は、スウェーデン北部ボーデンにほぼCO2排出量ゼロを実現する鉄鋼生産施設を建設するため、同国政府から約1億ユーロの助成金を受け取った。2020年に設立された同社は、鉄鋼業界の脱炭素化を目指してグリーン水素を利用した技術を開発しており、今年初めには、欧州委員会からの2億6,500万ユーロにのぼる資金調達も発表されている。このボーデンの新工場は、690MWの電気分解能力で水素を生成、年間210万トンのスポンジ鉄(海綿鉄)および250万トンの鉄鋼を生産予定だ。さらに、2030年までには年間500万トンまで鉄鋼の生産能力を拡大する。このグリーン鉄鋼は、従来の鉄鋼生産方法と比べて二酸化炭素排出量を93%削減する見込みであり、業界全体に大きな変革をもたらすと期待されている。
ドイツ政府は、国内スタートアップシーンを強化するため、2030年までに120億ユーロを投資することを発表した。この「WIN initiative」と名付けられたプログラムには、Deutsche Bank、Allianz、Deutsche Telekom、AXA Deutschlandなどの公的および民間組織から資金が投入されている。従来、ドイツの保険会社や年金基金はベンチャーキャピタルへの投資に消極的であったため、特に大型資金を必要とするレイターステージ企業の資金調達に影響を与えていた。そんな中、今回のイニシアティブは、毎年約300億ユーロのイノベーション資金が必要とされるドイツにおいて、重要な一歩となる。また欧州内における同様の政府主導の取り組みには、フランスのTibi programmeがあり、2020年から2022年にかけて60億ユーロ以上の機関投資家資金が国内エコシステムに投入された。Tibiは次のステップとして、さらに70億ユーロを投資することを目指している。
二酸化炭素を分解し、化学物質、燃料、その他化学製品などに変換するTwelveが、6億4,500万ドルを調達した。これには、プロジェクトエクイティ4億ドル、シリーズC資金2億ドル、さらに三井住友銀行を含む大手出資者からのクレジット供与4,500万ドルが含まれる。合成燃料である「e燃料」分野において最大規模となった今回の資金調達により、同社は、航空機の排出ガスに焦点を当てつつ、製造工程の脱化石燃料化の加速を目指す。これには、ワシントン州で2025年に生産開始予定のTwelve初、持続可能航空燃料(SAF)プラントであるAirPlan Oneの完成が含まれる。これは同社の特許技術を使用して、生物由来のCO2、水、再生可能エネルギー源から、ライフサイクル排出量を従来の化石燃料ジェット燃料と比較し最大90%削減可能なSAFを生成する、Eジェット燃料製造施設として全米で初めて建設されるプラントとなる。
カリフォルニア州発Pykaは、Obvious Venturesが主導し、Y Combinatorなどが参加した最新のシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達した。2019年設立のPykaは当初、広大な農地での農薬散布に重点的に取り組み、パイロットや遠隔操作するオペレーターによる危険な作業の軽減に貢献してきた。その後は200キロ程の貨物を搭載可能な電動飛行機Pelican Cargoで、地域コミュニティをサポートすることにフォーカスしている。この技術は、その過程で米国防総省の目に留まり、同社最大の顧客として迎え入れるに至った。今回の資金調達は、環境にやさしいデュアルユースの自動飛行機の将来性と、防衛業界における自律航空機に対する関心とニーズの高さが明るみに出る機会となったと言える。またPykaによると、現在納品されている航空機および収益の大部分は防衛業界のパートナーに関連しており、今後数年間もこの傾向が続くと予想されている。
バージニア州アーリントンを拠点とする家庭用地熱エネルギー企業Dandelion Energyは、Google Venturesが主導、Breakthrough Energy Venturesなどが参加したシリーズCラウンドで4,000万ドルを調達した。 同社によると、国内大手の住宅建設業者や集合住宅開発業者が完全電化住宅の建設にシフトする中、建設業者が冷暖房設備を選定する際、高品質で最も低コストの選択肢としてDandelionの製品を選択する傾向にあるという。空気中から「熱だけ」を集め、必要な場所に移動させるヒートポンプだが、発表されたばかりのDandelion Geoは、業界標準機関AHRIも認める最高の暖房性能を実現する。なお、今回の調達資金は、画期的なヒートポンプ技術の設置業者や住宅所有者に提供、また住宅メーカーや集合住宅開発業者向け大型プロジェクトの全国展開推進に充てられる予定だ。
マレーシアに本社を置くCapital Aの格安航空会社AirAsiaは、欧州の航空機メーカーAirbusと、ASEAN地域における二酸化炭素排出量削減を目指し、航空サステナビリティイニシアティブの研究推進に向けた長期的なパートナーシップを締結した。両社は、持続可能な航空燃料(SAF)の分散型生産を共同で模索するため、サステナビリティ部門間で覚書を交わし、東南アジアにおける代替原料と技術を活用した革新を目指す。さらに同覚書では、AirAsiaの燃料効率プログラムと、航空宇宙および関連サービス分野におけるAirbusのリーダーシップを活用し、航空交通管理(ATM)の効率改善に向けた調査も進める。具体的には、SSingle European Sky ATM Research(SESAR) Projectで開発された技術ソリューションをASEAN地域に適用する可能性を探ることが目標とされている。
フィリピン、マレーシアおよびインドネシアで中古車販売プラットフォームを展開するMobeeは、Kaya Foundersが主導するシード資金を調達し、フィリピンの中古車市場を活性化することを目指す。今回の資金調達により、Mobeeは中古車取引における透明性、信頼性、効率性を高める革新的なソリューションを導入し、同国の中古車市場における課題解決に向けた取り組みを強化する。 Mobeeはすでに4万人近い顧客と約1,000人の認定バイヤーを擁しており、そのユーザーフレンドリーなプラットフォームにより、購入と販売のプロセスが簡便化されている。また、過去1年間でユーザーベースを3倍に増加しており、市場のニーズに応える力強い成長を示しているという。Mobeeは、年末までに総取引額3,000万ドルを目指し、東南アジア全体で600億ドル規模の中古車市場を活用する計画だ。さらに、Mobeeの主要機能の一つである独自の価格設定計算機は、リアルタイムの市場分析を提供し、中小企業がダイナミックに価格戦略を調整できるようにする。このツールにより、売り手と買い手の双方に最大の価値を提供し、効率的な取引を支援している。
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